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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第13時限目 血縁のお時間 その11

「いらっしゃいませぇ~」


 ホール担当の女の子の、鼻に掛かったような声に迎えられた後、


「何名様ですかぁ~?」


 と尋ねられたので、岩崎さんに用事があると素直に伝えるか、一旦席に通してもらってから様子を見るか考えてから、控えめに人差し指だけを立てた。


 ……ん?


 何かこの子、見たことがあるような。


 気のせいかな、とかぶりを振った私が通された席はお店の端、フロア内を見渡せる良条件の位置なのだけれど、肝心の岩崎さんは見当たらない。


 忙しくて厨房ちゅうぼうに……というほど、お店に人が入っている様子にも見えない。


 あれ、もしかしてもう帰ってる?


 入れ違いかもしれないと思ったから「ご注文はぁ~?」とさっきの女の子が来たから、


「アップルティー1つ。それと……岩崎真帆さんは、今日こちらには?」


 と聞いてみた。


 すると、注文を取っていた女の子の顔が、


「岩崎真帆? ……ああ、アイツか」


 と見るからに不機嫌な表情に変わった。


 それと同時に、私の脳内にピンと張り詰める糸のような感覚。


 ……思い出した!


 星野さんにお手洗いで水を掛けた女子だ……!


 ということは、もしかして岩崎さんの様子を見に来たとき、かげで悪口を言っていた片割れはこの女子だったのかもしれない。


 さっきみたいな営業スマイルでは気づかなかったけれど、今の心底嫌そうな表情で思い当たった。


「で、アイツに何か用?」


 雑に水の入ったコップを置く態度は明らかにお客さんにとるものではないけれど、それよりも今は岩崎さんに会う方が重要だから、私は一瞬カッと脳に上りかけた血を押し下げるように、テーブルの下で自分の手のこうつねってから言った。


「彼女、携帯を忘れていたせいで、ご両親から連絡が取れないって不安がる連絡が入っていたから、様子を見に来たの。彼女は何処?」


 当たらずといえども遠からずな回答の私に対して、


「さあ、事務所じゃない? これから忙しくなる時間なのに事務所に引っ込んで、サボってんのかもしんないけどさー」


 話をするのも面倒とばかりに、そのホール担当の女子は言った。


 ……ああ、もう何から何まで人の神経を逆なでする……!


 坂本先生秘伝の『イライラしたら手の甲を抓ってみよう大作戦』のお陰で、何とか大声を出すとか横柄おうへいな態度をとるという、やってはいけないラインの手前で踏みとどまっているけれど、私自身いつまでこう、大人しくしていられるか分からない。


「岩崎さんを呼んでもらえます?」


 再び、満面の笑みで言う。


「は? 何で?」


「さっきお話しした通り、ご両親に連絡を入れるために、彼女が居ることを確認したいのと、携帯電話を渡したいからですよ。まあ、バイト中に操作は出来ないと思いますから、連絡の方は私からしておきますが」


 冷静に答えた私に、またホール担当の女子がみ付く。


「いや、何でアタシがやらなきゃいけないワケ?」


「今、ここに貴女あなたが居るからです。他の方に頼めと言うのであれば、呼んでいただければ」


「は? アタシはただ注文取りに来たんだけど? 早く注文してよね」


「何を言っているんですか? さっき注文したばかりじゃないですか」


 にっこり、と笑顔を全力で顔に貼り付けて、私は言う。


「してないでしょ」


「いえ、していますよ?」


「してないって!」


 バン! と机を目の前で叩いたバイト女子の後ろ。


「いかがなさいましたか?」


 丁寧ではあるけれど、芯の強そうな女性の声が、バイト女子の背後から聞こえた。


「げっ、店長……」


「お客様、いかがなさいましたか?」


 キリッとしたスーツ姿の女性が、しゃがみ込まない程度に腰を落とした女性が、私に目線を合わせて言う。


「いえ、先程注文をさせていただいたのですが、彼女が注文していないとおっしゃるので」


「してねーし……」


 負け惜しみみたいに言うホール担当の女子をちらりと見やってから、頭を下げた。


「大変失礼しました……沢桐さわぎりさん、5番テーブルを拭いてきてください」


 先程店長と言われていた女性がそう指示を出す。


「…………」


 最後に私を一瞥いちべつしてから、顔を背けて沢桐と呼ばれたその女子は去っていった。


 その姿を確認してから、深々とお辞儀をした女性に、


「大変、申し訳ありませんでした」


 私は首を振って、


「いえ、構わないです」


 と笑顔を返す。


 別に、この店長さんが悪いわけではないし、何とか私自身も一線を超える前に踏みとどまれたし。


「無礼のおびに、何でも構いませんので無料にてお持ちします」


 単にあの女子と言い合いになっただけなのに、あまりに大げさな話になってきてしまったから、


「い、いえいえ、それほどのことではないですので!」


 むしろ恐縮きょうしゅくしてしまった私は、両手をぶんぶん左右に振る。


「こちらで働いている岩崎さんのご両親が、連絡が取れなくて困っているとお話があって。どうやら携帯電話を忘れていたようでしたので、届ける際に軽くお茶でもさせて頂こうと思っただけです」


 私の言葉に、三度みたび深くお辞儀をすると、


「承知しました。岩崎を呼んでまいります。また、お飲み物ですが、こちらはサービスさせてください。何がよろしいですか?」


 たおやかな動きでそう言われた私は、


「……それでは、あっ、アップルティーで」


 何故か、噛みながらそう答えた。


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