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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第2時限目 お友達のお時間 その4

「去年からなんですか」


「ええ……まあ前からぼんやりとしている感じはあったわ。でも、去年からはそれが顕著なのよ。何か思い当たる節はないの?」


 持っているフォークでウインナーを刺しながら、目の前のもふもふサイドテール娘に対して、眼鏡の娘が尋ねる。


「……ない」


 答えを考えたのか、質問の意味を考えたのかは分からないけれど、数秒のラグの後でサイドテールを揺らしながら首を傾げて、工藤さんはそう答えた。


「夜更かしてるとか」


「9時には寝てる」


「食事ちゃんと食べてないとか」


「食べてる」


「夜遊びしてるとか?」


「してない」


「…………はあ」


 諦観混じりの量産型ため息と共に眼鏡の娘が答える。


「もういいわ。とにかく、さっさと食べなさい。貴女もよ、小山さん」


「え、あっ、はい、そうですね」


 厳しい目に晒されながら私が箸を動かすと、唐突に黒電話のジリジリンっという音。古い建物とはいえ、まさか黒電話まで残っているのかと思いきや。


「電話? ……全く、この忙しい朝に何? ……益田さん? すぐそこに住んでるんだから、寮まで来ればいいのに!」


 取り出したスマートフォンの液晶画面を見て、隣の眼鏡少女が青筋を立てているけれど、それよりも今のって携帯の着信音? 随分と渋い趣味をお持ちで……とさすがに本人には言わなかったけれど。


「はい、太田です。……え? あ、いえ、それくらいは構いませんが……はあ、分かりました。それでは失礼します」


 電話を切って、疑問顔を隠さずに首を捻る隣の少女だけど、むしろ私は今の電話でさっきから気になっていたこの女の子の名前が分かったので解決顔。


 でも、太田って?


「あの、太田さん」


「何? というか、私名乗ったかしら」


「今の電話で名乗っていたので」


「ああ、そう」


 本来だったら聞き耳を立てていたなんて淑女らしからぬ行動でうんたらかんたら、と言い出されるかもしれない行動だったけれど、意外とさばさばとした答えを返した太田さんは、


「それで? 何かしら」


 と続けて返してきたので、私は疑問を口にする。


「あの、理事長の太田さんは……」


「……母よ。それが何?」


「あ、いえ、ちょっと気になっただけですよ、は、はは……」


 逆鱗に頬ずりされたような顔の太田さんの答えにごまかし笑いする私。どうやら、太田さんにとってこのネタはアウトのようだから、今度からはあまり話題にしないようにしよう。


「そんな話はどうでもいいから、さっさと学校に行きなさい。今日はまだ仕事があるんだから、手間掛けさせないで」


「……はい」


 仕事って? と尋ねたかったけれど、とにかくさっさと食事を終わらせて出て行かないと、また太田さんの雷が落ちるのは間違いないので、手を合わせていただきます。


 向かいで私たちの話を聞いていたのか聞いていないのか、飄々とした様子でゆったり食事を進めている工藤さんへ太田さんの怒りの矛先が向かったのを確認しながら、もうこれ以上巻き込まれたくはないということで、私は工藤さんへの謝罪と食事終わりの2つの意味で手を合わせてから、そそくさと台所で手早く食器を洗って片付け、部屋に戻る。


 教科書とかは今日は要らないだろうから、とりあえず筆記用具とノートとプリント用のファイルくらいで良いかな、と思いつつ鞄に入れる。まあ、そもそも教科書はまだ届いていないから、持って行きようがないのだけど。しばらくは隣の人に見せてもらうしかないかな。


 寮を出て腕時計を確認すると、まだ8時前。始業時間は8時50分からだから、さすがにゆっくり歩いても間に合うかな。


 ほっと一息吐きながら、これから短い間かもしれないけれどお世話になる校舎の方を見る。


「うーん、距離的には徒歩2、3分ってところなのになあ」


 同じ学校の敷地内に校舎も寮もあるし、始業時間は8時50分なのに8時前に出るなんて早過ぎると思うなかれ。実は寮と学校の間に大きな池があるから、そんなに近くはない。歩いたら多分50分丸々使うとは言わずとも、30分くらいは掛かる、と思う。


 ボートとか船があれば寮から池を通学路にしてすぐに着くんだろうけれど、もちろんそんなものが置いてあるわけもない。ボート通学なんて優雅で良いと思うけれど、実際やってみると結構大変なんだろうなあ。特に雨の日とか。


 池を迂回するように伸びている道を散歩がてら歩いていると。


「ああ、来た。おおい、小山さん」


 ややハスキーめな声で手を振りながら走ってくる人物が1人。


「あれ、益田さん?」


 私の目の前まで来て、肩で息をしながらさっき太田さんと電話をしていたはずの益田さんは私に四つ折りの紙を差し出す。


「先程、キミのお母さんが来て、これを渡していった、んだ」


「え?」


 受け取った紙を開いてみると、それは前の学校に居た証明書である在学証明書だった。転入時に必須ということで、忘れないようにと母から手渡されてファイルに挟んでいたはずだけど。


 慌てて鞄の中のファイルを開いてみると、確かに他の書類はあるのに在学証明書だけ入っていなかった。あれ……入れたような気がしたんだけど、ううむ。


「ありがとうございました」


「いやいや、礼はキミのお母さんに言ってあげてくれ。もう少しで真雪……いや、太田理事長からお叱りを受けるところだったからな」


 ようやく息を整えた益田さんは私の頭をポンッ、と軽く叩く。


 咲野先生も言っていたけれど、何故皆理事長を怖がるんだろうか。よっぽど……ううん、想像したくないです、はい。


「……さて、私は寮に戻るよ」


 益田さんはさわやか笑顔で手を軽く振って寮の方へ歩を進めたので、私も手を振ってから校舎へ向かった。


9/13 文章修正

「ごまかし笑いする私に対して、逆鱗に頬ずりされたような顔の太田さんが答えた」

「逆鱗に頬ずりされたような顔の太田さんの答えにごまかし笑いする私」

太田さんが怒っているのに対し、準くんがごまかし笑いをする、という順番だったのですが、文章の順番が逆になっていたため修正しました。

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