第11時限目 写真のお時間 その16
「ふー……」
進路希望調査のプリントはすぐに見つかったから、私は一息だけ吐いてから、プリントを持って、昇降口に戻る。
靴の爪先をトントンと叩いて、踵を入れ、正木さんたちを追おうと走り出したところで、聞き覚えのある声が進行方向の横から聞こえてきた。
「……だから」
「……ん? 星野さん?」
足を止めて、声が聞こえた場所の方へ意識を向けると、校舎の横、前に大隅さんや中居さんが居た辺りから声が聞こえてくる。
あそこは不良の溜まり場……というか何か悪いものを呼び寄せる場所なんじゃないかなとも思いつつ、様子を窺うと、何やら言い合う生徒の姿。
星野さんと……他のクラスの女の子かな。見覚えがない女の子が2人居る。
「だから、アタシたちは知らないって言ってるでしょ!」
「でも、貴女たちが近くに居たと……」
「知らないものは知らないから!」
ふん! と鼻息を荒くして知らない2人はこちらの方に歩いてきて、
「見世物じゃないんだから!」
ギロリ、と私を睨んで去っていった。
どうやら、その反応で星野さんもこちらに気づいたようで、視線をさっと逸らすと、すたすたと私の横を小走りに去っていった。
また、星野さんが何か言ったんだろうなあ……と思いつつ、その姿を見送って正木さんたちのところに、
「……っていや、違う違う」
違わないけど違う。
正木さんたちを追わないといけないのもあるけれど、先に星野さんに私をもう追いかけるのを止めるように言わないといけないんだった。
私はとりあえず、慌てて星野さんが戻っていった校舎内に入ったけれど、思った以上に足が早く、既に星野さんの姿は無かった。
「……ま、まあいいか」
校舎内を隈なく探せば、多分見つかるのだろうけれど、別に今日絶対に言わなければいけないというほどの内容ではないし。
私はそう頭を振って、自分に言い聞かせるようにしてから学校を出た。
あんなことがあっても、翌日の彼女は平常運転で、相も変わらず私を無遠慮に観察している様子だった。
ただ、今日は桝井さんが風邪でお休みだったみたいで、星野さんが1人で黙々と私を見ている。
まあ、桝井さんが居たときも基本的には星野さんが私を監視しているだけで、桝井さんは私をたまにちらっと見て、ニヤリとするだけだから、今と大して変わりはないのだけれど。
兎にも角にも、私は今日こそはと思って星野さんを放課後見つけて呼び出そうとしたけれど、ホームルームが終わった途端にまた教室を出ていってしまった。
むむ、もしかして私が声を掛けようとしていたことに気づいていたとか?
既に「今日こそは」との思いをいつもの3人に伝えているから、私にエールを送ってくれたけれど、案外星野さんは足が早いから即座に見失う。
くっ、やっぱり撒かれた……!?
いや、まだまだ可能性はある。
外に居る可能性もある!
私が一点突破、教室を飛び出して校舎の周り、特に昨日居た辺りを探してみたものの残念ながら星野さんと遭遇出来ず。
肩を落としつつ、そういえば鞄を教室に置きっぱなしだと思い出したから取りに戻ったら、昨日星野さんと一緒に見かけた女子2人とプラスでもう1人の女子生徒が居た。
笑いながらトイレから出てきた……というだけであれば、別に大した話ではないのだけれど、すれ違いざま。
「あー、せいせいした」
「だよねー」
……不穏な空気を察知して、私は1度その3人を見送るようにしてから、出てきたトイレの方を向く。
3人の笑顔が、こう……言っては悪いけれど、邪悪な笑顔だったので、私はごくりと唾を飲み込んだ。
個室は1つだけ扉が閉まっていて、それ以外は開いていた。
そして、その扉からは小さくすすり泣く声。
……誰なのかは分からないし、もしかすると違う人かもしれない。
けれど、昨日の今日。
「…………星野さん」
息を呑む音、が聞こえた気がした。
でも、返事は無し。
「……何か、あったんですか」
喧嘩相手、というとまたちょっと違うのだけれど、少なくとも私が星野さんに気を使う必要なんて無い……とも思ったのだけれど、まあそれはそれとして……クラスメイトだし。
「……何でもありませんわぁ」
外の部活をしている生徒の声にすら、掻き消されそうなか細い声が返ってきた。
少なくとも、扉の向こうに居る相手は、私が想像していた相手で間違いないみたい。
つまり、泣いていたのも……。
「そうですか」
うーん、こういうときはどう声を掛ければ正解なんだろうか。
2019/2/12 誤字修正
「私がときにエールを送ってくれたけれど」
↓
「私にエールを送ってくれたけれど」
誤字指摘ありがとうございました。




