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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第2時限目 お友達のお時間 その3

 階下で腕組している少女は、目に掛からないくらいの前髪を人差し指で撫で付けつつ、楕円形の黒縁眼鏡の奥から鋭い眼光を放ちながら私に言い放つ。


「とにかく、この寮に来たからには寮生としての自覚を持って頂きます。……と、それはさておき、早く食事を済ませてしまいなさい。初日から遅刻など、許しませんから」


「はい」


 ぎらりんっ、と光った眼鏡を見て、私は素直にそう答え、なるべく淑やかに階段を降りる。ここでまた怒らせたら、転校までずっと目を付けられそう。


 お局様的な眼鏡少女に続いて食堂に入ると、古びた大きな机と椅子が複数並んでいて、ニュースが流れている大きなテレビとグランドピアノも置いてある。


 ピアノとか懐かしいなあ。昔、妹が1人で習うのは嫌だからと一緒に習いに行っていたことがあったっけ。もう弾かなくなって大分経つし、昔弾けた曲はもうほとんど弾けなくなっていると思うけれど。


 並んでいる大きな机の1つの椅子にさっきの眼鏡の女の子が腰掛けて、朝ごはんを食べているのが見えたから、私も倣ってそうしようと思ったのだけど、よく考えれば益田さんに朝食が準備されている、とは言われていたけれど、何処に何があるとかは全く知らされていない。


「えーっと……」


 周囲をキョロキョロ。食事用テーブルとかにはさっきの怒りオーラの眼鏡ちゃんが食べているもの以外、何も置かれていないから、机の上に準備されているわけではないみたい。ということは台所の方に何か置いてあるのかな?


 台所の中を覗いてみるけれど、目に付くところには食べ物は見当たらない。とすると、冷蔵庫の中?


 でも、冷蔵庫の中を勝手に開けてしまうとか良いんだろうか? 一応、益田さんに確認を取って……いや、でもそこまでするほどでもないかな……あの眼鏡の――


「何をしているのかしら」


 悪い癖の、変な気を使って躊躇いに躊躇っていると、見るに見かねてだろうか、眼鏡の女の子がいつの間にか台所に入ってきて仁王立ちしていた。コワイデス!


「え、あ、あの……」


「……はあ。大方、益田さんが食事の仕方について教えてくれてなかった、とかでしょう?」


「あ、はい」


 教えてくれなかった、という言い方から察するに、やっぱりあの人は結構抜けているみたい。


「だったらさっさと聞きなさい。そうやって、ずっとうろうろしていたって、何も解決などしないんですから」


「……はい」


 彼女の言い分はもちろん分かっている。


 分かっているのだけど、これは私の性格だからそう簡単には直らない。いつから、こんな風になってしまったのかは覚えていないけれど、それでも――


「……小山さん、また何か考え事かしら」


「え、あ、すみません」


 自分を呼ぶ声に慌てて頭を下げた私に、溜息を吐いてジロリと睨む黒縁眼鏡の女子生徒。


「貴女がどういう方かは知りませんし、知る気もありませんが、人が目の前で話をしているのを無視するのは気分が良いものではないですわ」


「はい、申し訳ないです」


「もう1度しか言いませんから、ちゃんとお聞きなさい」


 眼鏡の女の子が教えてくれたことをざっくりと説明すると、台所の奥にある業務用冷蔵庫にラップして入れてあるトレイを取り出して、電子レンジ、オーブントースター、ガスコンロとフライパンなどなどを使って、温めたりアレンジしたりして食べて欲しいとのこと。どのトレイも同じだから、誰用だとかいう区別はないみたい。


 ただ、朝は大体時間が無いから、皆電子レンジとオーブントースターで済ませているとのこと。壁掛け時計を見る限り、確かに余裕はないかも。


 夕方も同じように食事が準備されているらしいけれど、朝とは違って時間があるから、人によっては一手間加えている子も居るんだとか。でも、夕飯は既にある程度出来上がったものが置いてあるだろうから、工夫する余地ってあるのかな?


「……おはよう」


「工藤さん! また貴女は……あら?」


 入ってきた女子生徒の方も向かずに一瞬だけ声を荒らげて、その女子生徒を見た瞬間に、声のトーンが下がった。


「珍しいわね、工藤さんが髪の毛ずぶ濡れじゃない状態で食堂に来るのって」


「……そこの……」


 眼鏡少女の声に答えたのは、さっきずぶ濡れでお風呂から上がってきたわかめ星人ちゃんだった。名前、工藤さんっていうんだ。


 既に私と同じ制服姿に着替えており、髪は横で1つ縛っている、いわゆるサイドテールという髪型だと思う。


 その工藤さんは私を指して、


「……大きい人に、拭いてもらった」


「大きい人……」


 そうなんだけど、言われ方がちょっと……。


「本当?」


「えっと……はい」


 別に隠すことでも何でもないから答える。


「それは良かった。ありがとう、小山さん。後、ついでにこれからもよろしく」


「はい。……えっ」


 これからも?


「これからも、よ・ろ・し・く!」


「あ、はい」


 有無も言わせない眼鏡の娘と、自分は無関係とばかりに自分の食事トレイを持ってきて、眼鏡っ娘の前に座ってもしゃもしゃし始めたわかめ星人こと工藤さん。


 私もとりあえず、トレイを持ってきて、眼鏡の子の隣に座る。


「わか……ごほんっ、工藤さんっていつもあんな感じなんですか?」


「ええ。貴女も知っていると思うけれど、タオル1枚で上がってきて、髪の毛は全然拭かないし、ふらふらと歩いてきて、たまに廊下で倒れていたりして。お陰で毎朝、床の雑巾掛けが日課なのよ。全く……元々低血圧だとはいえ、去年辺りから酷すぎるわ」


 はあああ、と深々溜息を吐いた眼鏡の娘。お疲れ様です。

遅くなりましたが、続きです。

未だ、眼鏡ちゃんの名前が出てきませんが、別にもったいぶっているわけではなく、自己紹介タイミングを見計らっているだけです。

多分、次で紹介されると思います。


9/13 語句修正

「益田さんが食事関連について教えてくれなかった」

「益田さんが食事の仕方について教えてくれてなかった」

食事関連といえば食事関連なんですが、言葉があまり適切でないと思いましたので修正しました。

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