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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第13時限目 血縁のお時間 その8

 あははと笑い返す私。


 部屋に引きこもっての不貞腐ふてくされモードが終了した総一くんは、リベンジだとばかりにまたあのゲームに私を引き込むから、とりあえず自分の中で理解したつもりになっている操作方法を思い出しながら、何とか総一くんが操作する野球帽のキャラについていこうとするけれど、まあそんなに早く上達するわけもなく、目の前で操作していた小さな獣系キャラクターは右往左往しただけで場外に落ちていった、南無。


「はーい、ご飯出来たよー」


 そう言って、岩崎さんがお昼ご飯のチャーハンと具沢山スープを持ってきてくれる。


 食卓の椅子は4つしかないから、岩崎家族が食卓を、私と正木さん、片淵さんの3人はリビングのソファーに座って食事をとることにする……つもりだったのだけれど、何故か私は食卓に座らされた。


「いただきます」


 普段の食生活は益田さんの料理か、学校の食堂というかカフェテリアで買う昼食だから、特段手料理が久しぶりという程ではないけれど、これが「クラスメイト手製の」という形容詞が付くとやっぱりちょっと違う。


 案外、なんてことは口がけても言えないけれど、岩崎さんの料理は美味しくて、食べ盛りの男の子向けだと思われる、比較的多めの山でもあっという間に胃に収まってしまった。


 これは別に私の中身が……いや、外身そとみもそうなのだけれど、男だからというだけが原因ではなく、普段の昼食の様子を見ていても、食が太いというほどではない正木さんと片淵さんでさえ、私よりはやや控えめに盛ったチャーハンもスープも、既にほぼ平らげているから、美味しくてついつい……というのは多分あると思う。


「美味しかった、ごちそうさまでした」


 私が手を合わせる。


「お粗末様」


「あ、お皿洗うよー」


 最後の1口を放り込んで飲み込んで、同じく「ごちそうさま」と手を合わせた片淵さんが席を立ったのだけれど、


「あー、良いから良いから。お皿片付ける場所とか決まってるし。これ終わったらバイトに出掛けるから、それまではゆっくりしてていいよ」


 と岩崎さんが先回りして立ち上がり、ささっと食事が終わった人たちのお皿を片付け始めるから、片淵さんは微妙に浮かせた腰を再びソファーに落ち着けた。


「凄いね。ご両親の旅行中がメインとはいえ、普段からずっとこうやって家の手伝いをしてないと、なかなかここまで出来ないと思うけど」


 私が、台所で洗い物をしている岩崎さんにそう言うと、


「んー、普段も手伝いはしてるけど、料理の方はどちらかというとバイト始めて覚えたのが多いかな」


「そうなの?」


「うん。普段はホールがメインなんだけど、厨房ちゅうぼうが追っつかなくなったときはヘルプで入ってたりするんだよね。で、あたしって本読んで真面目に勉強するよりも、やって体で覚える方が得意じゃんね。だから、店長に料理を教えてもらって、味見したり、切り方とか見せてもらったり、場合によってはまかない料理を作る手伝いとかさせてもらったりしたら、料理は上達したなあ」


 多分、元々岩崎さんには上達するための素地そじが有ったのだろうけれど、それにしても吸収力が高い気がする。


「ねーちゃんのご飯、昔は不味かったからなー」


 総一くんがニヤニヤしながら言うと、


「ふーん? そんなこと言うんだ? じゃあ、総一だけ今日の晩御飯抜きね!」


 と岩崎さんが総一くんに冷ややかな目線を送ると、


「げっ、それだけは勘弁かんべん!」


 座っていた椅子ごとひっくり返りそうになりながら、総一くんが言う。


 口は災いの元、とは良く言ったものだよね、と苦笑いしながら光一くんを見ると、


「…………」


 チャーハンの中に入っているピーマンを避けて食べていた。


 どうやら、その様子を見つけたらしい岩崎さんは、


「あ、光一。またピーマンけて! ちゃんと食べないと大きくなれないって言ってるでしょ」


 と腰に手を当ててさとすけれど、


「そういうねーちゃんだって、身長大して伸びてねーじゃん」


 とやっぱりまた災いの種を口から吐く総一くん。


 ああ、普段はこんな感じなんだろうなあ、この2人。


 笑顔のままそっと近づいた岩崎さんが、総一くんのこめかみに拳を当てて、両側からゴリゴリと極刑を執行している様子を横目に見てから、光一くんを再び見ると、今度は……というか今度も真摯な目で私を見つめている光一くん。


「……準お姉ちゃん」


「ん、何?」


「準お姉ちゃんは、どうして大きくなれたの?」


「え? うーん……」


 素朴な疑問に、私はうなる。


 私も岩崎さん同様にあまり好き嫌いはしていない。


 中学では部活に入っていなかったから、特別運動していたということもないけれど、そんな中学生時代でも身長は伸びに伸びていたし、高校に入ってからも10センチとまではいかないけれど、片手で数えられないくらいのセンチ数は身長が伸びた。


 うちのお父さんはやや身長が高い方だと思うけれど、私はそれ以上に高くなったし、お母さんも平均的な身長だと思うから、単なる遺伝というわけでもなさそうだし……正直何が原因なのかは良く分からない。


 だからと言って、何も知らないと答えるのもあまり誠実ではないという気もする。


 結局のところ、私が言えたのは、


「うーん、良く食べて、良く寝て、良く勉強したからかな?」


 と実際にやってきたから嘘ではないけれど、当たり障りはないし、ほとんど情報量的にはゼロベースの内容だった。


 でも、光一くんは私の言葉に「分かった」という言葉を付けてから、


「ピーマンも、ちゃんと食べる」


 と少しずつだけれど、積まれた緑色の山を少しずつ崩していった。


「あら? 何かホント、光一は準のこと気に入ったみたいじゃん?」


 いひひ、と楽しそうに笑う岩崎さんは、そのまま視線を壁に掛けていた時計に向けて、


「……ってやば! もうこんな時間じゃん! じゃあ、後はよろしくー。多分7時頃には戻ってくるから!」


 そう言って、岩崎さんはエプロンを食卓の椅子に引っ掛けて、バタバタと慌ただしく家を出ていった。

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