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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第10時限目 融解のお時間 その20

「それで、行くの? 行かないの?」


 ぷちキレ気味な岩崎さんに、


「行くよ」


 と私は笑って答える。行かない理由はないし。


「アタシもちょっちあの子と話してみたいなー」


 先に立って進む岩崎さんと並んで、片淵さんがそう言ったけれど、


「えー、結構面倒くさいタイプだから、手を焼くかもよー」


 なんて言う岩崎さんは楽しそうな様子。素直じゃないんだから。


 私たち4人は連れ立って、帰途きとく生徒に混じって1階へ降り、保健室へ。


 中には保健室の椅子に座って、ペットボトルのお茶を飲んでいるみゃーちゃんと、


「ああ、お疲れ様です。さっき、美夜子ちゃんが目を覚ましたところですよ」


 とコーヒーを飲んでいた坂本先生が笑顔で迎えてくれた。


「坂本先生、ありがとうございました」


 私が軽く頭を下げると、


「いえいえ、大丈夫ですよ」


 とコーヒーカップを置いて立ち上がるから、みゃーちゃんも慌ててペットボトルを置いて、坂本先生の後ろに隠れ、こちらの様子をうかがう。


 何だか距離を感じるけれど、こちらに向けられる視線は軽蔑けいべつとか忌避ひきとか、ネガティブな感情ではなく、どちらかというと戸惑いの色が濃いようだった。


「ほら、美夜子ちゃん。皆に言うんでしょう?」


「…………」


 そう促されつつ、隠れていたところを前に押し出されたみゃーちゃんはあうあう言いながらも、自分で言葉を選び、最後にはこう言った。


「……あ、あ……ありが……とう……、ごめん、なさぃ……」


 最後は尻すぼみだったけれど、そう謝辞しゃじ謝罪しゃざいの言葉を口にした。


 その様子を見ていた私たちは、顔を見合わせてからくすりと笑った。


「まあ、もうちょっと素直になれば可愛げがあるんだけどねえ」


 みゃーちゃんのわしゃわしゃと頭を撫で回す岩崎さんに、みゃーちゃんは犬とか猫がやるような体をぶるぶると震わせる行為をした後、再び坂本先生の後ろに逃げ込んで、私を見る。


 ……いや、私のせいではないと思うけれど。


「あーあ、真帆ちんが無理やり撫で回すからー」


 からかう片淵さんに対して、


「えー? 今のくらい普通のスキンシップなのに」


 と不満げな岩崎さん。


 弟さんたちにはあんな感じで構っているのかもしれないけれど、猫系というかそういうタイプのみゃーちゃんからは嫌われちゃうタイプだなあ、なんて思いながら岩崎さんの方を見ていると。


「ほら、おいでおいで」


 それこそ猫みたいな扱いだけれど、正木さんがそう言って手招きしてから手を伸ばすと、みゃーちゃんはその手と正木さんの顔を往復して見てから、また私を見た。


 いや、私に許可は要らないと言うか、見られても困るのだけれど、私は笑って返す。


 正木さんなら間違いはないと思うし。


 少し考え込んだみゃーちゃんは、少しずつ近づいて正木さんの手を取ったけれど、その様子が何だか飼っていた猫がようやく飼い主と打ち解けたような感じにも見えてきた。


 みゃーちゃんの機嫌を表しているのであれば、みゃーちゃんの頭に付いている別の耳は少し後ろに倒れているから、多分機嫌は悪くないんだろうと思う。


 手を握られた正木さんは、逆の手でみゃーちゃんの頭を優しく撫でるから、みゃーちゃんも少しくすぐったそうにしながらも受け入れる。


「むう、やっぱりあたしよりも紀子の方が良いのか」


「じゃなくて、単純に真帆が雑なんだと思うけど」


「んだねー。どっちかというと、犬っぽい撫で方だよねー」


 岩崎さんの言葉に、正木さんと片淵さんが笑って、言葉を返す。


 ……皆からの評価が変わったのは素直に嬉しい。


 でも、私とみゃーちゃんの間には距離が残ったまま。


 複雑な思いを噛み締めつつ、正木さんとみゃーちゃんの様子を見ていると。


「……はい、おしまい」


 みゃーちゃんの頭を撫でていた手を止めた正木さんは続けて、


「後は、1番撫でて欲しい人のところに行かないとね」


 とみゃーちゃんの目線に合わせて屈んでから言った。


 しばらく、正木さんを見上げてから、押し黙ったみゃーちゃんは、少しうつむいてたけれど。


 1番撫でて欲しい人? という答えを考えていた私は、


「……おわっと」


 唐突に飛び込んでいた猫耳にバランスを崩しながらも、何とかキャッチ成功して踏みとどまった。


「…………あれ?」


 この結果は予想出来なかった。


 ……いや、予想することを止めていただけかな。


 私の視線が思わずふわふわしていたところで、正木さんと視線が合った。


「真帆のときも、私のときも、必ず小山さんの方を見ていましたから」


 あれは、皆を連れてきたことに対する非難しているのかと思っていたのだけれど。


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