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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第10時限目 融解のお時間 その13

 その声が聞こえてきたときは、何処かで猫が喧嘩しているのかと思った。


 ほら、たまに道端で猫同士が威嚇しあっている声というか。


 けれど、最初は遠雷えんらいのようにかすかだったその声は、じきに教室の直ぐ外くらいに聞こえてきて、ようやくその声が猫ではなく人の泣き声だと気づいた。


 私は隣の席で、脳内をハテナマークで占領されているらしい正木さんと顔を見合わせていたのだけれど。


「えー、静かに。しーずーかーにー!」


 外から聞こえてくる謎の泣き声に対して、にわかに教室がざわつき始めたのを咲野先生が慌ててしずめようとするけれど、一旦揺れ動いた教室はそう簡単には止まらない。


 一体何が起こっているのかが分からない私たちは、廊下側から聞こえてくる声に意識のほとんどを奪われていたのだけれど、教室廊下側に大人しく座っていたはずの工藤さんが、ガラリと廊下側の窓を開けてしまったからさあ大変、クラスメイトたち全員の意識は一瞬にして教室の外に全て奪われてしまった。


 ……って工藤さん!? 何してらっしゃるのでしょうかね、貴女!?


 もしかしてあれかな、うん。


 大隅さんや中居さんが勉強嫌いなのは、こう言っては失礼だけれど、見た目から何となく分かっていた。


 でも、前に園村さん引き連れ、工藤さんが勉強を教えてくれと言っていたときに、私を何かにつけてからかっていたのはもしかすると、単純に勉強したくないからだったんじゃないかと思い始めてきた。


 いやまあ、今はそんな話は置いといて。


「何か小さい女の子が歩いてるけど!?」


 そんな声が、クラスの誰からか上がった。


 小さい女の子? この学校に?


 もしかして、と思わず椅子を鳴らして立ち上がり、私は工藤さんが開けた教室の窓に走る。


「あ、ちょ、ちょっと小山さん! あ、駄目だって、皆! あー、ちょっと、あーっ! 皆、ちょっとっ! あーっ!」


 心の中で咲野先生にごめんなさいしてから、私はは視線を窓の外に向ける。


 外を歩いているのは、1人の少女。


 ダンボールを両手に抱えながら泣きじゃくるそのは、私がここ最近、会いたくても会えなかった地下室のぬしだった。


「みゃーちゃんっ!」


 何故泣いているかは分からないけれど、泣いているということは困っているということだろうと思う。


 だから、私は扉を開けて外へ出ようとした。


 ――そう、出ようとしたけれど、私の体は腕を掴まれた誰かによってその場に留められた。


 誰だと、半ば怒り心頭のまま振り返った私の眼の前には、


「……やめておけ」


 首を横に振る大隅さんが立っていて、そのまま教室の中、クラスメイトの視界から出来るだけ離れた場所へ連れて行かれた。


「何故?」


 苛立ちを出来るだけ隠したけれど、それでも刺々しさが残る声で私は言った。


「見てみろ」


「……?」


 あごで廊下の方を示すから、私は廊下に視線を移す。


 ……けれど。


「何も不思議なことなどは無い気がするけれど?」


 苛立ちを隠している薄皮をいだような声になっていく私に対して、


「これだけの人間が見ていて、何故誰も助けに行かないんだ?」


 と小声で、私の耳に声を届かせる大隅さん。


「……」


「まあ、つまりはそういうことだ」


 ため息混じりに大隅さんが続ける。


「あたしだって知ってるさ、あいつのことは。多分、ほとんどの人間が知ってるだろうよ、この学校に居れば」


「だったら……!」


「有名人過ぎんだよ」


 残念だとばかりに、大隅さんが言う。


「超天才でテレビにも出たことがある、だが基本的にずっと地下室に居て出てこない。たまにふらりと職員室や校長室、理事長室に入っていく姿が見られたりするが、ほとんど天然記念物モノの遭遇率だ」


「そんなの関係――」


「あんだよ、関係は」


 私の言葉に被せるように言う大隅さん。


「天才が地下室にずっと籠もりっきり、一体何してると思う? いや、正確には何していると思われていると思う?」


「何って……」


「人体実験とか、危ない薬の調合とかだ。あいつが飼ってるって猫も、大方実験に使われてるんだろうってな」


「そんなことッ!」


 私を掴んだ腕を掴み返した私に、


「っていてて、待て待て小山! そう思われてるって話だ。それに、お前も聞いたことあるだろ。あいつの猫が、実は吸血鬼だとかいう噂」


 ああ、岩崎さんが言っていたあの話題、か。


「……聞いたことは、あるよ」


 頭をぽりぽりと掻きながら、大隅さんが言う。


「あたしは信じてねーけどさ。信じてるのも居るらしくてよ」


「……」


「そんなやべーやつに近づいていくってことは、あいつの仲間だって思われるってことだぞ」


「そんなの関係無い」


「関係あんだよ!」


 語気を強めて、大隅さんが私を睨んで、その後に何故かバツが悪そうに目を逸らした。


 ……その理由はすぐに分かった。


「お前、あたしや中居とそれなりに学校内でも話するだろ」


「まあ、そりゃあ……」


「うちの担任はどうか知らねーが、あたしらみたいな問題児と転校生がつるんでるようなやべー奴だって、一部の先公から既に見られてんだよ」


「えっ」


 大隅さんの発言に、私は面食らった。


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