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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その18

「え、ええっと……」


 まさか聞かれていると思わなかったから、言い訳を考えているわけもない。


 というかいつの間に入り込んだんだろう。まさか幽霊!? ……いや、まあそれは無いとして、私が布団被ったときにこっそり入ってきたのかな。


「何か、学校で嫌なことでも有った? おかーちゃんに言ってみなー……って誰がおかーちゃんか!」


 暗闇で一人ボケツッコミする片淵さんに、私はどうとも言いづらい笑いを返す。多分、ほとんど見えていないけれど。


「……」


 自分の一人漫才のせいで逆に言いづらい雰囲気になってしまったと思ったからなのか、私が黙っていると、


「何も言わないなら、こうだっ!」


 と言って、片淵さんは突然私の脇腹に手を持ってきて、


「こーしょこしょこしょ」


 とくすぐりを開始した。


「ちょ、まっ、ひゃははははははっ」


 突然のことに私は盛大に笑いながらジタバタするけれど、片淵さんは私の懐の中に居たからか、私の反撃をことごとかわし、


「ほらほらー、ちゃんと喋らないとこうだぞーおっ!」


 と尚もくすぐりを続ける。


「あ、あははははっ」


 私が大笑いしていると、ぴたりと攻撃が止んだ。


 あれ? と脳内に疑問符が浮かんだと同時に私の体に手を回される感覚。


「……今の学校、そんなに嫌?」


 ぽつりと、私の胸に顔を埋めた片淵さんがそう呟く。


「……」


 そんなことはない、と答えたかったけれど、答えられない。


 だって、違うと答えたら次に来る質問は当然「じゃあ何故?」に決まっている。


 そうしたら結局、私は何も答えられないだろうから。


 ……いや、それとももう、全てを素直に話してしまう方が良いのかな。


「準にゃんも結構、学校生活楽しんでると思ってたんだけどなー」


 にゃは、といつもより力なく笑う片淵さん。


「それは……」


 まだ、答えることに躊躇する。


「胸のこととか?」


「いや」


 あ、今のは素で答えてしまった。


「違うかー。じゃあ合わないコが居ると、か……あ、そっか」


 自分で言って、自分で何故か納得した片淵さんは、


「ごめんねー。気づくべきだったねー」


 と言いつつ、私に回していた腕をほどいて、上半身を起こした。


「……?」


「そうだよね。色々迷惑掛けたし、邪魔だったよね、本当にごめん」


 そう言って、片淵さんが布団から出る。


 ……もしかして、片淵さんが嫌いで転校したいと思っている、と勘違いされている?


 確かに片淵さんたちが出ていった直後に”転校”なんてキーワードを出したら、そんな勘違いをされても仕方がないかもしれない、とまあ良く自分でも一瞬でそこまで頭が回ったなと思う。


「待って」


 ほぼ暗がりで、窓から入る月明かりで見えた青白い腕を捕まえて、片淵さんを引き寄せた。


 引っ張られることなんて想定していないであろう片淵さんは、その拍子に私の方に倒れ込んできた。


「……」


「……」


 キスしそうなくらいの距離で、僅かな明かりの中で片淵さんと目が合った。


「あ、あの……」


 改めて面と向かって話そうとすると、私は気後れしてしまう。


 今まで、中居さんとか工藤さん、園村さんは私を男だと最終的に知っても嫌わないでいてくれた。


 でも、それは本当にたまたまであって、それが当たり前だと思ってはいけない、はず。


 ……はずだけど、割とあっさり受け入れられたケースがあるからこそ、もう言ってしまっても良いんじゃないか、という気持ちに揺さぶられている。


「片淵さんのことは嫌いじゃないよ」


 少ししおらしく、いそいそと布団に入ってきた片淵さんが尋ねる。


「……本当?」


「本当」


「へー……嫌いじゃないだけ?」


「え?」


 片淵さんの言葉に、私は一瞬固まってから解凍されて、再冷凍された。


 最初意味が分からなくて固まって、ああなるほど嫌いじゃなくて、その反対は? という言葉を待っているという問いだと分かってから「え? これって絶対答えなきゃいけないヤツだよね?」というプレッシャーを感じて再停止、という順番。


 薄明かりの中でも、片淵さんがじっと私を見つめて言葉を待っているのが分かる。


「え、ええっと……」


 私はしどろもどろになりながら、言葉の続きを出そうとする。


 ……これ、自分が男だって暴露するよりも恥ずかしくない!?


「あ、あの、片淵さんのことは、す……す……」


 後、一言……という瞬間、むぎゅっと口を抑えられた。片淵さんの人差し指と中指で。


「……にっはっは、やっぱ止めたー。なんか、無理やり言わせてるみたいで悪いしねー」


 そう言った片淵さんは、目を伏せてから続けた。


「本当にそう思うときが来たら、そのときはちゃんと言ってよねー」

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