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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その48

「お、おおう……」


「凄い……」


 私のテスト結果を覗き込んで、岩崎さんと片淵さんが溜息と共に驚嘆の声を上げていた。


「やっぱり凄いよねー」


 2人の様子に対して、既に結果を知っている片淵さんが、にははと笑う。


「しかし、勉強が趣味になるくらいじゃないと、なかなかここまでは出来ないのかもねー」


 若干の呆れが混じっているようにも聞こえる片淵さんの言葉に、


「うーん、こんなの見た後だと霞んじゃうなあ」


 と苦笑しながら、岩崎さんがスマホを操作し始めた。


「ま、でも……ほら、あたしも結構頑張ったんだよねー。紙自体は置いてきちゃったけど」


 そう言って、スマホの画面をこちらに向けた岩崎さん。


 画面を覗き込むと、テスト結果の用紙が写っていて、最終順位は全校生徒の上位3分の1を余裕で超えていることを示していた。


「おお」


 私が素直に感嘆の声を出す。


「いつも赤点ギリギリだったこと考えたら、めっちゃ順位上がったんだけど……うーん、都紀子にも紀子にも順位負けたし、準にはとてもじゃないけど敵わないし、むーん……」


 岩崎さんは不満そうに言った。


 でも、片淵さんほどではないにしろ、あれだけの短期間での成果としては十分過ぎるんじゃないかなって思う。


「ってことで、次は紀子ね!」


「あ、うん……えっと、はい、どうぞ」


 鞄の中に入れていたテスト結果の用紙を取り出した正木さんが、テーブルの上に置く。


 ……あれ、岩崎さんの家よりも正木さんの家の方が近かった気がするけれど、何故正木さんはまだ鞄を手持ちしているのかな、いやむしろ岩崎さんは一旦家に帰ってからまたここまで来たのかな、とか色々思ったけれど、とりあえず言葉を飲み込んでから、私と片淵さんは正木さんのテスト結果に視線を落とす。


「……おお!」


「おー、アタシもヘタすると負けてたかもねー」


 片淵さんが言う通り、正木さんは両手両足の指で数えられる順位以内に入っていて、数問正解が多ければもしかすると片淵さんよりも順位が上だったかもしれなかった。


「結構、皆健闘したんだね」


 私の言葉に、力強く頷いた岩崎さん。


「そうそう。それに、一緒に勉強してたって言っても、結構お喋りの時間とかも長かったし、今回でここまで取れたんだったら、真面目にやればもっといいところいくんじゃ?」


 目を輝かせて力強く手を握った岩崎さんだったけれど、


「……でも、真帆。今後もほぼ毎日勉強続けられる?」


「無理」


 冷静な正木さんの質問に即答する岩崎さん。


「……ってなると、多分これ以上はなかなか順位上げるの難しそうだね」


「まー、仕方がないかー……っとごめん、電話ー」


 岩崎さんが慌てて部屋を出ていったと思ったら、すぐに戻ってきた。


「もうそろそろ帰ってこいってさー」


「あれ、もうそんな……あ、ホントだ、もうとっくに6時過ぎてるね」


 言われて部屋の外を見ると、既に空から黒のカーテンが下りつつある景色が見えた。


「少しずつ日が長くなってきたからって油断してると、いつの間にか真っ暗になってるんだよね」


「そうだね」


 岩崎さんの言葉にうんうんと頷く正木さん。


「ってことで、あたしたちは帰るから。また来週ねー」


 手をひらひらさせて部屋を出ていく正木さんと岩崎さんを見送って、私と片淵さんだけが残る。


「……さてー、最後の晩餐といきますかー」


「そうだね」


 にひひ、と笑う片淵さんと共に、食事とお風呂を済ませて就寝。


 最終日だからと言って、特別何があるわけでもない。


 少しいつもと違うことがあったとすれば、


「……聞いたわ。貴女、今日までなんですってね」


 なんて太田さんが、丁度お風呂から上がってきた私と片淵さんに声を掛けてきたことくらい。


「あ、うん。そだねー」


 もちろん、この“貴女”は片淵さんに向けて。


「自分の順位を掛けて、母親と取引するなんて馬鹿げたことをしたわね」


「……うん、まあねー」


 はあ、と溜息を吐いたから、お説教でもし始めるのかなと思ったけれど。


「まあ、結果的には何事もなく終わったから良かったものの……あまり、面倒は起こさないようにして頂戴」


「はい、ごめんなさい」


「それと小山さん」


「……ふぁいっ!?」


 話を振られるとは思っていなかったから、私は奇妙な声と共に姿勢を正した。


「彼女の順位を賭けた原因は貴女と聞いているけれど?」


「……はい」


 とがめるというよりはただただ真摯しんしな目で太田さんに見つめられ、私は隠し立てせずに答えると、一層深い溜息を吐いてから、太田さんが言った。


「本当に貴女って人は……。もう少し、行動の結果を予想してから行動した方が良いわ」


「そうですね、すみません」


「……こほん、私だって、貴女を評価していないわけではないのだから、勝手に居なくなるのはやめて欲しいわね」


 ふぁさっ、と髪を掻き上げる仕草をしてから、太田さんは自分の部屋へ入っていってしまった。


 珍しい……と言ったら悪いのかもしれないけれど、太田さんも少し変わってきているのかも。


「おー? まさか、あの太田さ……萌ちんのデレ期?」


「ど、どうだろう」


 何にせよ、最終日は恙無つつがなく過ぎて、もう就寝時間。


「それじゃ、おやすみー」


「おやすみ」


 短く言葉を交わして、片淵さんの部屋の前で分かれ、私も部屋に戻る。


「なー」


 ベッドの上に座ると、少し甘えたような声でテオが足元に近づいてくる。


「はいはい」


 寝る前にひと遊びしてくれ、という甘えだと思うけれど、猫じゃらしで遊んであげていたら、存外早く飽きたみたいで、勝手に私のベッドの枕元辺りで丸くなった。相変わらず気ままだなあ。


 ……最終日だというのにお互いなんだかあっさりしすぎている気はしたけれど、まあ疲れているだろうしね。


 電気を消して、布団に潜り込み、お風呂で温まった体が少しずつ冷え始めたかなと思ったとき。


 コンコン……コンコン。


 控えめに、ただし、起きていることを確認したい意思が伝わってくるノックだった。


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