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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第12時限目 測定のお時間 その17

「いえ……そんな……」


 咲野先生の大袈裟おおげさな言葉に、私が横に首を振っていたら、


「ホントホント。……あ、ごめん。ちょっと先に帰ってて。ちょっとだけ、遅れて帰るよっ」


 と言って、咲野先生は来た道を引き返した。


 幾ら何でも自由人過ぎない!? と引き留めようとして振り返った私は、目を擦りながらスロープを小走りに降りていく咲野先生の後ろ姿を見て、流石に声を掛けることが出来なかったから、虚空を掴んだ手をぎゅっと握って下ろした。


 ……うん。


「おかえりー」


 教室に戻って、いの一番に片淵さんが私に軽く手を振り、歓迎の言葉を掛けてくれた。


「あれ、先生を呼びに行ったんじゃなかったっけ?」


 私の机にお尻を載せていた岩崎さんが言う。


「あ、うん。そこまで一緒に戻ってきてたんだけど、何かあったみたいで戻っていっちゃった。すぐに戻ってくると思うけど」


「ふーん? 何かって――」


「何かって何かしら?」


 岩崎さんの言葉に割り込むような形で、私の背後からやや冷ややかな声が聞こえたから振り返ると、太田さんが仁王立ち……ではなく普通に立っていた。


 普通に立っているのに、やや圧迫感があるように見えるのは、やっぱり腕を組んでいるからなんじゃないかなと思う。


「ああ、うん。なんだろう……多分電話じゃないかな?」


「……そう」


 ややいぶかしむ表情を見せたけれど、それ以上追求しても何も出てこないと思ったのか、


「まあ、すぐに戻ってくるのであればいいでしょう」


 と太田さんは深く追求せず、岩崎さんと片淵さんに視線を向けた。


「先生が戻ってくるのならば、そろそろ貴女たちも机に戻りなさい」


「あーい……」


「……んじゃ、準。また後で」


 もの言いたげな2人が机に戻っていくのを確認してから、


「……で、本当のところは何だったの」


 と太田さんが私にこっそり耳打ちする。


 あ、別に追求を諦めたわけではなくて、他の子に聞かれたくなかっただけなのかな。


 私は真面目に答えようか一瞬だけ思案しあんし、


「先生も、ちょっとだけサボりたいお年頃みたいだよ」


 と結局誤魔化した。


 しばらくは私の言葉に眉をひそめていたけれど、太田さんは今度こそ本当に諦めたらしく、


「はあ、まあいいわ。とにかく、呼んできてくれてありがとう」


 と小さく笑った。


「ううん、むしろちゃんと最後まで連れてくることが出来なくてごめんなさい」


「いいえ。さっきの話を本気にはしていないけれど、少なくとも貴女の口ぶりからして、先生が自分の意志で戻ってくるのを遅らせたのでしょう? だったら貴女が謝る必要はないわよ……じゃあ、私も戻るわね」


 微笑びしょうを崩さず、自分の机に戻っていった太田さんが座った辺りで、


「おらーっ! 自習時間だからって騒いで良いわけじゃないんだぞー!」


 と元気モードに戻った咲野先生が笑いながら教室に入ってくる。


「ほらほら、やらなくても教科書とノート開いときなー。アタシが怒られるんだからさー」


 ……いや、先生がそれ言っちゃ駄目でしょ!?


 さっきの話で色々と吹っ切れたのかもしれないけれど、いくらなんでも……とか思っていたら、隣で正木さんがくすくすと笑いだした。


「ど、どうしたんですか?」


 最初は先生の妙なテンションに対して笑いだしたんだと思っていたけれど、視線を隣に向けると明らかに私の方を向いて、ボリュームを下げた笑い声を出していた。


 あ、あれ……?


 私、何か恥ずかしいことしたかな?


「ああ、すみません。咲野先生、何だか元気になったなって思って。楽しいことがあったみたいな」


「そ、そうですかね……」


 うん、まあ、今年転校してきたばかりの私でも少しばかりテンションが高いかなと思っていたけれど、それよりは長くこの学校に居る正木さんが言うのだから多分間違いはないと思う。


 って、話の内容はやっぱり咲野先生の話なのに、何故私の方を向いているの? と思ったら。


「小山さんが、咲野先生を元気にしてくれたんでしょうか?」


 ちらりと私を見つつ、正木さんは笑顔のままで首を傾げて尋ねた。


「……え、ええ? いや、私なんかは何にも……」


 しどろもどろになりながら答えるけれど、


「小山さんが誰かと戻ってくると、その度に誰かが幸せになっている気がしますから」


 なんて正木さんは超弩級ちょうどきゅうストレートな言葉と共に破顔はがんを返してくる。


 む、むう。


 つまり、あの状況の原因は私だと思っていたから、正木さんは私を見て笑ったということね。


「そ、そう……ですか?」


「ええ。大隅さんと中居さんを探しに行ったときとか、片淵さんが飛び出していったときとか、今回もそうです。あ、大隅さんと中居さんを探しに行ったときの太田さんは不機嫌な顔で戻られていましたが……今はまたりを戻されたみたいですし」


 そんなこともあったなあ……というほど昔の話ではないけれど。


「あのときは太田さんに色々と悪いことをしたので……」


「でも、ちゃんと仲直り出来ていれば十分じゃないでしょうか。雨降って地固まる、と言いますし、ケンカした後の方が仲良くなれるかもしれないですよ」


 少し悪戯いたずらっ子のように笑う正木さんは綺麗と可愛いの丁度境目みたいだった。


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