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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その31

 うーん、もう帰った……ってことは無いと思うけれど、校舎内を虱潰しらみつぶしに探すのは大変。


 そうすると、どこかしら当たりをつけて探さなければならないけれど、何処から探すのが良いかな。


 私が首を捻っていると、


「あら、小山さん」


 と後ろから上品な声で名を呼ばれた。


 振り向くと、スーツ姿しか見たことがない理事長さんが、やはりいつも通りのタイトスーツ姿で立っていた。


「こ、こんにちは」


 理事長であることもそうだけれど、いつもピシッとした格好で、クールな感じもあるし、咲野先生から厳しい人だと聞いていることもあるから、ついつい背筋を伸ばして答えてしまう。


「誰か探しているのですか?」


 職員室の中をちらりと覗いてから、そう尋ねた。


「あ、えっと、咲野先生は何処かなと」


「ああ、咲野先生ならおそらく保健室でしょう」


「保健室?」


 何故? と尋ねようかと思ったけれど、良く考えれば咲野先生と坂本先生は仲が良いから、世間話でも市に行ったのかな。


 というか、咲野先生、坂本先生、益田さん、理事長さんは結構仲良しな感じがある。


 喧嘩するほど……というか一方的に咲野先生が理事長さんを恐れているだけのような気はするけれど、本当に苦手意識があるとか、嫌っている訳では無さそうだし、そもそも咲野先生が色々やらかしているのに対して理事長さんが叱っているだけのようにも見える。


「何か咲野先生に?」


「咲野先生にべ……」


 勉強を教えてもらうんですと言い掛けてから、そういえばそれって話してしまってもいいのかなという疑問がふと脳裏によぎって、慌てて口をつぐんだ。


 不正をしている訳ではないのだけれど、聞く人によっては不正と取られかねない気はするし、出来るだけこの話題はあまりしない方が良いかなと思ったのだけど。


「勉強を教わる約束でもしてるのですか?」


「え? いや、あの……」


 まるで心を覗かれたかのように、強制シャットアウトして口の中に残っていた言葉を言い当てられて盛大にどもる私。べ、まで言ってしまったからかな。


「別にやましい気持ちが無いのであれば、胸を張ってください。既に言った通り、彼女を特別扱いはしませんし、不正も許しませんが、間違ったことでなければ、生徒は学校という枠組みを最大限有効活用して良いのですから」


 そう言って、たおやかに微笑む理事長さん。


 この人が怖いと言われながらも、多くの人を惹きつけている理由が何となく分かる。


「そうですね……はい、分かりました」


「宜しい。では、私はこれから会議がありますので。何かあれば、気兼ねなく理事長室を尋ねてきてください」


「はい」


 2階へ上がるスロープの方へ理事長さんが去っていく背中に頭を下げてから、上げる途中で、


「ん?」


 何やら紙切れが私の視線の先に落ちている。


 拾い上げてみると、白紙に『荷物受け取り 16:30』とだけ記載されていた。まだお昼過ぎだから、時間的にはまだまだ先。


 電話中にメモを取ったのかもしれないけれど、走り書きにしては綺麗な楷書で、硬筆のお手本みたい。理事長さんが書いたものかな。


「うーん……」


 もし理事長さんが落としたものならすぐに届けないと。これから会議だって言っていたし、ぐずぐずしていたら渡せなくなってしまうはず。


 私は廊下を足早に進み、スロープの踊り場をぐるりと回ったところで、


「きゃん!」


 誰かとぶつかった。


 私は大してダメージはなかったけれど、ぶつかった相手は身軽だったからか、バックドロップでもしているかのような体勢になっていた。


「す、すみません」


「いたた……廊下は走らな……っておりょ、小山さん。どったの?」


 夏の終わりのセミみたくひっくり返っていたのはちょうど探していた咲野先生だったみたい。


 手を伸ばして、咲野先生が立ち上がるのを手伝うと、咲野先生は服についた埃を払ってから、


「何か急いでるみたいだったけど、何かあった?」


 ときょとん顔で私に尋ねた。


「あ、えっとその前に……今日の勉強の話なんですが、何時頃からにしますか?」


「あー、そういえば時間は話してなかったっけ。あー、じゃあ5時半頃とかでいい? ちょっと16時半くらいまで真雪ちゃんに頼まれごとがあってさ」


「16時半? あの、もしかしてこれ……」


 私がさっき理事長さんが落としたと思われるメモを差し出すと、


「ん? あれ、これ何処で拾ったの?」


 と咲野先生が目を丸くした。


「さっき理事長さんと会ったんですが、そのときに落としていったみたいで。それを届けるためにちょっと走って追いかけてたんです」


「あー、なるほど。うん、文字は間違いなく真雪ちゃんのだね。まあ、真雪ちゃんのことだから忘れてはないと思うけど、後で渡しとくよ」


「ありがとうございます」


「用事は他にない?」


「あ、はい。ありがとうございました」


「んじゃ、またねー」


 友達と別れるみたいに軽く手を振りながら、咲野先生がスロープを下りて職員室へ向かう。


 私もやることは終わったから、寮に戻ろう。工藤さんにも伝えないといけないけれど、多分寮に居るだろうし。


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