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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第10時限目 融解のお時間 その31

「確か、それが小学校3年か4年のときにゃ」


「3年か4年……そういえばみゃーちゃんは何歳なの?」


「んー、確かあれから1年くらい経ってるから、本当だったら小学校5年生のはずにゃ」


 みゃーちゃんの言葉に、私は何の考えもなしに次の言葉の引き出しを開けてしまった。


「……小学校に戻りたいとか、考えたことはない?」


「…………」


 沈黙。


 しまった。いくら何でも踏み込みすぎた。


 そう思って、私が慌てて次の言葉の選択肢を考えていると、


「難しいにゃ。みゃーが行きたい、行きたくないではなくて、多分行っても皆が嫌がるだけだからにゃ」


 とみゃーちゃんはさほど深刻な表情もせず、むしろ割り切った表情というか、あっさりとした表情でそう答えた。


 さっきの沈黙は答えたくないからというわけではなく、単純に思考中だったらしい。


「そんなことは――」


「あるんだにゃ」


 私が続けようとした言葉を遮って、みゃーちゃんがふわりふわりと猫耳を揺らしながら、左右に首を振る。


「準だって分かってるはずにゃ。自分がどれだけ頑張っていても、周りがそう思ってくれるとは限らないってことは」


「……何故、それを?」


 確かに、一部の人には私が前の学校で疎まれていたという話をしたけれど、みゃーちゃんにはまだしていないはず。


「ある人から聞いたにゃ」


「そっか……」


 みゃーちゃんに伝わる経路があるってことは、意外とみゃーちゃんって私たちのクラスの子と交流が元々あったのかな?


 あるとしたら、桜乃さんくらいしかイメージが無かったけれど、桜乃さんにその話ってしたっけ……?


 ……って、まあ誰から伝わっていてもいいか。


「確かにそうかも」


「だから、多分難しいにゃ」


「……うん、そうだね……」


 自分に言い聞かせるみたいに私はそう呟いて、少し遠い目をしたみゃーちゃんをぎゅっとする。


「うにゃっ、く、苦しいにゃ」


「ああ、ごめんなさい」


 慌てて、私は腕を緩める。


 似た悩みを持っているからこそ、みゃーちゃんの苦しみが分かってしまって、思わず抱きしめてしまったのだけれど、良く考えたら体格差がありすぎるから、私が思っている以上に痛かったみたい。


 むぎゅっと私の腕を押し返して、


「何にしても、今はノワールのことにゃ」


 とみゃーちゃんが言った。


「うん、そうだね」


「だから、ノワールの様子を見に戻るにゃ」


「分かった」


 ぴょん、と私の膝から飛び降りて、そう言ったみゃーちゃんは今まで見た中でも、1番子供っぽい笑顔になっていた。色々振り切れたからだろうか。


 部屋を出ていく直前、みゃーちゃんは1度だけ立ち止まり、ちらっと振り返った。


 何か忘れ物でもしたかな、と思って首を傾げようと思ったら。


「準、お、お……」


「ん?」


 みゃーちゃんが言い淀むからどうしたのかと、やっぱり首を傾げた私だったけれど、


「準お兄ちゃん、また来るにゃっ」


 そう言って、逃げ出すように走っていったみゃーちゃん。


 私はしばらく呆然としていたけれど、みゃーちゃんの声を反芻はんすうして、少し身悶みもだえた。


 そんなこんなで、しばらくみゃーちゃんが寮長室から私の部屋に通うようになっていたのだけれど、ある日の放課後。


「おかしい……」


 いつもならそろそろ来ているはずの、みゃーちゃんが来ない。


 みゃーちゃんに何かあったのではないかとそわそわして、寮長室まで出掛けようかと腰掛けていたベッドから立ち上がったところで、スマホが突然鳴った。


『ノワールの出産が始まった。申し訳ないが、来てくれないか』


 益田さんの言葉に、私は即座に「はい」と返事をして、足早に寮長室に向かった。


 もちろん、部屋を出る前に正木さん、岩崎さん、片淵さんに益田さんの連絡を転送したのだけれど、全員3分と掛からず来るとの返事が。


 結局、最終的には寮長室に益田さん、坂本先生、みゃーちゃん、私、正木さん、岩崎さん、片淵さんと大所帯になりながら、いつの間にかダンボールからケージに移されていたノワールちゃんの出産を遠目に見守る。


 遠目に、というのは、子猫に人間の匂いが付いたりすると育児放棄をしたり、最悪の場合は噛み殺す場合もあると聞いていたから。


 本当かは分からなくても、リスクは限りなく減らしておいた方が良いのは間違いない。折角来てくれた正木さんたちには悪いけれど。


「ノワール、本当に大丈夫……?」


 時折痛みに耐える鳴き声を上げる度、不安そうに坂本先生を見上げるみゃーちゃん。


「大丈夫ですよ」


 そう言って、みゃーちゃんの頭を撫でる坂本先生。


「動物の出産って初めてかも」


「アタシもだなー」


 岩崎さんと片淵さんもそわそわして落ち着かない。


 この中で落ち着いているのは私と正木さんくらいかな。


「……正木さん、それ砂糖じゃなくてミルクですよ」


 コーヒーと紅茶用に持ってきてくれていた、小さなミルクポットに砂糖用のスプーンを突っ込んでいた正木さんに私が言う。


「えっ……え? あ、ほ、本当ですね!」


 前言撤回。正木さんもそわそわしてました。


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