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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その21

 片淵さんに付いてきて欲しいと言われたから来たものの、また厄介なことになると覚悟してきたこともあったからか、居ないと分かった今は少し拍子抜けみたいに感じるところはある。


 でもまあ、何もなくて良かったと、もう1度溜息をアスファルトの上に転がそうとしたところで、


「全く、またアンタかね!」


 と、何故か突然怒鳴られ、飛び出す予定の溜息は引っ込んだ。


「す、すみません!」


 脊髄反射的に謝ってしまったけれど、程なくして冷静になった私は「え、一体誰?」という疑問に辿り着き、声がした方を向く。


「そこの小うるさい女は今日、出払ってるよ!」


 私が向けた視線の向こうには、ガミガミとだみ声で喋っていて、なんとなく見覚えのある矍鑠かくしゃくとしたご老人が目を吊り上げつつ、こちらを睨みつけていた。


 ……ん? この人何処かで……?


 しばらく思案の後、片淵さんが家出するってタイミングのときにも突っかかってきたおばあさんだと気づく。そういえばあのときもこんな感じで食って掛かるような感じだったなあ。家の前で片淵母と喧嘩腰で言い合っていたのが近所迷惑だなんだって。


 お陰でついでに思い出したけれど、あのとき片淵さんと旅行に行こうなんて話をしていたっけ。結局、旅行には行けずじまいだったけれど、デスティニーワールドには行ったし、寮生活を一緒にして、なんとなく合宿みたいな気分にはなったから、楽しかったと言えば楽しかったかな。


 夏には旅行、行けたらいいなあ……ってそれはさておき、このおばあさんに対してはどう答えるのが正解かは分からないけれど、一応素直に答えた。


「あ、ええと……は、はい。分かっています」


 そうすると、バネの反動みたいにまたおばあさんが口角泡を飛ばしつつ、言葉の全力投球をしてきた。


「何だね! あの女が居ないと分かってて来たってのかね! 一体、何しに来たんだい!?」


 ああ、地雷だったかな。


「え、ええっと、ここの娘さんが忘れ物を取りに来たのに付いてきただけです。すぐにここを出ていきますから」


 片淵さんが帰ってきたらすぐにこの場を去ろうと思いつつ、そう答えると、


「何だい、その言い草! アタシがアンタを追い出そうとしているみたいじゃないか!」


 と追い打ちをかけるように答えるおばあさん。ああもう。


 もう何も答えないようにしようと心に決めたけれど、決壊したダムのようにおばあさんのお喋りは止まらない。


「アンタ、そこの娘さんが家出したときに、一緒に居た子だろう? アタシャちゃんと覚えてるよ!」


 しまった。私だけではなく、向こうも私の顔を覚えていたみたい。


「全く、あの無愛想な女に育てられたから、娘もひねくれてしまったんだろうね!」


 ……全く酷い言い草だと思うけれど馬耳東風。聞き流すことに専念する。


「あんな母親に育てられたら、どうやったら育つんだか分かったもんじゃないよ!」


 どうやら、このおばあさんはよっぽど片淵母について、腹に据えかねる何かを抱えているらしく、さっきから片淵母を集中攻撃している。


 いや、片淵さんにもちょいちょいと言葉の砲火を浴びせかけているから、片淵家が嫌いなのだろうか。


「娘さんは家庭教師付けても全然成績上がってないんだろ? どうせ何やっても駄目な子なんだよ、あの子は」


 カチン。


 自分でもスイッチが入ったのが分かった。


 そして、そうなると自分で止められないことも。


「何故、そんな勝手なことが言えるんですか! 彼女の何が分かるんです!?」


 ああ、駄目だと思いつつも怒りに任せて私が怒鳴ると、おばあさんは私を、睨みつけると言うにはやや陰のある表情で答えた。


「ふん、そこの家族は小さい頃から良く知っているからさ」


 背の低いおばあさんの視線が、見上げるようにして見ている私の目を射抜く。


「今のまま、あの母親に縛られているようじゃあ、一生何も出来んよ」


 その冷静さが伝播して、私もさっと潮が引くように、怒りが静まる。


「それはっ……確かに、そうだと思いますが」


「ふんっ」


 鼻息を荒くしたまま、おばあさんが言う。


「反抗も出来んのだったら、一生あの女の小道具にしかならん。所詮、その程度のものじゃ」


 そう、言いたい放題言って去っていくから、いつもみたいにまたムキになって私は、


「絶対、彼女を次のテストで10位以内に引き上げてみせますから!」


 と叫んだ。


 ……で、叫んだは良いけれど、良く考えたらこの人にその話をしても意味が無いことに気づく。


「テスト……?」


 去っていくおばあさんが、足を止めてギロリとこちらを向く。


「え、あ、いや……」


「何の話じゃ」


 ですよねー、と思わず脳内で言ってしまったけれど、何故かおばあさんは自分の中で疑問が解決したらしく、はっはっはと高笑いした。


「……なるほど。大方、今のアンタの性格からして、あの女と言い合いになって、テストの順位を上げたら文句を言うななどと言ったんじゃろう」


「うっ……」


 図星を突かれて、私は言い返せない。


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