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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第10時限目 融解のお時間 その19

 行方不明になっていたみゃーちゃんの意識は、結局チャイムが鳴っても戻ってくる様子がなかったから、私と正木さん、岩崎さんはみゃーちゃんのことを坂本先生にお願いして、教室に戻ってきた。


 休み時間中に戻ってきたから、授業中にガラガラッと扉を開けたときほどの注目度はないとはいえ、今のさっきだから、私たちが帰ってきたことに気づいたクラスメイトたちの、私たちに対する様々な感情を持った視線が痛い……のだけれど、先頭で教室に入った岩崎さんも正木さんも、周りに一切目もくれず席についたから、私もそれに倣って出来るだけ気にしないようにして、自分の席に戻った。


 そして、終業後。


 みゃーちゃんの様子を見に行きたい思いはあるけれど、2人に声を掛けた方が良いか、それとも……と悩みながら教科書を鞄に収めていると、鞄を肩に掛けた岩崎さんがつかつかと歩き寄ってきた。


「よし、あの子の様子、見に行こっか」


 私は目をしばたたかせてから、正木さんの方を見ると、こちらも私と同じような表情。


 岩崎さんと仲直りしたとはいえ、あの子の様子……ってみゃーちゃんのこと?


 遅れて登場した片淵さんも、


「およ、真帆ちん、戻ってきたー?」


 と疑問成分満開の表情でそう言うと、岩崎さんは大仰な動作で敬礼してから言った。


「不肖岩崎真帆、恥ずかしながら戻ってまいりました」


 続けて、岩崎さんはぺこりと片淵さんの方に向かって頭を下げた。


「……都紀子もごめんね」


 岩崎さんの言葉に対して、否定を表すように両手を左右に振った片淵さん。


「いやいやー、ちゃんと真帆ちんは戻ってきてくれると思ってたよー」


 片淵さんのいつもの少し間延びした声も、いつも以上に伸びがあるというか、元気があるというか。


 ……うん、やっぱりこのメンバーが良いね。


「ところで、あの子っていうのはさっき泣いてた子のことかねー?」


 辺りの様子を確認してから、声を潜めた片淵さんの言葉に、そうだと頷く岩崎さん。


「流石にそろそろ、お寝坊さんでも起きてるでしょ」


「そうだね」


「全く、あたしらに迷惑掛けたんだから、反省の言葉の1つくらい貰ってもいいだろうし」


 岩崎さんと正木さんのやり取りを見ながら、私はふと無言で岩崎さんを見上げた。


「……」


「……な、何? 準、こっちそんなに見て」


 私の視線に気づいた岩崎さんは、少したじろいだ。


「……岩崎さんって結構子供好き?」


「へ? いや、別にそんなことは……無いと思うけど」


 びくりとしてから、岩崎さんがそう言う。


「だって、保健室でもあれだけみゃーちゃんのこと突き放してたのに、自分から会いに行こうって言うし」


「それは、まああれだよ……ほら、さっき言ったみたいに反省したって言葉、ちゃんと聞いてないし……」


「みゃーちゃんがベッドによじ登ろうとしてたところで、さり気なく抱き上げてたし」


「いや、まあ、あのベッド、子供にはちょっと大きかったから……」


「……」


「……」


 私と沈黙のまま見合った岩崎さんは、最終的にはぁーっと溜め息を吐いて、観念したように言った。


「……まー、なんていうかさ。うちは弟しか居ないから、ああいうときにどう構ってやればいいか良く分かんなかったんだよね」


「あー、なるほどねー」


 片淵さんがにひひ、と笑いながら言ったから、岩崎さんは少し照れくさそうに言う。


「それに、噂で聞いてたあの子のイメージって、偉そうで、なんか感情が無くて、全く人と関わろうとしないタイプって感じだったから、準に声掛けられて巻き込まれたときには心底嫌だったんだけどさ」


「うん」


「保健室で、準の言葉に困ったり、安心した表情見たら、噂とは全然違って、フツーの女の子だったしさ。だから、なんてーか……」


 一度言葉を切って、岩崎さんは言った。


「まあ、嫌いじゃないかなって」


「そっか」


 私は小さく安堵の息を吐き出した。


 ちゃんと分かってくれる人は居るんだって。


「あ、ちょっと偉そうだったのは本当だったけど」


 ……本当に、ちゃんと見てるし。


「私も、近寄りがたい子だって聞いていたんですが、飼っていた猫が死んじゃうかもしれないって泣いてたのが、何だか昔の自分のイメージに重なってしまって。だから、私も嫌いになれないというのは分かります」


 そう言いながら、正木さんが笑うと、続けて片淵さんが、


「んまー、アタシはあの子はよく知らないんだけどさー。準にゃんがやけに構ってるし、多分悪い子ではないんだろうなーってのはなんとなく分かるねー」


 と。


 評価方法がそれで良いの? って思わなくもないけれど、とにかく皆のみゃーちゃんに対する見方が変わったのは喜ばしいこと。

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