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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その39

 ふと気づけば、既に太陽は上っていて、カーテンの隙間から私を覗き込んでいた。ああ、いつの間にか眠っていたみたい。


 部屋を出ると、丁度片淵さんも起きたところだったのか、最初は少し眠そうに目を擦っていたけれど、朝食を終えた頃には決意を湛えた目に変わっていた。


 ただ。


「頑張ろうねー、にゃはは」


 いつもの笑顔には少しだけ不安そうな陰も見えた。


 でも、ここまで来たのだから片淵さんが自分自身を信じるだけ。


 それさえ出来ればきっと大丈夫。


「……うん、頑張ろう!」


 片淵さんを不安がらせないように、私は力強く頷いた。


 学校では朝のホームルーム前に正木さんや岩崎さんが来て、


「大丈夫ですか?」


「ちゃんと寝た?」


 と片淵さんを心配していて声を掛けたけれど、


「うん、大丈夫さー」


 と片淵さんは笑うだけ。


 多分、何を言っても本人は不安だろうから、せめて他を不安にさせないように、という配慮だと思う。


「おーし、皆居るー? 居ても居なくても席に着けー。テスト前にホームルームやるよー」


 問題を出し合ったり、テスト範囲の再確認をしていたら、咲野先生が相変わらず軽い口調登場して、私たちはそれぞれの席へ。


 ……もうここまで来たら、全力を出すしか道は無い。


 恙無つつがなくホームルームが終わったら、すぐにテストへ。


「じゃあ、用意……始め!」


 理系問題は簡単な内容あり、引っ掛け問題や意地悪問題あり、という感じで比較的問題としてもバランスが取れた感じだったかけれど、勉強していた片淵さんなら全く手が進まない問題は無かっただろうと思う。


 ただ、文系問題は本文の解説だけではなく、授業中に雑談混じりに話をしていた時代背景などについての問題なんかがあったりして、一筋縄ではいかない問題が理系問題よりも多い印象を受けたから、どちらかというと明暗を分けるのはこっちの方かもしれない。


「……やめ! 鉛筆とかシャーペン置いて! ……ほらそこ! シャーペン置いた置いた!」


 テスト終了の合図でシャーペンを置き、私は大きくため息と伸びを同時にした。


「……っはぁ……」


 自分の出来は悪くない気がするけれど、それよりも今気になっているのは片淵さんのこと。


 ちらり、と斜め前方の片淵さんを見ると、その背中からは……うーん、何も読み取れない。


 とにかく、今回の問題からすると片淵さん自身はそれなりに点数が取れていてもおかしくないと思うけれど、問題は他の子たちがどれだけ点数を取っているかに掛かっている。


 今はまだ何も分からないけれど、なるようにしかならないし、今はもう何も考えないようにしよう。


「どうだった?」


 全科目、終わる度に確認しに来ていた岩崎さんの、最後の質問に、


「んー……なんとかなってるといいねー」


 と答えた片淵さんが疲労の色を隠さずに言う。


 ……それはそうだよね。だって、ただテストを解くだけでも大変だと言うのに、それに加えて人の進退に関するプレッシャーまで掛かっているのだから。


「よし! もう終わったことは悩んでも仕方がないし、今日くらいはぱーっと打ち上げしよー!」


「お、いいねー!」


 岩崎さんのノリに片淵さんも乗って、2人は教室を出ていく。


 だから、私は正木さんも顔を見合わせてから、


「行きましょうか」


「ええ、そうしましょう」


 と少しだけ歩幅を広めに歩き出した。


 テスト明けの開放感に浸ることも出来ず、気が気じゃない日は2週間ほど続き、テスト返却のとき。


 テスト当日よりもよっぽど緊張の色を隠せていない片淵さんだったけれど、もう結果は既に決まっているからか、まな板の上の鯉状態というか、諦観にも似た何かの感情も十分に見て取れた。


「じゃあ……テスト返すよー」


 咲野先生が少しだけ溜めてからそう言ったのは、一瞬だけ片淵さんを見ていたからだろうと思う。


 ああ、やっぱり先生も気にしてくれていたんだ。


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