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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その25

「あー、やっぱ広いお風呂って良いねー」


 広い湯船にご満悦の咲野先生が、湯船の中で目一杯伸びをする。


「そ、そうですね」


 結局、退きならない状況に何も言えなかった私は、先生の隣で縮こまりつつ、相変わらず勝手に泳ぎだしてしまう自分の視線の手綱を締められないまま、体操座りをしていた。


 そんな私の様子を気にも留めない様子の咲野先生は、


「はー、うちはゴールデンウィークちゃんと休めるから良いわー」


 と溜息と共に言葉を吐き出した。


「え、ゴールデンウィークは普通に休みじゃないですか?」


 私の疑問に、あ゛ー……と凡そ他人に見せる姿じゃないと思うほどに緩みきった様子で、咲野先生が言う。


「学校に依る……というか顧問やってる部活とかに依るんじゃないかなあ。うちはほら、部活の顧問はそもそも必須じゃないじゃん?」


 じゃん? と言われても良く知らない。


「どうしても生徒側から立ち上げたいって言われた部活は一部、講師を外部委託してたりもするからねえ。お陰でアタシらが連休中に部活のために出てくるとか、そういうのはなくて済むってワケ。あ、でもテスト問題とか考えるために何回か学校には出たよ」


「部活の顧問ですか」


 確かに部活の顧問って大変そうなイメージが。まあ、私はほとんど部活がない学校に居たから、完全にイメージだけでしかないのだけど。


「小山さんは知らないかな。結構前に、学校の教師の生活がヤバイって話がニュースに連日取り上げられるようになってさー。あっちこっち、学校の教師の負担を減らせーって話になったんだけどね。アタシの知り合いの教師とかに聞いてみても、やっぱ部活の顧問とかやってるとまだまだ休日に出るとか当たり前なんだってさ」


「休日……ってことは連休中にも出てきたりとか?」


「そうそう。まあ、部活強いところだったりすると、合宿とかに行くこともあるらしいねえ。まー、たまには合宿とかも面白そうだけど、連休の度に学校出てきて部活とか大変だよねえ。アタシには無理」


「確かに大変ですね……」


「ま、うちの場合は真雪ちゃんと夏海なつみちゃんがそこんところ、色々考えてくれたらしいけど」


「夏海ちゃん……?」


 私の疑問文に、何故か大笑いして答えた咲野先生。


「あっはっは、ゴメンゴメン。真雪ちゃんのときもそうだけど、ついつい友達だから名前で呼んじゃうんだよねえ。えっと、夏海ちゃんはアレよ、学園長のこと」


「学園長ですか」


 ふと、咲野先生の言葉で思い出した。


「……そういえば、学園長ってどんな人なんですか?」


 すっかり忘れていたけれど、そういえば学校に入ってからまだ学園長らしき人物には会ったことがない。学園長室は見覚えがあるけれど。


「というよりも、そもそも学園長って居るんですか?」


「いやいや、ちゃんと居るって。別に幽霊とかそういうのじゃないし」


「そうなんですか」


「あ、いや、でもあれかな。幽霊部員的な感じではあるかも」


「えっ」


 学園長が幽霊部員……? やっぱりそれは学園長じゃないのでは?


「まー、なんてーか……アタシが言うのもなんだけどさ、変わりもんだからねー、あの子も」


 天井を仰ぐように湯船にもたれれ掛かって言う咲野先生。


「元々は研究とかやってるタイプの人間だったんだけどさ。真雪ちゃんと昔から仲良かったのもあって、真雪ちゃんが学校を建てるー、なんて言い出したときに、真っ先に手伝ってくれたのが夏海ちゃんでさ」


「優しい人なんですね」


「ってのもあるかもしんないけど、まあ真雪ちゃんも色々苦労してたからねー」


「色々?」


 私の言葉に、少し詰まってから咲野先生が答えた。


「んー、そこはまあ、アタシからはなんとも。ま、夏海ちゃん自身、結構真雪ちゃんを気に入っていたみたいだし、今の自由奔放な状態が許されてるのも多分、2人の絶対的な信頼関係からなんじゃないかなあって思うね。ま、心配しなくてもその内、学園長にも会えるって」


 あはは、と屈託なく笑う咲野先生の言葉にそれ以上の質問が思いつかなかった私は、でも無言のままでは何だか落ち着かないから、


「……あ、えっと」


 と考えなしに、続けて口を開いてしまった。


「ん、何ー? この際だから何でも答えるよー。年齢とスリーサイズ以外なら……って女同士じゃそもそも聞く話じゃないか」


 ……そ、それなりにその話題には興味はあるけれど、流石にそれは聞かないです、よ。


 きっかけは考えなしだったけれど、それでも良く考えれば相談したいことならあった。


「あの、テストって……」


「あ、それはダメー」


 私が言い掛けたところで、すぐに咲野先生が小さくバッテンを指で作った。


「確かに小山さんが困ったときには何でも言う事聞いてあげる、とは言ったけどさ。友達のためとはいえ、それは教えてあげらんないな」


 表情では笑顔を作りながら、それでも厳しい目で私の方を向く。


 でも、私の尋ねたかったことはそうじゃない。


「違います。答えを聞きたい訳ではないです」


 私だって、そんな卑怯な手でクリアしようとは、最初はなっから思っていない。


「じゃあ何?」


「勉強方法を教えて欲しいんです」


「勉強方法?」


「はい」


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