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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第2時限目 お友達のお時間 その5

「や、やっぱりちょっと早すぎたかな」


 昇降口前で腕時計の時間を確認すると、ゆっくり歩いたつもりなのに20分強くらいで到着。つまり、授業が始まるのに30分くらい前に着いてしまったということ。ま、まあ初登校だからこういう時間配分ミスは仕方がないよね?


 それでも、既にちらほらと登校している人が居るのを見ると、さすが……というわけでもないかな。登校が早い人は何処の学校にも居るだろうし。


 早すぎるとは分かっているけれど、ひとまず職員室に向かってみる。先生は既に来ているかもしれ……いや、あの咲野先生が、まさか。


 昇降口から入って目の前に下足箱があるけれど、さて、何処が自分のだろう。そういえば、正木さんが3年A組だと言っていた気がするけど、一応確認、一応ね。人だかりとまではいかなくても、人の往復が多い場所があったので、それに倣って移動すると、どうやら校内掲示板にクラス割りが貼ってあるようで、すれ違う生徒たちの表情は喜んでいたり、悲しんでいたり。やっぱり友達と一緒になれなかった子とかも居たんだろうなあ。


「えっと……3年A組、ホントだ」


 正木さんに見せてもらったスマホ画面の通り、私の名前の端には赤い紙で作られた花が貼ってある。正木さんの名前も……あ、あった。


 とりあえず、3年A組の下足箱を確認すると、自分の名前があったから靴を入れる。


「……はっ!」


 しまった。上履き忘れてきた!


 そういえば、せっかく準備してきた上履きを部屋に忘れてた。こ、これはきっと、昨日とか色々あったから仕方がないよ、うん、シカタガナイ。


 今から帰って戻ってくると、間違いなく遅刻だから今日は壁際に置いてあった来客用のスリッパを拝借して使わせてもらうことにする。


 というか、前の学校では皆白い上履きで統一されていたけれど、すれ違う生徒の足元を見ると、地味だけど色は統一されていないスリッパを履いているようだから、皆個人でスリッパを持ってきているのかな? うーん……まあ、後で咲野先生に聞いてみよう。


 職員室の扉が開いていたから中を覗いて見るけれども、咲野先生はまだ居ない。予想通りといえば予想通りで少し安堵。でも、その分だけ手持ち無沙汰になってしまった。


「あら、小山さん」


 時間を潰すために何をするかを職員室の前で悩んでいたら、唐突に声を掛けられた。声のする方を向くと、アイボリーカラーの縦筋セーターに白衣を着た眼鏡の女性。


「あ、坂本先生。おはようございます」


「おはようございます。随分と早いですね」


 ふんわり三つ編みを撫でつけながら、坂本先生は髪の毛に負けないくらいふんわり笑う。


「寮から結構遠いかなと思って急いで出てきたんですが、思っていたよりは近かったみたいで……」


「ああ、なるほど」


 頷いて坂本先生は続ける。


「確かに菖蒲園って遠いですからね。昔は菖蒲園から来る人の方が遅刻が多かった、なんてこともありましたよ。学校の敷地内だからすぐに着くだろうと思っていたら、案外遠くて……という感じで。私も綾里……あっと、こほん、益田寮長の家に遊びに行くこととかもあるのでよく分かります」


「そういえば……」


 昨日の夜から気になっていたことを、せっかくだから確認してみる。


「坂本先生と益田さん、後咲野先生って仲が良いんですか?」


「あー……えっと」


 ぽりぽり、と頬を掻いて坂本先生は苦笑いする。


「仲が良いと言うか……んー、そうですね。少しお時間があるなら、保健室でお話しでもしましょうか」


「お邪魔でなければ……はい、お願いします」


 せっかくの申し出だから、断る理由なんてない。私も暇だったし。


 自分の教室にはまだ入っていないのに、学校の保健室には2度目なんて珍しい体験だなあと思いつつ、促された通り保健室の椅子に座る。


「理事長と学園長を含めて、全員腐れ縁というところです。ほら、昨日少しお話ししたと思いますが、私、医師免許を持ってるんです。元々は医者を目指してたんですよ。卒業して、病院勤めを始めてしばらくしてから、この学校を真雪……太田理事長が創立するにあたって、養護教諭と教師を必要としているという話があったんです。その頃、私も丁度色々あって、医者を諦めようと思っていた時期だったので、大学に再度入り直して養護教諭免許状を取ったんですよ」


「そ、そこまでしたんですか?」


 いくらなんでも、と思ったけれど、苦笑いしながら首を振った坂本先生。


「ええ。……正直な話、親が医者だったから無理医者になれ、って医学部に行かされていただけで、元々あまり医者になる気は無かったんです。というより、本当は学校の先生になりたかったんですよ。ふふっ、まあ真雪ちゃんや綾里とは高校時代からの付き合いでしたし、私が教師になりたかったのを知っていたんでしょう。綾里も寮長として協力するって聞きましたから、それじゃあ……と思って」


「それなら、せっかくですし教師の方に……とはならなかったんですか?」


 そこまでして学校に入り直したら、教師になれば良かったんじゃないかと思うけれど。


「んー、そうね。……確かに教師になるのもありだったのかもしれないけど、必要とされていたのは養護教諭だったし……何より」


 あはは、と再び苦笑い。


「昔から試験結果は良いのだけど、人に教えるのは苦手で……だから、先生は諦めました」


「な、なるほど……」


 確かに頭が良い人が必ずしも先生に向いているとは限らない、と聞いたことはある。頭が良い人は頭が良すぎて、分からないということが分からないという禅問答みたいな理由かな。


「あっと、ごめんなさいね。これから職員会議があるから、少し準備しないと」


「あ、いえ、すみません」


「いえいえ、構わないですよ。怪我とかが無くても、何かあれば保健室に来てくださいね。恋の病とかでも……ね」


 頬に手を当てながらぱちり、とウインクする坂本先生は、お茶目さと可愛さを黄金比で混ぜ合わせたんじゃないかなっていうくらいに不思議な人だと思う。


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