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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第10時限目 融解のお時間 その32

全く、皆落ち着いてないなあ。


「準にゃーん、それアタシのコーヒーだよ」


「……えっ」


 にひひ、と笑う片淵さんの言葉に、視線をカップへ落とすと、確かに紅茶にしてはやけに黒っぽいし、苦いと思った。


「何だ、準だって全然落ち着いてないじゃん」


「おうふ」


 とまあ結局、私含めて皆散々な状態だった。


 それはそれとして、肝心のノワールちゃんはカーテン代わりの毛布を掛けてもらったケージの中でいきんでいたけれど、案外安産だったのか、そんなに長い時間掛からずにころりころりと合計4匹の子猫がこぼれ出てきた。


 毛の色は黒とアメショカラーが半々。


 ……ああ、うん、やっぱりそうですか、そうですよね。


「ありゃ、本当にテオちゃんとノワールちゃんの子供だったっぽいねー?」


 最初に反応したのは片淵さんだった。


「いや、でもその割にはノワールってテオに手厳しい感じだったじゃん? 夫婦じゃないの?」


 不思議そうな岩崎さんの言葉に、私が答える。


「多分、妊娠中……それも出産間近だったから、気が立っていたんじゃないかな」


「そういうもん?」


「テオのお父さんも、この前ほど酷くはなかったけど、やっぱり妊娠前になったらお母さんに構ってもらえてなかったし」


「はー、そういうもんなんだ」


 子猫を舐めてあげているノワールちゃんを見ながら、感心したように岩崎さんが言う。


「いや、それにしても可愛いねー」


「ですね」


「……触っちゃ駄目、ですよね?」


 触りたくてうずうずしていることが表情から見て取れる正木さんが、振り返って私に向かってそう言うけれど、


「多分、良くはないと思いますよ」


 と私も自信なく首を横に振るしか出来なかった。


 私も猫の出産に立ち会ったのも遥か昔、それも1回だけしか無かったはずだから、あまりそのときの記憶は残っていない。


 ただ、下手に子猫を触ると母猫が子猫を傷つけたり、育児放棄したりすることがあると聞くし、気が立ったノワールちゃんが私たちに対しても怪我をさせる恐れがあるから、少なくともノワールちゃんの気持ちが落ち着くまでは母子共に触らない方が良いのは間違いない。


「それにしても……子猫ちゃんたち、どうしようかしらね……」


 完全に子猫意識を取られていた私たちだったのだけれど、私はふと坂本先生がそんな言葉を発しているのに気づいた。


「そうだな……いくら何でも4匹とも寮長室で飼う訳にはいかないしな」


 腕を組んで、益田さんが言う。


「……地下で飼うにゃ」


 坂本先生の横で、みゃーちゃんがそう言ったのだけれど。


「いくらなんでも、4匹の世話は難しいだろう。1匹くらいはどうにかなるかもしれないが……」


「……」


 多分、みゃーちゃん自身も無茶だろうとは分かっていたのだろうと思うみゃーちゃんは、益田さんの言葉にぐっと口をつぐんだ


「校内で子猫の引き取り手を掲示してみましょうか」


「そうだな……」


 浮かない顔をしているみゃーちゃんの様子を見ながら、益田さんはそう言って、小さく頷いた。


 みゃーちゃんの気持ちも分かる。


 ただ、いくらなんでも生まれた4匹を全てを飼うのは難しい。


 1匹飼うのだって、食事、トイレその他諸々の世話があるから大変だというのに、それが追加で4匹分だからね。


 特に子猫だから、コードをかじったり、そこら中を引っ掻いたりと、何をするか分からないし。


 まあ、ノワールちゃんは、噂で聞く限り、学校の中を結構好き勝手うろうろしているみたいだし、ご飯は家庭科部に貰っているらしいから、実はあまり手が掛からない子なのかもしれないけれど、それにしたって子猫4匹を育てるのはかなりの負担になると思う。


「まあ、何にせよ、だ。しばらく……乳離れ(ちばなれ)するまでは母猫と引き離すのは止めたほうが良いだろうから、それまではちゃんと世話するんだぞ。もちろん、手伝ってはやるが」


 益田さんが優しくそう言うと、


「……うん」


 とみゃーちゃんは力なく頷いた。


 後は私たちの方で面倒を見るから帰っても良いぞ、という益田さんの言葉で、寮長室を出てから正木さんたちと分かれて私は、寮に戻って遅めの夕食を済ませてからしばらくした後、湯上がりの読書タイム中、扉のノック音に気づいた。


「はい」


「……みゃーだにゃ」


「うん、どうぞ。開いてるよ」


 特に鍵を掛けていなかったから、そう私が言うと、みゃーちゃんがおずおずと部屋に入ってきた。


 私は読書のために勉強机の方に座っていたのだけれど、ここのところみゃーちゃんが来たときお決まりのパターンになっている、ベッドの上でみゃーちゃんon私になるように、私がベッドの上に座った。


「やっぱり、ノワールの子供は引き取ってもらうしか無いのかにゃあ」


 ちょこんとまた私の膝の上に座ったみゃーちゃんは、こちらもお決まりになりつつある、私に背を預けて、私を見上げる体勢になる。


「そうだね……」


 私の言葉に、うー、と小さく項垂うなだれる猫耳少女。


「……というか、そもそもうちのテオが子供を身籠らせてしまったようだから、私の方でも面倒を見てあげなきゃいけないんだけど」


 毛色からして、どう考えてもノワールちゃんとテオの子供だろうし、私自身にも監督責任があるのは間違いない。


 まあ、妊娠時期と寮に連れてきてからは寮内以外に出していなかったはずだから、実家を抜け出して寮に来るまでの時間で夫婦になってしまっていたのではと思うけれど、何にせよ小山家が原因であることは自明の理。


「ごめんね」


「別に準が悪いと思っていないし、テオも悪いとは思ってないにゃ」


 いつの間にか膝の上で丸くなっていたテオを撫でながら、みゃーちゃんがそう言った。


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