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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第11時限目 写真のお時間 その23

「ああ、そうだ。もう貴女を追い掛けるのは止めますわぁ。流石に今回のことで色々とりましたものぉ」


 そう言ってから含み笑いした星野さんは、


「ただ、まだ貴女自身への興味はありますわぁ。あの大隅たちを従えたこと自体は、やはりただのガリ勉ちゃんではないと思っていますしねぇ。ただ、今後は正式に取材を申し込みますわぁ」


 と続けた。


「ええ、それなら……」


 行き過ぎた行動に対して拒絶反応というか、ちょっとどころじゃなく思うところがあっただけで、別に星野さんが嫌いだった訳ではない。


 今回で単なる問題児ではないって分かったし。


 ……いや、でもやっぱり問題児ではあると思うよ?


「それと!」


 びしっ、と音がしそうなフリで、星野さんは指を私の胸に突きつけた。


「ん?」


「喋り方!」


「喋り方?」


「敬語になってますわぁ!」


「え、あ、はい。最初の出会いがアレな感じだったので、最初はそういう扱いで良いかなと思っていたわけで……」


「そういう問題でしたのぉ!?」


 失礼千万しつれいせんばんとばかりにびっくりする星野さんだけれど、むしろ何だと思っていたんだろう。


「む……」


 次の言葉を考え込んでしまったのか、一旦口をつぐんだ星野さんは、それでもやっぱり口を開いた。


「……嫌いですわ、敬語。少なくとも、貴女はクラスメイトで対等な立場なのですから、普通に気軽に話し掛けられた方が良いですの」


 ぷん! と音がしそうな怒り方をしてから、腕を組んでそっぽを向く星野さん。


「……そっか。そうかもね」


 そういえば、岩崎さんとか、大隅さんとかも敬語を嫌がるというのがあった気がする。


 やっぱり、敬語だと友達じゃない、みたいな感覚があるのかな?


 というよりも、星野さんのは敬語……ではないのかな?


 敬語のような気もするし、そうではないような気もするし。


「とにかく、今後は正式に取材を申し込みますから、拒否はしないことですわぁ」


 ふふふ、と軽く笑う星野さんがまたいたずらっぽく笑うから、私も何だかまた意地悪したくなった。


「ホントに、正式に申し込む?」


 尋ねる私。


「ええ、ホントにですわぁ」


 答える星野さん。


「ホントにホント?」


「ホントにホントですわぁ」


「ホントにホントにホント?」


「ホントにホントに……っていつまでやらせるつもりですの!?」


 むきーっ! といきどおる星野さん。


「そっか。それならいいかな」


「分かれば良いのですわ!」


 苛立ち半分、満足半分くらいの星野さんボイスを聞いて、


「……これからよろしくね」


 私が手を差し出すと、


「……ええ」


 少しだけ躊躇ためらったけれど、ぎゅっと握り返してくれた星野さん。


 ようやく肩の荷が下りた開放感と共に、私が立ち上がると。


 何かが、ずるりと落ちた。


 ”落ちた”?


 ……何が?


「ん?」


「……え?」


「…………きっ…………」


 数秒の溜めの後。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 とんでもない声量で発せられた星野さんの絶叫に、耳を塞ぐよりも状況把握を優先した私は、


「ど、どうしたの?」


 と間抜けな声で、私は星野さんに尋ねていた。


 まさか、あの黒っぽい嫌な生き物が出たとか、そういう想像も脳裏をよぎったのだけれど、星野さんの行動は、


「あ、あなっ、あななっ、あなっ!」

 

 と意味が分からない言語の羅列の発言と私を指差す行動のみ。


「穴?」


 穴……まさか覗き!? と思って振り返ってみるも、特になにもない。


 再び視線を戻して、星野さんの行動に首を傾げると、


「あなっ……貴方! おっ、おっ……おとっ、男でしたのぉっ!?」


 両手で顔を覆い、でも指の隙間から私の方を見ているという、何とも古典的なことをしている星野さんは、明らかにお風呂だけが原因じゃないと思われる赤い顔のままそう言った。


「男……男っ!?」


 その単語を飲み込んだ私は、自分の胸元、下半身と連続で視線を落とし、本来あったはずの『それ』が無くなっていることに気づいて、ばしゅん! とか、ばひゅん! とか音がしそうなくらいの速度でしゃがみこんだ。


 ……な、無い!?


 いや、本来は『それ』が無いことが正常であって、今の無いことは本質的には間違っていなくて、いやいや無いって『あっち』が無いわけではなくて。


 何を言いたいかというと。


「……み、見た……?」


 私の言葉に、星野さんは小さく頷いた。


「あ、で、でも、星野さんって……いつも、体を隠してて……本当は、私が男だって気づいていたんじゃ……?」


「ち、違いますわぁ! その、隠しているのは……浅葱とかと比べると、ち、小さ……あまり、お、大きくな……であって! 最初から、貴方が男だと知っていれば、一緒に入るわけ無いですわぁっ!」


 ぎゅっと体を縮こまらせた星野さんに、なるほどー、コンプレックスだったからですかー、なるほどー……ってそんな悠長な話をしている場合かっ!


 脳内の自分にセルフツッコミしながら、私は折角温まった体とは裏腹に、心が一瞬にして凍りついていく音を聞いた、気がする。


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