表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

328/962

第13時限目 血縁のお時間 その12

 私は目の前の、店長さん手づから置かれた飲み物を凝視ぎょうししながら、


「あ、ありがとうございます」


 と肩を強張こわばらせて頭を下げた後、


「それではしばらくお待ち下さい」


 と下がる店長さんに再び頭を下げた。


 ……き、緊張した……!


 周囲の誰かが止めに入るとか、あわよくば岩崎さん本人が登場してくるのでは? とかを考えていたりもしたけれど、流石に店長さんが出てくるという展開は想像していなかったから、全身冷や汗をかいた。


 そして、向こうに非があると主張したいところではあるけれど、お店側としてはこんな傍迷惑はためいわくな状況を作った上に、仕事中の岩崎さんを呼び出すという行為までする私が来たことで、友達である岩崎さんのその後の待遇たいぐうに影響があるのではなどと、今更ながら考えを巡らせても後の祭りだよね。


 ええい、もうどうしようもないことを悩んでも意味がない。


 今後のことも考えて、後で謝ろう。


「……準、何したの?」


 私が、よし頑張るぞ、みたいな意気込みのままに両方の拳を握ったところで岩崎さんが登場した。


 それも私服で。


「え?」


 この「え?」には、少なくとも2つ以上の疑問文が隠れている。


 まだお仕事中だったはずなのに、何で私服なの? っていう疑問文とまゆひそめた岩崎さんの言葉の内容に一瞬理解出来なかったという内容の疑問文。


 ……あ、それと「あれ、もしかして私、早速土下座しなきゃいけない感じ?」っていう疑問文も追加で。


 周囲にあまり聞こえないよう、小声で岩崎さんが尋ねる。


「店長が突然呼びに来たと思ったら、真剣な顔で私に『お友達が呼んでいますよ。今日はもう上がって良いですから』って言った後、めっちゃ笑顔で『それと、誠実そうで良い友達を持ちましたね』って。準、何したの?」


「……」


 どうやら、少なくとも店長さんには悪い印象をもたれなかったようで、一瞬口から飛び出しかけた心臓を飲み込むことが出来た私は、どうやらまだこの地上に残っていて良いらしいと安堵あんどした。


 生きてるって素晴らしい。


 ……いや、流石にそれは大袈裟おおげさだけれど。


 あまり、立ち話させるのもあれなので、手短にさっきの事情を話し、手元にあった携帯を渡した。


「なるほどねえ……。まあ、確かにアレは前々から私が気に食わないみたいな感じではあったけど、準にまで食って掛かるとか、マジで許せん」


 岩崎さんの眉が縦一直線になるんじゃないかって心配するくらいに傾いた。


 でも、私はもっと別の心配をしている。


「いや、私は良いんだけど、あの子、その内岩崎さんに何かやらかしそうで……」


 あの女子みたいなタイプは、特に店長さんみたいな偉い人の前で恥をかかされたら、数倍の仕返しを仕掛けてきてもおかしくない気がするけれど、かといって私の家まで追ってきてどうこうするまでの行動力があるかというと……うーん、どうだろうね? というところ。


 それよりは、そんな私と仲が良いということと、バイト中でもどうやら因縁がありそうな岩崎さんに「あいつがあんなやつ連れてきたから!」みたいな八つ当たりするような気がする。


「何にせよ、気をつけておいて」


「ん、ありがと」


 にぱっ、と笑った岩崎さんに、忘れないよう続けて言う。


「あ、それと何か総一くんが言っていたけど、お母さんがケーキ屋さんでケーキ注文してるから、帰りに取ってきてって」


「ケーキ?」


 岩崎さんの脳内に三点リーダーが数個蓄積した後、


「……あー、もしかしてあそこのかな? あ、コミュー来てる……お、やっぱり」


 そういえば、総一くんにケーキ屋さんの名前とか聞き忘れた! と思ったけれど、どうやら岩崎さんも知っている場所らしいのと、ちゃんと連絡は入れてくれていたみたいだから良かった。


 しかし、岩崎さんはお母さんとコミューしてるんだ。


 そういうのって普通なのかな?


「んじゃ、帰りに寄っていこっか。もちろん、準も手伝ってくれるよね?」


「うん」


 2人でお店を出てすぐ、


「でも準、これだけのために来てくれたの? 一旦、あたしが戻ってからでも良かったんじゃない?」


 頭の上で腕を組んで言った岩崎さん。


「そういえば、何でここまで来たんだっけ……?」


 数十分前の情報を引っ張り出そうと、しばらく記憶回路を何度も切り替えた私が得られた結果は、


「あ、そういえばついでにコンビニに寄って、お醤油しょうゆも買っていかないといけないんだった」


 という事実で、完全に脳内からすっぽ抜けていたお醤油の存在が、先程脳内の作業リストに追加された。


「あれ? まだ醤油残ってなかった? 確か、あたしがお昼に出てきたときには残ってたはずだけど」


「岩崎さんのメモ通りに夕食の準備してたら切れちゃって」


「ん? ……あー、そういや煮物系もお願いしてたんだっけ。それなら切れても仕方がないか。この時間なら……いつものスーパーがまだ開いてるはず。よし、そっち行こ。コンビニだと同じサイズでも結構値段高いし、勿体無もったいない」


 私なんかは、別にコンビニに売ってるならそれでいいんじゃない? って思ってしまったけれど、岩崎さんはお金周りもしっかり計算していたりするし、調味料の残量とかの把握とかも含めて、何というか……お母さんだよね。


 私が単純に考えなさすぎなのかもしれないけれど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ