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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第12時限目 測定のお時間 その12

「いえ、あの……」


「教えてくださいーっ!」


 わあわあと騒ぐ園村さんに、私はどう答えようかと悩んでいると、


「むぎゅん!」


 と後ろから園村さんをヘッドロックなのか、首絞めなのか、とにかく意識を瞬時に飛ばさせた人の姿。


「……工藤さん」


「聞かなかったことにして」


 いつものジト目で私を見る……でもなく、視線をそむけた工藤さんに、私は小さく頷いた。


 お、お互い、あのことは忘れた方が良いよね、うん。


 でも、今の行動でようやく園村さんが言っていたことが理解出来――


 ずりずり……


「……」


 ずりずり……


「あの、工藤さん、ちょっと待って」


「何」


 今度こそいつものジト目で私を見たけれど、気絶させた園村さんが校舎の床で引きずられながら去っていく様子はいくらなんでも止めるよね。


 というよりも、桜乃さんも持ち上げられなかったのに、更に身長の高い園村さんを連れていこうと思ったら、そりゃあ無理だと思う。


「いや、どこに連れて行くのかなと思って」


「保健室に」


「気絶したまま連れて行っても仕方がないと思うんだけど……」


「……確かに」


 今気づいたの? と思わず言い掛けて、私は言葉を飲み込んだ。


 うーん、工藤さんってやっぱり良く分からない。


 いや、まああの話をされたくないから、園村さんの口封じをしようと思ったのだろうけれど。


「長椅子で目を覚ますまで待った方が良いんじゃないかな。あ、でもそろそろ園村さんの番のような……」


「……」


 長椅子から立ち上がった私の言葉に頷いて、工藤さんが園村さんを長椅子に寝かせると、


「……ぐふぅっ」


 園村さんのみぞおち辺りにチョップを入れて、強制的に意識を復活させた。


「ごほ……あ、あれ……ここは?」


 しばらく状況が飲み込めなかった園村さんが、私と工藤さんを見て、


「……あれー?」


 と目を点にして首を傾げているのを見つつ、


「これで大丈夫」


 と工藤さんが言うから、私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


 ……うん、工藤さんが非力かどうかはさておき、怒らせると危ないタイプかも。


「じゃ、じゃあ私は教室に戻るから……」


「あ、はい。それでは……?」


 まだ記憶が朦朧もうろうとしているのか、園村さんはしきりに首をかしげながら挨拶をしていたけれど、まあ記憶を取り戻してまた事情を聞かれる前に、私は教室に戻った。


 教室に戻って早々、私の机にお尻を乗せてもたれ掛かっていた岩崎さんが、


「あ、おかえりー。何かやけに長くない? 何かあった?」


 と不思議そうな顔で出迎えた。


「まあ、色んな子に捕まっちゃって」


「あっはっは。まー、準にゃんは人気者だかんねー」


 正木さんの前の席を占領していた片淵さんも、笑いながらそう言う。


「確かに、小山さんは最近結構色んな人に声を掛けられているみたいですね」


 指を組んだ上にあごを乗せ、隣の席からこちらを見ている正木さんも揃って、いつもの4人組に。


「まー、でも急いで帰ってきても、皆も自習とか全然してないから、ゆっくりしてきても良いと思うけどねえ」


 岩崎さんがそう言って、部屋を見渡すと、皆好き勝手に話をしていたり、スマホを出してゲームをしているようだった。


 まあ、先生がいないから好き勝手してても仕方が……あれ?


「そういえば咲野先生は?」


 咲野先生が居れば、ここまで酷くなりはしなかった……かどうかはさておき、一応身体測定中は自習時間であるわけで、監視役としてクラス担任が配置されているはずなのだけれど。


「先生……確かに戻ってきて無いですね」


 正木さんがそう言うということは、本当にどこかに行ってから戻ってきていないみたい。


「レントゲン撮る車も来たんだったら、もう坂本先生と連絡取る必要無いよねー? もしかして、先生もサボってるんじゃないかなー?」


 にしし、と笑う片淵さんに、


「いや、それは……」


 無い、と言い切れずに私は口籠くちごもった。


 片淵さんの例の件のときに開いてもらった勉強会で、思っている以上に真面目な先生だということは分かったのだけれど、やっぱり第1印象というものは非常に重要なものであって。


 やっぱり、あの初対面時の学校不法侵入事件の印象がまだ脳裏にこびりついているから、本当にあの人は真面目なのだろうかという疑問符が付いてしまうのは仕方がないかと。


「あ、そういえば中居さんも戻ってきてないよね」


 咲野先生が体操服を貸してくれるとか何とか言っていて、それに付いていったはずだったけれど……?


「もしかして、まだ着替えを――」


「小山さん」


 私の言葉を遮るようにして、涼やかな女の子の声が掛けられた。


「申し訳ないのだけれど、咲野先生を呼んできてもらえる?」


 眼鏡をキラリと光らせた太田さんがそんなことを言うから、


「呼んでくるって……太田さんは先生がどこに行ったのか知ってるの?」


「ええ」


 太田さんはこくりと頷いた。


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