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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第11時限目 写真のお時間 その12

「んんーっ、ふぅ。ようやく思ったことが言えて、すっきりした」


 喋り終えた咲野先生は、伸びをしてから笑った。


「ホント、小山さんには頼ってばっかりでごめん。美夜子のことだけじゃなくて、アタシのことまで含めて、ね」


 私と並んで、湯船の縁に頭を載せて、更に笑みを強めた。


「最初は小山さんの転入届けを真夜中に取りに行かなきゃいけなかったから、困ったんだけどさー」


「いや、それは自分が忘れてただけですよね?」


「あれ、そーだっけー?」


 あはは、と笑いながら咲野先生がとぼけたように言った。


「ポーチ忘れてしまったなーなんて思ったけど、そのお陰で小山さんと話が出来たから、良かったよ。ありがとね、ホントに」


「いえ、それほどでも……」


 そんなに何度も感謝されてしまうと、嬉しい中に恥ずかしさも顔を出してきて、私は少し視線を逸らしながら首を横に振った。


「さって、アタシは寮長室に戻るね。今度、どこかでお茶でもしよっか。もちろん、アタシが出してあげるからさ」


「はい、ぜひ」


「それじゃ」


 そう言って、先に手を振った咲野先生は浴室を出ていった。


「……はあ」


 私は完全に扉が閉まる音を確認してから、溜息を吐いた。


 この溜息は悪い意味ではなくて、ただただ安心したというかなんというか。


 私はさっき咲野先生がしていたように、天井を仰いだ。


 みゃーちゃんのことも、咲野先生のことも、岩崎さんのことも。


 もう少し前に遡れば、太田さんや片淵さん、中居さんのことだって、本当にたまたま良い方向に転がってくれたからであって、私が何かをコントロールして上手く結果を引き出せたのかといえば、大半がそういうわけではなかったと思う。


 まあ、これについては前にも反省したような気がするけれど。


 中居さんのときには美嘉さんが、片淵さんのときには片淵さんのおばあさんと咲野先生が手助けしてくれたから、最終的には円満? な解決に至ったと考えると、つくづく私ってトラブルメーカーなだけで良いところが全然無いと思う。


 いつか、皆にお返しが出来るのかな、なんて不安を抱えて立ち上がると。


「はー、こりゃまた広いなー」


「ですわねぇ」


 ……見覚えのある姿、聞き覚えがある声が。


「ん? あれ、小山やん」


「あら、本当ですわねぇ」


 立ち上がった挙動の巻き戻しみたいに、湯船に再び座ってみたはいいものの、一切の遮蔽物など無いから隠れられるわけでもなく、呆気あっけなく私は2人に見つかった。


 現れた桝井さんと星野さんは、初めての遭遇時と同じで相変わらず対照的な格好だった。


 桝井さんはタオルを肩に、小脇に桶とシャンプーその他を抱えて歩いているだけのスーパーウルトラノーガード戦法。


 対する星野さんは、これでもかというくらいにきつくバスタオルを体に巻いて、桶を胸元に抱えているスーパーウルトラハードガード戦法。


 格好の違いはさておき、2人ともお風呂に入るために入ってきたことには違いなかった。


 つまり、ちょっと覗いてみただけなのですぐ帰ります、というわけではなさそう。


「……え? あれ、2人は何、してるんです……?」


 あれ、この2人も寮生?


 最初に益田さんが教えてくれたのは5人だったはずで、私が記憶している限りでは太田さん、繭ちゃん、工藤さん……一時的に泊まっていた片淵さんは違うから……あれ、残りの2人ってこの2人!?


「あ、ウチらは寮生ちゃうで」


 私の脳内ビックリマークを読み取ったかように、桝井さんがそう意地悪な笑顔を見せた。


「いやー、噂には聞いとったんやけど、寮に100円で泊まれるっちゅー話を実際に調査してみようと思ってなー」


「…………」


 ああ、なるほど。


「なんや、あいたたーみたいな顔しよってからに」


「まあ、ほぼ正解だから」


「なんやとコラ」


 私の雑な反応に、桝井さんはそう言って、湯船に使っていた私の首に肩を回して、ぐいっと引き上げようとする。


 まあ、そうするとスーパーウルトラノーガード戦法のお嬢さんの、決してクラスの中でも上位陣に引けを取らないサイズのエベレスト山脈に、必然的に顔を押し付けられるようにされるわけで。


 ……い、いや、それが目的なわけで、そういうことを言ったわけではなくて、ね!?


「何だか、小山準は私たちに冷たいですわねぇ。噂を聞く限りでは、皆に気さくだという話でしたのに」


 流し目で私を見る星野さんだけれど、


「初対面で後頭部を殴って、縄で縛るような人と気さくに話をする人間が居たら、それは多分よっぽどのマゾヒストだと思うけれど」


 と私は真顔で答えた。


「……まあ、それはそうですわねぇ」


「それで、本当に2人はそれだけが理由?」


 私は、もう1つの理由……寮で泊まれば寮長室に居るみゃーちゃんに接近出来るから、という理由が実際は強いと見ていたから、そう尋ねたのだけれど。


「小山って、あの小娘の話題に触れられそうになると、ホンマに目ぇ吊り上がるなあ。分かりやすいやっちゃ」


 なはは、と豪快な笑いで桝井さんが私の背中を叩く。


「ま、話したいことは色々あるから、ちょいと体と頭洗うまで待っといてや」


「ですわぁ」

2019/2/1 誤記修正

「小山って、ホンマにあの小娘の話するときは、目ぇ吊り上がるなあ」

「小山って、あの小娘の話題に触れられそうになると、ホンマに目ぇ吊り上がるなあ。分かりやすいやっちゃ」


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