第12時限目 測定のお時間 その13
「1階の購買部の隣に倉庫があるのだけど、そこに居るはずね」
「購買部の隣……? 購買部って何処にあるの?」
「何処って……1階にあるでしょう?」
「?」
疑問符顔の私に、はーっと溜息の太田さん。
「学園長室の前というか、職員室の前というか……ああ、美夜子の居る地下室へ続く階段の隣、と言った方が貴女には分かりやすいかもしれないかもしれないわね」
「あー……あった……っけ?」
のほほんとした私の言葉に、太田さんは再び溜息。
今まではカフェテリアには行ったことがあったけれど、購買部には行ったことが無かったから全然気づいていなかった。
そう言われてみればあった……かな?
「でも、何で倉庫? 保健室じゃないの?」
私よりも先に岩崎さんが尋ねると、太田さんは肩を竦めた。
「置く場所がそこしか無かったからじゃないかしらね。常に保健室に置いておくのも、それなりにスペース取るでしょうし」
まあ確かに、という以外の反応が思いつかず、そのままの反応を太田さんに返してから、
「うん、じゃあちょっと行ってきます」
と私がようやく座ったばかりの椅子から立ち上がると、
「あ、私も……」
と正木さんが控えめに手を上げてくれた。
ただ。
「駄目よ。本当であれば、小山さんにも行かせたくない……というか自習中なのだから、教室の外を出歩くのはあまり良くないのよ。小山さんの場合は担任が居ないから探しに行く、という正当な理由があるから良いけれど、ぞろぞろと連れ立って歩いていたら説得力が無くなるでしょう?」
そう言ってから、一旦言葉を切った太田さんは、
「……これは意地悪で言っている訳じゃないのよ。分かって頂戴」
と目を伏せてから続けたから、正木さんもその様子を見て、
「…………そうですね」
と素直に頷いた。
うん、太田さんは大分柔らかくなったと思うけれど、まだ少しだけぎこちないかな?
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「にゃはは、頼られるオンナは辛いねー」
片淵さんの少し茶化すような言葉に、私は小さく笑顔を見せてから教室を出た。
1階の、園村さんを待っている様子の工藤さんを遠目に見ながら、声を掛けずにそのまま購買部へ。
「あ、ホントだ」
この建物、唯一の階段であるみゃーちゃんハウス入り口の隣に、何やら壁があるなあとは思っていたのだけれど、その壁の向こう側が購買部だとは思っていなかった。
中を少し覗いてみると、コンビニエンスストアみたいな雰囲気だったけれど、入り口には勉強用のノートとかシャープペンシルなど、学業に必要な文房具類が特にアピールされて置いてある辺りはやっぱり学校の購買部って感じはある。
そういえば、消しゴムが大分小さくなってきたから買い換えようかな……とも思いつつ、その奥にある扉の名前を確認する。
『倉庫』
そのままストレートな名前が書かれていて、やっぱりここだよねと思った私は、まあ倉庫だから中に先生が居るだけかなと思って無防備に扉を開けた。
「咲野先せ……えっ」
開いた扉の先には、見知らぬ顔と見知った顔があったのだけれど、
「……ありゃ、小山さん?」
「こやまん、どったの?」
少なくとも顔を知っている咲野先生と中居さん含めた、その場に居る全員が体操服の着替え途中だったお陰で……せいで? その場は肌色祭りだった。
お、おおう……。
「あー、ごめんごめん。もしかして、アタシを探してた? いやー、体操服が入ってるダンボールが何処にあるか分かんなくなっちゃってて、皆で探してたから結構時間掛かっちゃったんだよね」
咲野先生は私を見て、そう言った。
「え、あ、はい……まあ……。太田さんが探してきてほしいって……でも、その……?」
見知らぬ子たちは多分他のクラスの生徒なんだと思うけれど、何にせよ全員着替え途中だったから見えたり見えなかったりでごめんなさい、と心の中で謝りながらそれ以上にツッコミどころのある様子に、私はツッコミを入れた。
「先生が何故体操服に……」
「ん? あー、まあそれはあれだ、うん。皆が着てるとついつい着たくなっちゃうというかなんというか」
あはは、と笑っているのだけれど、いやいやそんな笑顔で誤魔化されないですよ!?
確かに太田理事長と比べれば見た目は若いと思うけれど、いくらなんでも体操服は……まあ、それなりに似合って……じゃなくて。




