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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第10時限目 融解のお時間 その1

「あれ?」


 ゴールデンウィーク前後のごたごたもようやく片付いて、ひとまずの平穏を甘受し始めた頃。


 私と正木さんは、昼食時間のお決まりとなっていた、予め席取りのために教室を出ていった岩崎さんと片淵さんの後を追うために教室を出たのだけれど、食事のために移動中の私の言葉に、隣を歩いていた正木さんが足を止めて私を見る。


「どうしたんですか、小山さん」


「あ、すみません。ノワールちゃんが……」


「ノワールちゃん?」


 当たり前のように、遠目に見えた黒猫ちゃんの名前を口にしたけれど、確かにみゃーちゃんから名前を教えてもらった人の方が少ないことが容易に想像出来たから、私は慌てて解説を付け加えた。


「えっと、みゃーちゃん……ああええっと、正木さんも会ったことがあると思うんですが、美夜子ちゃんという地下室に住んでいる子が飼っている黒猫ちゃんが今さっき居て……」


「ああ、学校の中をよく歩き回っている黒猫ちゃんですか? あの黒猫ちゃんって飼い主居たんですね」


 どうやら、学校内を徘徊しているノワールちゃんについては知っているみたいだったけれど、飼い主の方についてはよく知らなかったみたい。もしかすると、野良猫という認識の人の方が多いのかも。


「その子が居たんですか?」


「ええ、居たのは居たんですが……」


「?」


 歯切れの悪い私に、正木さんが怪訝けげんそうな表情をする。


「そのノワールちゃんがどうかしたんですか?」


「えっと、何だかやけに太ってきていて……」


「太って……ご飯の食べ過ぎとかでしょうか。うちの子も油断するとすぐに太っちゃうんです。基本的に家の中にずっと居るので、太らないようにあまり食べさせないようにしていますよ」


 笑いながら言う正木さんの言葉に、うーんと私は唸る。


「私もそうだと思っていたんですが、それにしては短期間でかなりお腹が膨らんできているので、ちょっと心配なんですよね」


 前に工藤さんが、家庭科部の子たちが餌をあげているらしい、という噂を聞いていたからそれが原因だとは思っていたのだけれど、それにしたって1ヶ月半もしないうちに太り過ぎじゃないかな。


 あれだけお腹が膨れてしまう病気となると、腹水ふくすいが溜まような病気……えっと、確か肝臓の病気とかの心配が出てくる。


 単なる思い過ごしならば良いのだけど、何よりもみゃーちゃんがそこに気づいているかという心配がある。


 まあ、もう1つ可能性としてあるのは、あまり心配が必要ない――


「紀子ー、準ー、早くしないと座るところ無くなるよー!」


 考え事をしていた私は、岩崎さんの声で急に引き戻される。


「あ、はーい」


「今行きます」


 何にせよ、ノワールちゃんを捕まえてみるか、みゃーちゃんに確認するしかないし、ひとまずさっきの話は脳の片隅に置いておくことにした。


 私はまた例によってクラブハウスサンドを注文して席につくと、こちらも例のごとく既に箸を取ってぱくぱくと胃袋に食事を収めている岩崎さんが、一旦手を止めて話を振ってきた。


「しっかしホント、色々あったけど最終的にはどうにかなって良かったねえ」


「その節はご迷惑お掛けしました」


 岩崎さんの言葉に、片淵さんが頭を下げるから、


「いえいえ。まあ、あれは私の自業自得なところもあったし……」


 と私も首を横に振るのだけれど、


「そんな湿っぽい話をしたかったわけじゃなくてさ! テストも終わったし、今度こそリベンジで何処か遊びに行かないと! って話なわけ!」


 と割り込む岩崎さん。なるほど、確かに。


「うーん、遊びに……何処が良いかな」


 前に行った占い系テーマパークは、色んな意味で大変だったから単純に楽しむということは出来なかったし、今度は何も考えず楽しむことが出来る場所が良いな。


「まだ海に行くのは早いし、ゴールデンウィーク終わったばっかりで6月は連休ないからねー。もし6月とかに行くなら、1泊2日で行ける場所とかが良いよねー」


 片淵さんの言葉で、そういえば6月って休み無かったんだっけと思い出す。何か特別なことが無いと祝日は増えないから、そりゃあ仕方がないのだけれど、次の連休まで頑張ろうというようなモチベーションの上げ方が出来ないし、5月病よりも6月病の方が深刻なんじゃないかな、なんて思ったりもする。


 あ、もちろん6月病なんて今私が作ったんだけど。休みが無くてテンションが上がらないっていう病気ね。


「そういやさー、都紀子の話で結構忘れてたんだけど、もう1つ事件あったじゃん、ちょっと前に」


「ん? 事件?」


 唐突な岩崎さんの言葉に、話が読めない私たちはほぼ同時に不思議そうな表情を返した。


「あれあれ……吸血鬼騒ぎ」


「あ、確かに」


「そういやそうだねー」


「あー……」


 岩崎さんの言葉に、正木さん、岩崎さん、私の順で答えたのだけれど、もちろん私は事情を知っているからこそ、「あー」としか言えない。


「でさ、実はあの吸血鬼騒ぎなんだけど、実はさ……」


 岩崎さんが一層声のボリュームを落として言う。


「……最近、学校を徘徊してる黒猫ちゃんが吸血鬼なんじゃないかって噂なんだよ」


「……へ?」


 理解が出来ず、思わず私は変な声を上げた。



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