第13時限目 血縁のお時間 その10
とはいえ、もうしばらく時間があるから料理のことは置いておくとして、再び総一くんに誘われて、ゲームに戻る私。
だんだんコツを掴み始めてきたのと、探究心というか解析癖というか、そういうものからコンピューターの動きを読み取る努力をしていた私は、ようやくキャラクターの動きに慣れてきたからか、少しずつは戦いになるようになってきた。
まあ、もちろん分かったからと言って、すぐにどうにかなるわけではないのだけれど、最初よりは楽しみ方が分かってくると、少し熱が入ってきてしまい、総一くんが夢中になるのも分かるなあと思っていたら、
「そろそろ準備しないとじゃないかなー?」
と様子を窺う片淵さんの声が。
時計を見ると、確かにそろそろ宜しい頃合いになっていて、私自身こんな時間になるまで熱中していた驚きと、遊んでばかりだったことに申し訳無さを覚えて、岩崎さんのエプロンを借りて、よしやるぞと気合を入れたところ。
「包丁の握り方はこうで……」
「ふむふむ」
調理に必要な基本的な情報は正木さんが大体把握していたし、言われながらそういえば学校で家庭科なる科目があったという古びた鍵を脳内で見つけた私は、鍵穴に差し込んでがちゃりと回したお陰で、記憶の箱が開いた気がした。
ただ、残念なことに、丁寧に鍵を掛けてしまっていた割には中身はほぼゼロに近い状態だったので、結局正木さんに教えてもらって作業をしていた。
……そう、作業をしたのは基本的に私。
何故そうなるかというと。
「猫の手……猫……あいたっ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はいぃ……」
こう言っては、頑張っている本人に対して申し訳ないと思う。
……思うけれど、正木さんは、その、思った以上に不器用だった。
もう、小説とかで出てくる典型的なドジキャラみたいな、指に絆創膏をあちこちに貼りながら料理を作ってくれるタイプ。
そういえば、ボーリングも嬉々(きき)としてやり方を教えてくれたけれど、ボールごとずべっと転んでいたのを思い出した。
……ああ、うん。
何というか、そうだね……と何故か納得してしまった。
知識が無いわけではないのだけれど、初めてと言って差し支えない私よりも、見ていてハラハラしてしまう不器用さ加減なので、結局私が正木さんの情報を頼りに作業するという形に落ち着いた。
ちなみに、片淵さんはお皿を並べるとか、箸を並べるとか、調理以外の諸々(もろもろ)をささっと準備してくれるから、そちらは任せることに。
というわけで、私たちが大体夕食の準備を終わらせたところで、
「あ、お醤油が……」
調理用に使用していた醤油が丁度切れてしまった。
料理として使用する分は丁度終わったから構わないのだけれど、問題は今日お刺身があるということ。
冷蔵庫の中や棚の中を覗いてみても、お刺身専用のお醤油は無いみたい。
「うーん……ちょっと買ってきますね」
流石にお醤油なしで食べるわけにはいかないから、私がそう言うと、
「じゃあ、待ってるよー」
と片淵さんが言うのだけれど。
ちらりと少年2人の様子を見ると、夕食を今か今かと待ちわびている様子だったから、
「ううん、先に食べおいて良いよ。多分、そんなに時間掛からないと思うから」
一応近くのコンビニにも醤油は売っているはずだから、ここからならそんなに時間が掛からないはず。
……と思ったところで、そういえばと思い出す。
「そういえば総一くん。岩崎さん……あ、お姉ちゃんにケーキを受け取ってきてくれって頼まなきゃいけないんだっけ?」
私が言うと、出来たての唐揚げを口に咥えたまま、うんと頷いた。
……うん、先に食べてて良いよとは言ったけれど、ちょっと早すぎるよね。
「ちゃんといただきますはしないと駄目だよ。……じゃあ、私は岩崎さんの携帯持って、ちょっとバイト先まで行ってくるね。お刺身はちょっと後になっちゃうけど」
「はい、分かりました。冷蔵庫に入れ直しておきますね」
正木さんと片淵さんに後のことをお願いして、私は早足で岩崎さんのバイト先に向かう。
ここからなら、近いとは言わないけれど、歩いていけないことはないという程度だから、さっきゲームをしながら食べていたお菓子の分だけ動くという意味では丁度いい運動かもしれない。
むしろ、あれだけお菓子を食べていたのに、総一くんも光一くんも良くそんなにご飯入るなあ、という感じ。
これが若さ……などとちょっと年寄りじみた考えを抱きつつ、先に岩崎さんのバイト先へ到着。
別に問題は無いはずだけれど、流石に醤油1本をぶら下げたまま、喫茶店に入るのはちょっと……と思って、私は先にポケットの中に入っている電子機器を本人に渡すことを優先した。




