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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第2時限目 お友達のお時間 その11

 体育館には静かに仁王立ち中の渡部さん、そしてその無防備な渡部さんの顔を覗き込んだり、目の前で手をひらひら振ってみたりと興味津々の様子の理事長さん。まるで初めてボールを目の前に置かれたボールに対して、どうやって遊ぼうか考えながら手を出している子犬みたいでちょっと可愛い、とか言ったら怒られるだろうなあ。


「あ、あのー」


「わっ」


 おずおずと声を掛けた私に、理事長さんはひっくり返るんじゃないかってくらい驚き、ざざっと飛び退ってから、真顔に戻った。


「こ、こほん。どうでしたか、美夜子は」


「えっと、バッテリー切れだそうです。背中のバッテリーカバーを外して、バッテリーを交換してほしい、と」


「なるほど」


 ひとまず私は足元に放置していた自分の鞄の横に、抱えていたバッテリーを足元に置く。


「このバッテリーを背中のバッテリーカバーを外して……背中?」


 背中、ってことは服を脱がさなきゃいけない、ってこと?


 い、いやさすがにちょっと、ロボットとはいえ、理事長の前で女の子型ロボットの服を脱がせるなんて変わった性癖ですね小山さん、と言われると思って……いたんだけど。


「り、理事長、さん?」


「何でしょう?」


 手早く渡部さんのスカートをすとーんと脱がせる理事長さん。スカートを脱がせる必要はないとかそういうこと以前に。


「あの、服……」


「脱がせないとバッテリーを交換出来ないのでしょう?」


「……ええ、あの、そうですが……」


 どうやら、電源が落ちていても肩とかの関節は力を掛ければ動くようで、両手を万歳状態にしてベストを脱がしていく理事長さん。そんな2人……いや、1人と1台の様子を見て、私は視線を泳がせる。私の様子がおかしいことに気づいてくれた理事長さんは、ようやくそこで手を止めて、ポンと手を打った。


「…………あ、ああ、そういえば、準さんは男の人でしたね」


「忘れてたんですか! 忘れてたんですね!?」


 私は思わず叫んで、慌てて声のトーンを下げる。誰にも聞かれてないよね?


「まあ、でも彼女はロボットですし、今は致し方ない状況です」


「は、はあ……」


 理事長さん、単純にお堅くて融通が利かない人ではないみたいだけど、それはそれでどうなのだろう。


「とにかく、電池を入れ替えなければならないのでしょう? 悩んでいても仕方が無いのです。早く終わらせて、教室に帰りなさい」


「は、はい、そうですね」


 そういえば、まだ教室にも行ってないから、帰るとかいう以前の問題だった。既にホームルームは始まっているだろうし、もし私を待ってホームルームすら始まっていないのであれば、クラスメイトにちょっとどころじゃなく悪いし。


 ブラまで脱がせた状態の渡部さんの背中を見ると、薄っすらとカバーを取り外す溝が見える。右肩辺りにある少し大きめの窪みに手を掛けると、あっさりと背中のカバーが取り外せて、中から手持ちのバッテリーと同じような『MYAA』と書かれているバッテリーが覗いた。


 本当に乾電池みたいに簡単に取り外せた『MYAA』印の電池を取り外して新しい電池を差し込むと、途端にキュルキュルとかシュルシュルとか音がし始めた。あ、起動したのかな?


 ピコピコと電子音も聞こえた後、渡部さんは周囲にしばらく視線を振って、自分の状態を確認し、私と理事長さんに視線を合わせて、


「どうされました?」


 と合成されたと思しき声で尋ねる。


「電池切れで止まっていたから、そこの小山さんがバッテリーを交換してくれたのです。お礼を」


「…………」


 理事長の言葉に反応して、駆動音を高めながら私の方を向き、上手にお辞儀をした。


「ありがとうございました」


 深々と礼。理事長の言葉を理解して回答するなんて凄いけれど、それよりも。


「い、いえ……あの、服……」


「……何でしょう」


「服を着てください」


 私には肌色と白色と……そして桃色が眩しすぎます。


 足元に脱ぎ散らかすようになっていたブラを取り上げて、着替えようとした渡部さんを制止して、


「あ、先に後ろ向いて貰える? 背中のカバー付けたいから」


 と私が言うと、ブラを持ったまま1度停止し、体を起こしてこちらに背を向けた。本当に言っていることを理解しているんだなあ、などと感心しながら、カバーを取り付ける。


「いいよ、服を着て」


 私の声に素直に従い、服を着替え始める。何だかちゃんと反応してくれると、色々声を掛けてみたくなるけれど、こちらを向いて着替えるのはやめてね。


「さて、もう用事は済んだようですから、私は理事長室に戻ります。渡部さんが着替え終わったら、一緒に教室に戻りなさい。いいですね?」


「は、はい!」


 理事長さんが体育館を出て行ったから、必然的に残されたのは私と渡部さんのみ。とりあえず、ロボットとはいえ見た目は女の子だから、着替えを見ないように背中を向けていると、みょんみょんというかむいんむいんというか、とにかくそんな音がずっと体育館に響いていたけれど、ようやく着替えが終わった渡部さんはまた静かになった。


 恐る恐る振り返ると、制服姿に戻った渡部さんが居た。着替えは終わったみたい。


 ……えーっと、これからどうすれば良いのかな?


「とりあえず、一緒に教室に戻りましょうか」


 私が言うと、渡部さんは少しの間の後、


「はい」


 と発声して、先に歩き出したから、私は足元に転がっていたバッテリーと鞄を拾って、並んで歩く。


 そういえば、渡部さんは教室の位置を知っている……んだよね? 知らなければクラスに戻れなくなっちゃうし。ということは、渡部さんに付いて行けば大丈夫かな。


 迷いなく校舎内を歩く渡部さんに、忘れない内に声を掛ける。


「そういえば、みゃーちゃん……あ、えっと美夜子ちゃん? がバッテリーを持って、後で部屋に持って来いって」


 私の言葉にワンテンポ遅れて静止したから、私も慌てて足を止めると、渡部さんは私の方をふぃんふぃんという音を立てながら向く。


「承知しました」


 答えたと思ったら、再び同じ音を立ててまた顔を戻してから歩き出した。ああ、喋りながら歩くのは無理なのかな。

2017/10/25 誤字修正

「体育館には静かに仁王立ち中の渡部さん」

「体育館には静かにl仁王立ち中の渡部さん」

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