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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その19

 ……今、勢いに負けて、流れで凄いこと言いそうにならなかった?


 今更ながら、自分の言おうとしていたことを思い出し、ドクンドクンと心臓が跳ねそうなくらいに脈打つ。


 友達しては片淵さんは非常に付き合いやすいし、一緒に居て楽しいけれど、さっきのアレはどう考えたって友達以上のことを期待した感じの表情だったと思うけれど、正木さんといい、片淵さんといい、もしかしてうちの学校ってそういう趣味の子が多いのだろうか。


 ……いや、それとも私が知らないだけで、皆して私が男だと知っているのに、知らないフリを続けているという、学校を挙げた意地悪だったりするのかな。


 とにかく、早鐘を打つ心臓に落ち着くよう命令を下すけれど、充分に静まる前に、


「準にゃん」


 とまた囁いた片淵さんの声で私はどきりとする。


「な、何?」


「……転校、しないよね?」


「…………うん」


「良かった……」


 いつもの少し間延びした口調ではなく、心底安心したような片淵さんの言葉は、もう少しだけ続いた。


「私……頑張るから……」


 寝言なのか、意思を持っての言葉だったのかは分からないけれど、片淵さんはその言葉を最後に、寝息を立て始めた。


「…………」


 今の、嘘に嘘を重ねた姿で生活をしている私にとって、片淵さんの気持ちは嬉しさよりも申し訳無さが上回っている。


 だって、ずっとこんな状況、許される訳がないから。


 転校。


 友達。


 将来。


 ……一体、私はどうすればいいんだろう。


 翌日。


「…………準」


「…………ん」


 誰かに声を掛けられた気がして、布団の中でもぞもぞとした私はゆるゆると開く瞼の先に、髪の毛がぼさぼさのわかめ星人との邂逅を果たした。


 そのわかめ星人が一体何故地球の、それも日本のこの古ぼけた女子寮に居るのかを理解するのに少しの時間を要したけれど、


「あれ、工藤さん……?」


 なんてことはない、いつもの工藤さんでした。


 今日はまだお風呂に入っていないみたい。


「おはよう」


 私は体を起こして、クラスメイトに挨拶をする。


「準、昨晩はお楽しみでしたね」


「……へ?」


 お楽しみ? 昨晩?


 ……ああ、なるほど。


「昨日のパジャマパーティー? は楽しかったね」


「……駄目、準は分かってくれない」


 何故かしくしく、と泣いている風の工藤さんに私は首を傾げた。何か間違えた?


「こ、小山さん……?」


 わかめ星人……はもういいかな、工藤さんの隣にはいつものようにセットで居る園村さんの姿も。まだどちらもパジャマ姿だから、起きてすぐ私の部屋に来たのかな。


「はい、園村さんもおはようございます」


「おはようございます……ってそうじゃなくて。と、隣に……ベッドの隣に居るのは……」


 園村さんの視線の先には、同じベッドで未だすぴーと寝息を立てて寝ている片淵さんが居る。


 数秒のシンキングタイムの後、園村さんの視線の意味が分かった。


「あ、えっと……」


「…………」


 何故か非難するような目を向ける園村さんと工藤さん。


 ……あれ? これ私が悪いの?


「い、いや、片淵さんが、夜ね……」


「言い訳しない」


「いや、言い訳じゃなくてね?」


 視線の非難の意味は、経緯はどうであれ、結果として女の子に添い寝してもらったという現状についてだと思う。


「小山さんがそんな人だったなんて……」


 よよよ、と大げさにくずおれる園村さん。いや、違いますからね!?


「準はロールキャベツ系」


「え、なにそれ?」


「外見は草食系、でも実は肉食系。危ない」


「あ、危なくないからね!? 何もしてないから!」


 なるほど、確かにロールキャベツは中にお肉が入っているけれど、って感心している場合じゃない。


「……んあ」


 問題の中心に居る眠り姫は、王子様のキス無しで目が覚めたらしい。


「おはよう」


「おはようございます」


 片淵さんにはなぜか普通に挨拶する工藤園村コンビ。


 これ、やっぱり私だけが悪いことになってない?


「千華留、お風呂行こう」


「そ、そうね! もうご飯出来ているらしいので、早く下りてきてくださいね」


 そそくさと部屋を出ていく工藤園村コンビを目で追った片淵さんは、寝ぼけ眼のまま私の部屋に視線をぐるりと一周送って、


「……そっか。準にゃんのベッドで寝てたんだっけー」


 いつもの調子でそう言ってから、大きなあくびと伸びをした。


「あ、準にゃんもおはよう」


「……うん、おはよう」


 まあ、いっか。


 とりあえず、朝ご飯にしようとベッドから下りると、


「昨日の夜のこと、忘れてないからね」


 ぽそりと私の耳元にそう言った片淵さんは、起き抜けでまだ頭が充分働いていない私が言葉を咀嚼している間にベッドから下りて、部屋を出ていってしまった。


 ……昨日の夜のことというのは、好意の言葉を言い掛けて止めたことの方か、それとも転校しないと言ったことの方か。


 どっちにしても、自分の進退が窮まっている事実に気づき、私は人知れず、


「おぅ……」


 とあくびなのか溜息なのか良く分からない何かを口から出した。


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