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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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222/959

第9時限目 旋律のお時間 その43

「あ、そうだ。その前に……ちょっと小山さん」


 私と片淵さんが非常階段を降りようとしたところで、何かを思い出した咲野先生から声が掛かる。


「何でしょうか」


 足を止めた私にかつんかつんと近寄ってきた咲野先生は、


「小山さんのテスト結果、渡しておくよ」


 という言葉と共に、私が貰い損ねていたテスト結果の用紙を差し出した。


「1位おめでとう。やるじゃん! 担任として鼻が高いわー」


 手元に書かれた順位を見ると、計算間違いをした数学以外の順位には確かに全て1の文字が並んでいた。


 横から覗き込んできた片淵さんはその結果を見て、くりくりした目を更に大きく見開いた。


「うわ、準にゃん凄いね! うーむ、やっぱり準にゃんとは頭の出来が違うのかねー」


 満面の笑みで片淵さんがそうぼやくと、すぐに咲野先生が笑った。


「いや、片淵も本当に頑張ったよ。結果は残念だったけど、正直たったあれだけの時間でここまで伸びるとは思ってなかった……なんて教師アタシが言ったら、駄目なんだけどさ」


 咲野先生の褒め言葉で、少しくすぐったそうな笑顔を見せた片淵さんが言った。


「ありがとう……ございます」


「このまま毎日欠かさず予習復習していたら、片淵さんもこれくらい簡単に出来るよ」


「うひー、アタシはそこまで出来なくても良いから、もう勉強はしたくないなー」


 少し意地悪く言った私の言葉に肩をすくめた片淵さんに、咲野先生がまた何か思い出したように「あっ」と声を出した。


「一旦教室に戻って、鞄取りに行きなよ。多分、あの2人も待ってるだろうしさ」


 腕組みしたまま笑った咲野先生の言葉に、


「あの2人?」


 と一瞬だけ脳が静止してしまったけれど、そういえば確かに後2人、この状況を伝えなければならないクラスメイトが居た、とすぐに思い至った。


「はい」


「わかりました」


 私と片淵さんは咲野先生に一礼してから、非常階段をゆっくり踏みしめるようにして降り、教室に戻ると、ほとんどの生徒は既に出ていってしまっていた。


 でも。


「小山さん! 片淵さん!」


「あ、来た来た!」


 私と片淵さんを見るや否や、駆け寄ってきたのはいいものの、あーとかうーとか、二の句が継げない岩崎さんとそわそわもじもじしている正木さんだった。


 ただ、岩崎さんが意を決して、


「……結果はなんとなく分かってるけど、一応聞いていい?」


 とストレートに言うと、一瞬だけ目を閉じてから、


「そだね。うん」


 と片淵さんが深呼吸をしてから発表した。


「……駄目でしたー」


 努めて明るく、が今日のモットーなんだろうと思うけれど、片淵さんは声のトーンは出来るだけ高くしながら、試験結果を2人に見せた。


「どれどれ……うわ、駄目って言っても11位! ってか後1人だったんだ、うわ……」


 多分、誰もが思ったであろう“あと1人”という数字。


「でも、あれだけ短期間で11位って凄いですね……」


 岩崎さんが受け取ったテスト結果の紙を正木さんが覗き込んで、感嘆の声を上げた。


「まあ、皆のお陰でここまで取れた……けど、約束の10位には足りなかったんだよねー」


 深く影を落とした笑顔で、片淵さんが言う。


「それはそうなんだけど……うーん」


 納得のいかない様子で、岩崎さんが結果とにらめっこする。


「これだけ取っててもやっぱり駄目なんでしょうか……」


 正木さんも腑に落ちないような様子ではあるけれど、あのヒステリックに決めつけて話をする片淵さんのお母さんが、結構頑張ったから今回は無しね、なんて甘い裁定を下すとは思えないし、もしそんな手心を加えられるような人であれば、そもそもこんな状況に陥っていないわけだし。


「まあ、多分駄目だろうねー。お母さん、そういうところ厳しいから」


 にゃはは、といつもの笑い方で、私と同じ考えを口にした片淵さんが頭の上で手を組む。


「結果は結果だから、もうどうしようもないけどさ。でも、準にゃんのことだけは絶対に守らないと」


「……はっ、そうだった!」


 本気で忘れていたっぽい岩崎さんだったけれど、


「もしかして今から家に行くの? もしそうなら、あたしたちも直談判に行くよ!」


 と気合十分な様子で片淵さんに迫ったけれど、片淵さんはやんわりとそれを拒否した。


「2人じゃないと多分駄目じゃないかなー」


「え、何で?」


 口をとがらせ、少し不服そうに岩崎さんが言う。


「今のお母さんのところへ皆で行ったら、ただでさえ機嫌が悪くなっているお母さんを更に刺激しまうだろうからねー。だから……ごめんねー」


 片淵さんの様子を見て、


「……そっか。あたしもまだ会ったことないけど、確かに準の話とかを聞く限り、あたしたち部外者が行っても、むしろややこしくするだけか……」


 岩崎さんは少し残念そうな表情だったけれど、


「よし、じゃあ今日は準に任せた! 都紀子をよろしくね!」


 と最後は笑顔で親指を立てた。


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