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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その22

「ふむ……代償はなんじゃ?」


 私を見るおばあさんの視線に、私は視線を虚空へ逃がす。


 誤ってとは言え、自分からこの話を振ってしまったのだから、今更無かったことには出来ないことは分かっているけれど、全く関係ないこのおばあさんに話す意味は?


 私の行動から、やれやれと溜息を吐いたおばあさんは、


「ふん、なるほどな」


 と自己完結。なんというか、自分の中で完結する人が多いなあ。


「ま、大方分かるが、言いたくなければ言わなければ良かろう。せいぜいあがくがいいわ」


「……」


 私の沈黙に、背を向けたおばあさんは、去り際に一言残していった。


「結果がどうであれば、精一杯やって、悔いだけは残さんようにな」


 視線の端におばあさんの背が、曲がり角を消えたのを確認してから、1つ溜息を作る。


 ……確かに先走ったのが原因で、色々起こしているのは自覚しているし、もっと良い手が有ったのではと後悔することも少なくない。


 ただ、許せないことは許せない訳で、それを適当で済ませてしまうことは看過できないのもある。


 じゃあ、どうすれば良いのか。それが分からない。


「おまたー……ってどうしたの、準にゃん。なんか難しい顔してるよー?」


 てててっ、と戻ってきた片淵さんがそう言って私を見る。そんなに表情は変わっていただろうか。


「ああ、ううん。何でも無い。じゃあ、戻ろっか」


「あいさー」


 そう言って私たちは寮に戻る道を歩き出し、私は1度だけおばあさんの去った先を振り返ってから、再び帰途きとに就いた。


 悔いの残らないように、か。


 やや棘のある言い方ではあるけれど、言葉の端々に人を気遣うような内容を含んでいる、気がした。それが所謂年の功なのかは分からないけれど。


「ただいまにゃー」


 片淵さんが一緒に私の部屋へ戻り、戻るなりテオと遊び始めたのを横目に、私は鞄を下ろし、ベッドに背を預けて少し考える。


 今のままのペースで本当に大丈夫だろうか。


 片淵さんのテストの点を上げるなんて簡単に言いながら、勉強はガツガツしない、楽しくやる、なんて言って本当に出来るのか。


 駄目だったとしても、私が学校を転校するきっかけになるだけだから、負けはないとたかくくっているだけではないのか。


 そして。


 ……もし駄目だったとき、必死で勉強しなかったことを言い訳にするためではないのか。


 徐々に私自身も分からなくなってきている。


「そろそろ昼食かねー」


「あ、そう言われてみれば」


 片淵さんの言葉に呼応するように、私のお腹がくぅー、と空腹を示す音を鳴らした。


「あっはっは。ナイスタイミングだねー。んじゃあ……ありゃ? また誰かがピアノ弾いてるね」


 テオと占拠していたベッドから下りた片淵さんが、ふと静止して耳を澄ましてからそう言った。


 私も片淵さんに倣って聴覚に集中してみると、なるほど確かに、しっかりと閉じていなかった部屋の扉の隙間から、前にも聞き覚えのある打鍵の音が響いてきているのが分かる。


 私と片淵さんは、お互いどちらからともなく視線を合わせてから、部屋を出て、階下へ。


 開け放たれたままの食堂には予想通り、エプロンを手近なテーブルに置いて、白鍵と黒鍵に指を走らせる益田さんの姿があった。


 前回聞いたときよりは幾分かスムーズに流れるようになっており、区切りの良いところで手を止めて振り返った益田さんは、


「……うおぉぅ!」


 と前の焼き直し的な反応を見せた。


「き、聞くのは良いが、せめてちゃんと声を掛けて欲しいものなんだが……」


 ぽりぽり、と頬を指で掻く益田さんに、


「すみません。また、ピアノの音が聞こえていたので」


 とこちらも頬を掻きながら返す私。


「ははは……まあ、そうか。連休も最終日だから、そろそろ皆帰ってくるだろうと思って、ちょっと練習していたのだが……どうした? 練習しに来たのか?」


「いえ。えっと……昼食に」


 私の言葉に、


「ああ、すまない。今日はオムライスだから出来たてを食べてもらおうと思っていたところだ。じゃあ、昼食にしようか」


 といつもみたいな笑顔を返してくれた益田さん。


「お願いします」


 その益田さんの言葉に、私と片淵さんはほぼ同時に頷いてから、席に座った。


「……そういえば、益田さん」


 台所でオムライスを作っている益田さんに、私が声を掛ける。


「ん、何だ?」


「ええっと……益田さんって、何故ピアノを始めたんですか?」


「んー……」


 少し言葉を選ぶような様子が見て取れる。


「言いたくなければ構わないですが」


「いや、別に言いたくないという訳ではないが、あまり面白い話ではないからな」


 益田さんはそう言って、複雑そうな笑顔を見せた。

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