第12時限目 測定のお時間 その24
「まあ、つまりこのまま男だってバレずに生活出来るのであればずっとこのままで居たいなって思うけれど、最後までバレずにいることは多分無理だと思うし、ぐずぐずしていたら手遅れになるなあ……って悩んでるってところかな」
後、みゃーちゃんには言わないけれど、片淵さんには転校しないで欲しいと言われたし、そういえば中居さんも私が転校するなら付いていくとか言っていたっけ……本気かな?
つまり、今更転校しようにも、私がここに居た爪痕は既にそこかしこに残ってしまっていて、無かったことには出来ない。
でも、まだ目を瞑っていられるのであれば、見なかったことにしたい。
布団から起き上がるまでの“あと5分”と同じ感じで。
「優柔不断にゃ」
みゃーちゃんの言葉は身も蓋もないけれど、確かにその通りだから返す言葉もない。
「そうだね」
「……でもまあ、それでも良いのかもしれないにゃ」
私に言っているのか、自分に言い聞かせているのか分からないけれど、みゃーちゃんはそう言ってから、膝を立てた。
「みゃーも小学校に行かなくなって、地下室にずっと居て、それで良いのかなって考えたこともいっぱいあったし、今もまだ悩んでいるにゃ」
「うん」
「多分、常識的に考えると駄目なんだにゃ。でも、何故駄目なのかって考えると良く分からないんだにゃ。だって、勉強だけなら自分でも十分出来るにゃ。だから、必ずしも無理に行く必要もない気がするにゃ」
「まあ……そうだね」
話の邪魔をせず、最低限の相槌だけを返す。
「大きな違いは集団生活に慣れるだと思ってるにゃ。そういうのは、1人で勉強してても良く分からないにゃ」
「うん」
1度溜息と共に口を閉じてから、みゃーちゃんが尋ねた。
「準、学校は好きにゃ?」
「……ん? んー……、そうだね。嫌いではないかな」
「嫌いじゃないのは何故にゃ?」
「え?」
改めてそう言われると、何故なのかはすぐに思いつかない。
「そうだなあ……勉強は嫌いじゃないし、友達も居るからかな?」
「……そうにゃ、みゃーも勉強はそんなに嫌いではないにゃ。多分、1番大きな違いは友達にゃ」
みゃーちゃんは、立てた膝に顔を埋めるようにして言った。
「やっぱり友達って重要だと思うのにゃ。でも、みゃーは……作るの失敗したにゃ」
「失敗?」
「そうにゃ」
みゃーちゃんの溜息が水面を転がっていく。
「前にも言ったけど、みゃーは小さい頃からお父さんとお母さんに褒められるために、いっぱい勉強したにゃ。だから、学校の中でも……ううん、全国統一の学力テストで毎回1位になるくらいには頭が良くなったにゃ」
「凄いね」
「頑張ったからにゃ」
みゃーちゃんは少しだけ空元気に、えへんと胸を張ったから私は頭を撫でた。
「……ただ、みゃーもまだ子供だったにゃ。テストで1番だってことを知った子が教えて欲しいって子がいっぱい来たにゃ。だからちょっとだけ嬉しかったにゃ。でも、みゃーにとっては“分からない”ということが分からなくて、こんなこと出来ないなんておかしいとか、酷いこといっぱい言ったにゃ」
「……」
「そういうことを続けていたら、当然皆にはいじめられたにゃ……いや、いじめられたというよりも、空気が読めないからって少しずつ距離を置かれたにゃ。でも、その頃はまだ自分がおかしいとは気づかなかったにゃ。皆が居なくなって、ようやく自分がおかしいって気づいたにゃ」
「そっか……」
さっきから単語しか返せていないけれど、みゃーちゃんは特に気にしていないようだった。
「でも、もう手遅れだったにゃ。学校でも、家でも居場所が無くなったみゃーにとって、学園長と理事長が用意してくれたこの学園の地下室だけは、みゃーとテオだけの空間だったにゃ」
「……」
「でも、みゃーにはテオが居るから全然寂しくなかったにゃ。少なくとも、ずっと思ってたにゃ」
そう言いつつ、みゃーちゃんは私の手首をぎゅっと握った。
「……あるとき、同じような境遇の子が居るのを知ったのにゃ」
「同じ境遇の子?」
初めて聞く話、だと思う。
「それが”てとら”だにゃ」
「”てとら”……ってみゃーちゃんが前に言ってた、えっと……峰さんのこと?」
「そうにゃ。峰蛍のことにゃ」
ここでその子の名前を聞くとは思わなかった。




