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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その40

 これでテスト返却は全て終了。


 休み時間に入ってすぐ、片淵さんと岩崎さんがテストを持って、私と正木さんの机まで小走りでやってきた。


「準にゃん、こんな感じだったよー」


 テスト返却がある教科が終わるごとにこちらまで報告に来てくれていたけれど、最後のテストをこちらに向ける片淵さんの表情は少し柔らかい。


 それもそのはず。


「……凄いじゃん! 都紀子、結構点数良くない?」


 ちょっと前までテストの点数が低いことを自嘲じちょうしていた片淵さんが90点台のテストをこちらに向けている。


 これまで見せてもらったほとんどの教科で90点台を叩き出していることを考えると、興奮気味に岩崎さんが言う気持ちも分かるような気がする。


「先生の教え方が良かったからじゃないかなー」


 謙遜して片淵さんが言うと、


「ってそんなこと言ったら、あたしとか紀子が馬鹿ってことになるじゃん!」


 とジト目で、でも笑いながら岩崎さんの手には60点強の得点が書かれたテストが握られている。


 岩崎さんだって半分くらいの科目で赤点ラインをギリギリでかわしたり、躱しきれなかったりするチキンレース主義者だったらしいから、それから比べれば胸を張っていいと思うけれど、確かに同じように咲野先生の協力を仰いでいた片淵さんが90点台で、岩崎さんが60点台という結果に対して「先生のお陰」と一言で言われてしまったら、岩崎さんに何かしら言いたいことがあっても仕方がない気はする。


「……って言っても、まあ都紀子頑張ってたしねえ」


 あはは、と小さく笑った岩崎さん。


 皆、分かっている。片淵さんの頑張りは。


 もちろん、先生の協力もあったけれど、片淵さんが全力で取り組んだからここまで結果が出たんだと思う。


「でも、あれだけ勉強したのに、準にゃんみたいに100点は取れなかったなー」


 チラッ、と私の手元のテストを覗き見るようにして片淵さんが言う。


「そうそう! 準ってやっぱ凄い……ってか変態レベルだよね」


「変態とは失敬な」


 不満に口をへの字に曲げて私が言う。


 確かに今回は数学の単純な計算ミスの1問以外は正解だったから傍から見れば確かに凄いけれど、今回のテスト範囲は前の学校で既にテストが終わっていた部分だったから、そんなに時間を掛けずに見直しが出来たという理由によるところが大きいと思う。


「でも本当に、凄いです」


 ただただ、素直にそう正木さんが言ってくれたのは個人的には嬉しかったけれど、正木さん自身も理系科目を除いて90点以上取っているから、十分凄いと思う。


「いやー、やっぱり進学校出身は違いますなあ……ってそうだ、テストの順位! あれって今日の帰りのホームルームで貰えるよね?」


 私の顔を見ながらしみじみと岩崎さんがそんなことを言っていたら、ふと思い出したように最重要事項を確認した。


「そう、だね」


 一瞬でまたぴりりとした雰囲気が広がった。


 次の授業が終わったらホームルームがすぐに始まってしまう。


 つまり、全てが分かるまであと1時間半くらいしかない。


 あ、ちなみに他の学校は知らないけれど、前の学校とこの学校はテスト結果の発表は共通していて、別にテストの点数を廊下に貼り出したりとかはせず、個人に自分の各教科での順位と総合順位が表示された1枚の紙切れが渡されるだけ。


 点数の掲示をしないのは個人情報がどうとかこうとかいう理由もあるのだと思うけれど、それ以上にいじめの温床にもなるからだろう。


 というわけで、私たちは緊張の糸が張ったままチャイムを聞き、全く頭に入らなかった授業を終えて帰りのホームルーム。


「……」


 名前順で呼ばれるから、片淵さんは私よりも前に受け取るのだけれど、後ろから見ていても異常に姿勢が良い。ガチガチに固まっているからだろうけれど。


 崖の上から突き落とされるのか、表彰台に立つのか。


 天国と地獄に片足ずつ突っ込んだこの状態は、そりゃあ気が気じゃないだろうと思うけれど、それにしたってテスト結果を受け取るまでに倒れるんじゃないかって後ろから見てるだけでもハラハラする。


「あー、次……片淵」


「は、はい」


 声にも緊張が載っている片淵さんの声が聞き取れた。


 紙面に視線を落とさずに受け取って、部屋の端に移動する片淵さん。


 岩崎さんが遠巻きに片淵さんに声を掛けているのが見えるけれど、テスト結果に悲喜交交ひきこもごもだったり、まだ受け取っていないクラスメイトの結果を待ち望む声でかき消され、岩崎さんの声は聞こえない。


 大きく息を吸ってから、片淵さんがようやく結果に目を通す。


「…………!」


 刹那、教室を飛び出した。


「片淵さんっ!?」


 私は慌てて片淵さんを追いかけようとするけれど、教室の前まで出てきたところで先生に捕まった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいって。まだホームルーム中だから!」


「でも!」


 私が先生を振り切ろうとしても、華奢な腕で私の腕をがっちり挟んで逃さない。


 先に出ていった片淵さん、そして私と先生の状況にクラス内も騒然となるけれど、そんな先生を止めたのは、


「何だよ先生。あたしらが授業サボっても止めねーのに、小山は止めんのかよ」


 と言いつつ、先生の肩に馴れ馴れしく腕を乗せた大隅さんだった。

8/17 文章修正

「テスト結果に悲喜交交ひきこもごもだったり、まだ受け取っていないクラスメイトの声で岩崎さんの声は聞こえない」

「テスト結果に悲喜交交ひきこもごもだったり、まだ受け取っていないクラスメイトの結果を待ち望む声でかき消され、岩崎さんの声は聞こえない」

元の文章では少し意味が通りづらかったため、修正しました。


「先生の方に馴れ馴れしく腕を乗せた大隅さんだった」

「先生の肩に馴れ馴れしく腕を乗せた大隅さんだった」

変換ミスです。


どちらも、続きを書こうと自分で読み返していたら意味が分からなかったため、修正しました。

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