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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第2時限目 お友達のお時間 その13

 3人娘に導かれるように校舎を出て、寮までの道を歩く。


 歩いている途中で色々話をしたのだけれど、もうすぐに寮が見えるというくらいになったところで振られた話題に私は言葉を詰まらせた。


「そういや小山さんって、何で二見台? だっけ? あっちから転校してきたの? あたしなら絶対こっちの学校より二見台の方が良いと思うけど」


「あ、えーっと……」


 岩崎さんの言葉に少し戸惑う。その質問をされるだろうとは思っていたけど。


「そうさね。アタシも気になったんだー。二見台ってかなり頭の良い進学校だったはずだよね、確か」


「え? マジ? 小山さん、そんなところから来たの?」


「あ、ええ……まあ」


 確かに偏差値は高かったし、入学試験は難しかったような覚えがある。他の学校の人に名前を知られているくらいだっていうのは初めて知ったけれど。


「小山さん勿体無いよ! ちょー勿体無いよ! 何でこっち来たの? あ、いや、別にあれだよ、来るのがいけない訳じゃないんだけどね!」


 勿体無い……勿体無かったのかな。


 私が岩崎さんと片淵さんの言葉に首を傾げていると、思わぬ方向から声が飛んできた。


「あのっ、小山さんは趣味とかありますかっ!?」


「え?」


 唐突に隣に居た正木さんが声を上げたことで、同時に4人全員が驚いた。


 ……いや、正木さん自身が何故びっくりしているのかは分からないけれど。


「紀子がそんな声出すの、珍しくない?」


「あ、ごめん……」


 正木さんは少しだけはにかむ。


「まあいいさね。でさー、準ちゃんは普段何をしてるのかなぁ?」


 笑いながら、片淵さんが言う。


「えっと……勉強とか……」


「うわぁ」


 同時に心底嫌そうな顔をした岩崎さんと片淵さん。正木さんにも少し苦い顔をされた。


「い、いえ、塾に通っていたので、予習復習の時間で手一杯で。転校するときにやめてしまいましたが」


「ああ、そういうことね。うんうん、やっぱ頭良い学校だとそうなるんだねえ」


「そういう意味では準にゃん、こっちの学校来て正解だったかもねー」


 しきりに頷く岩崎さんと私の肩を叩く片淵さん。


「そう、かもしれないですね」


 私は静かに笑った。


「とはいえ、小山さん頭良さそうだし、今度の中間テストは教えてもらおうそうしよう」


「え? あ、でも私、今回のテストの範囲を知らないから……」


「そんなら尚の事、紀子ちんの家で皆でやった方が良いかもねー。テスト範囲がもし、前の学校と被ってたりしたら教えてね、よろしくー」


「あ、はい」


 超元気な岩崎さんと片淵さんが先に進むのを追うようにして、私は正木さんと並んで歩くのだけど。


「あの……ご迷惑ではなかったですか?」


 隣から控えめに、そう告げた正木さん。


「え? ああ、寮の部屋ですか? いえ、構わないですよ」


 買い物は別に明日でも明後日でも。場合によっては今日終わってからでも構わないし。


 あ、でもそもそも、買い物が出来る場所も知らないから、聞くか近場をうろうろしなきゃいけないか。まあ、スマホの地図で調べれば良いかな。


 そう言うと、正木さんはふるふると首を横に振る。あれ? 違う?


「何というか、その、前の学校の話をしていたとき、何だか凄く嫌そうというか、寂しそうな顔をしていたので、あまりその話をしたくないのかなと思って」


「ああ、そういうことですか」


 そこまで露骨に顔に出ていただろうか。岩崎さんや片淵さんは気づかなかったようだから、分からないだろうと踏んでいたのだけど。


「私の勘違いであれば申し訳ないので……」


「いえ、正木さんの言う通りです。ありがとうございます」


 確かに前の学校は片淵さんが言う通り、バリバリの進学校だったこともあったのだと思うけれど、あまり楽しい思い出は無い。


「……でも正木さん、良く分かりましたね」


「えっと……そうですね。小山さんが嫌そうな話をした際には髪を撫でる癖があるんですよ」


「え?」


 慌てて手を髪の毛にやってみる。そんな癖があったとは思っていなかったけれど、無意識の内に触っていたのかな?


 私がわたわたしているのを見て、くすくすと声を出しながら、


「……冗談です」


 正木さんがくすりと笑う。正木さんにも意外とそういうお茶目なところもあるんだなあ。


「ほらほらー、早く2人共ー!」


「2人共、さっさとこっちゃ来ーい!」


 先行していた岩崎さんと片淵さんがこちらに手を振る。私と正木さんは頷き合って、駆け足で2人に追いついた。


 寮に戻ってきて、扉を開けるけれど誰も居ない。太田さんは私達より出るのが遅かったようだからまだだろうし、工藤さんも園村さんと話をしているようだったからまだかな。


 そういえば、他の寮生とはまだ会っていないけれど、本当に住んでいるんだよね……? 実は住民が居るようで居ないというのが七不思議の1つだったとかそういうことは無いよね?


「うわっ、広っ!」


「広いねー! おっ、こっちはお風呂場かな?」


 岩崎さんと片淵さんは靴を脱ぎ散らかしたまま、来客者用のスリッパを履いて勝手に寮の中をうろうろし始めるから、私はひとまず岩崎さんの靴を整えると、横で正木さんが片淵さんの靴を整えていた。ああ、うん。何というか、凄く親しみやすいなあと思っていたのは、こういうところの考え方というか行動が同じだからなのかな、と思ってしまった。


「ねーねー! この部屋は誰の部屋?」


 岩崎さんが扉を指差して尋ねる。


「私も良く分からないです。昨日来たばかりなので」


「ふーん。あ、そういや小山さんの部屋は?」


「2階の1番奥です」


「おおぅ、良い部屋取りじゃないかぁ! 真帆ちん、さあ行くよ!」


「おうさぁ!」


 どたどた、と岩崎・片淵ペアはどんどこ階段を駆け上っていく。あ、でも――


「準ちゃーん! 奥って言っても右と左あるよー! どっちー?」


 そうなりますよね。


 片淵さんの声に、私は少し大きな声で答える。


「左手方向ですが、まだ鍵開いてないですよ。後、あまりバタバタすると、太田さんが帰ってきたときにものすごく怒られますよ」


「「うっ」」


 上から同時に心底嫌そうな返事とも言えない声が帰ってきた。本日2度目。


 太田さんごめんなさい。でも、これは凄く使えます。


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