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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第12時限目 測定のお時間 その19

「知らない」


 ですよね、と私は苦笑いしながら心の中で呟いた。


「でもほら、急に大きくなったでしょ?」


 にべもない口調で放たれた工藤さんの言葉に、なおも食い下がる岩崎さん。


「……それはそう。でも、理由は分からない」


「むむむ……」


 多分、工藤さんも隠しているわけではなく、本気で理由が分からないんだろうと思うけれど、岩崎さんとしては高校生になっても急成長の可能性が十分あるという希望の光に見えているはず。


 そういう意味では引き下がりたくない気持ちも分かる。


「むしろ、私は小さい方が良かった」


「……」


 あ、岩崎さんの目が怖い。


「持ってみれば分かる」


 そう言って、工藤さんが制服の上からでも分かる2つの丘陵を押し上げて、岩崎さんに差し出すと、


「いい。こっちには同じくらい大きいのがあるから」


 と言った後、隣りに居た正木さんのダブル急斜面を後ろから持ち上げた。


「……まあ、確かにこれは重いけどさ」


 むすっとした表情で言う岩崎さんだったけれど、巻き込まれた側はたまったものではないわけで。


「ちょ、ちょっと……真帆!? あの、工藤さんも……っ」


 されるがままの正木さんの視線がキョロキョロ、2人の顔の間を行き来……しようとして背後の岩崎さんの顔は見えていないけれど、兎にも角にも岩崎さんは意に介さず、両手で2つの球体に掛かる地球の重力の掛かり方を学んでいるようだった。


「いやー、大変そうだねえ」


 私の隣で3分の1ほど呆れ成分入りの笑顔を見せる片淵さん。


「まあ……そうだね」


「ぐぬぬぬ……何か腹立ってきた」


「ひゃーっ!」


 ただの昇降運動からわしわし運動に移行されても抵抗はしない正木さんと、わしわし犯の岩崎さんを見ながら、片淵さんと逆側に立っていた園村さんが、


「……た、大変ですね、正木さんも……」


 と同情していた。


「まあ、いつもの……ことかな?」


 いつもという頻度ではないけれど、比較的岩崎さんが“それ”を気にしているのは何度か目撃している。


 身体的特徴について、かなりコンプレックスがあることは間違いないのだけれど、岩崎さんはそんなに言うほどスタイルは悪くないと思う。


 陸上部だったということからほとんど無駄なお肉が付いていないし、お腹周りなんか健康的な引き締まった体をしていて、その分だけ全体的にきゅっと内側に収まっているから、確かに各部の自己主張は控えめになっているけれど、本人が落ち込むほどサイズが無いわけでもなく、周囲の比較対象があまりに大きいから……あれ? 私は一体何でこんな脳内フォローをしているんだっけ?


 ま、まあ、別に普段からそんなに注視しているわけではなくて、体育のときの着替え中に、こちらとしては理事長さんに言われたとおりクラスメイトの半裸を見ないように気をつけていても、何故か岩崎さんと片淵さんは結構着替え途中で手を止めてから話をしていることが多く、そのまま私にまで話を振るから目に入るのは仕方がない。


 そう、仕方がないのです。


 とにかく、外野が何を言ったところで、本人が満足しなければ意味がないから、私は何も言わずに2人の戯れに苦笑いを送っていると、折角差し出したのに受取拒否をされた工藤さんが、仕方がないとでも言いたげに1度溜息をいてから、こちらに近づいてきて、


「じゃあ、準が触る?」


 と再びアピール。


 この2つのビーチボールは持ち上げたらこんなに変形するんだ、へーってそんなことを考える余裕なんてない私は、


「さ、触りません!」


 と固く断った。


 分かっててやってるのがたちが悪いと思う。


「か、華夜。そういうのは……ほら、あまり良くないと思うな」


 恥ずかしそうに頬を掻きながら、園村さんが工藤さんを優しくいさめるけれど、


「じゃあ、千華留も」


 とむしろ園村さんまで巻き込もうとする。


 そうすると、テンパったときには相変わらずキャラクターが壊れるというか、もう私にとってはこっちの方が自然ではあるけれど、


「わ、わたっ、私はっ、し、しないです、けど! お、女同士、だから、別には、恥ずかしいわけじゃなくて! そういうのに興味が、無いだけですけど!」


 なんてぎゃわぎゃわと騒ぎ出す園村さん。


 で、こういうときに更にノッてくるのが、


「あー、じゃあ代わりにアタシがしよっかー?」


 と少し小悪魔スマイルな片淵さん。


「ほらほら、大きいのばっかりじゃ飽きるでしょー?」


 んふふ、と含み笑いする片淵さんに、私はあはは……と乾いた笑いを顔に貼り付けるしか無い。


 片淵さんが私のことを男だと確信しているかどうかは分からないけれど、まあ面白いことになればいいんじゃないかねー、的なことを考えているような気はする。


 ……つまり、やっぱりみんなにもてあそばれている!


「ふん、もういいや。収穫無かったし、帰ろ帰ろ」


 そしてやっぱり、岩崎さんは有無も言わさず私の腕を掴んで、引きずっていくので、そうだろうと思っていた私は少しだけ出来た心の余裕と共に、


「じゃ、じゃあまたね」


 と引きずられる手とは逆の手で小さく手を振った。


「はい、また教室で」


「ばいばい」


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