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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第9時限目 旋律のお時間 その14

「い、いえ、あの、知っているのは1人じゃないので……」


「じゃ、じゃあ、重、重婚か? 重婚なのか!?」


「違います!」


 私自身言ってて「いや、そういう問題じゃないでしょ!?」と思ったけれど、益田さんも益田さんで、ステップを3段飛ばししている感じに言っていることがおかしい。


 迫る益田さんから逃れようとした私はバランスを崩しソファに倒れ込んでしまうけれど、益田さんの荒い息と追求は加速し、私に覆いかぶさるように大接近。


 そのせいで、益田さんの部屋着の中で、ややフリーになっている大きな天球2つが遠心力にぶん回されていて、私の目の前では天動説が今まさに証明されようと……いや何を言っているんだろう私。物理の勉強しすぎて頭おかしくなったかな。


 この状況から抜け出す方法を、必死に頭の中で考えていたけれど思いつかず、万事休すと思ったその時、光明が差した。


「ただいまー……?」


 眼鏡を掛けた女神様は、私と益田さんを見て、少しズレた眼鏡をくいっと直してから尋ねた。


「……綾里、何しているの?」


「い、いや、こ、これは……」


 見る人によっては、益田さんが私を押し倒しているように見えなくもないけれど、そこは益田さんと坂本先生の仲。


「はあ、小山さんが可愛いとはいえ、寮長室に女の子連れ込んでそれは無いと思うわ」


 珍しくジト目で、坂本先生が益田さんを見る。


「あ、ああ、ち、違う違う。そういうではないからな!」


 私の上から慌ててどいた益田さんに、ほっと一息ついた私。助かった。


 ……そういえば、今坂本先生は私のことを未だ「女の子」と言っているけれど、何故理事長と益田さんは私を男だと知っていて、坂本先生は知らないんだろう。咲野先生はさておき、割りと口が堅そうな坂本先生にも黙っているのはちょっと不思議。


 それにしても、ただいまなんて当たり前のように坂本先生が帰ってきているけれど、本当に仲が良いんだなあ。


 ……いや、あれ?


 良く考えたら、私が来たときって毎回坂本先生、この寮長室に居るような……?


 最初はたまに遊びに来ているだけかなと思っていたけれど、良く良く思い返してみるといつも居る気がする。


 ……いや、色々事情を追求すると闇が深いかもしれないから、気づかなかったことにしよう、そうしよう。


「じゃ、じゃあ、私は帰りますね」


 襟元を正して、私はソファから立ち上がり、そそくさと玄関へ向かう。


「あ、ああ。気をつけて帰るようにな」


 そんな益田さんの声に軽く頭を下げて、私は寮長室を飛び出し、数歩行ってから大きなため息を腹の底から押し出した。


「……はあーっ……」


 つ、疲れた。


 益田さんが言っていたことも分からないでもない。少なくとも、既に私が男だと知っている3人については私のために自分から肌を見せているのだから、申し訳ないというか責任を本来は取るべきだとは思う。


 ただ、この件に関する根本的な解決方法については、早く再転校をすること以外に無い。


 だって、女子として生活していれば、今後も体育の着替えとかプールの更衣とか、そういう状況は間違いなくある。プールも数回は体調不良を原因として休むことは出来るかもしれないけれど、全て休むことは流石に難しいだろうから、数回は同じ更衣室で、一旦全てを脱ぐ必要がある訳で。


 天井のシミを数えていれば的なのと同じで、私が壁をずっと見ている内に皆が着替え終わって、さっさと更衣室から出てくれればまだ可能性はあるけれど、気立ての良い正木さんが放っておいてくれるとは思えない。ちゃんと授業に参加するのかは分からないけれど、大隅さんとかも。


 ただ、その転校の話もまだ一切連絡がない。私から聞きに行った方が良いのかもしれないけれど、理事長室に行くというのは事情が事情とはいえ、ちょっと躊躇うよね。


 それと何より、まだ親にはこの話をしていないから、学校側から許可が出ても転校出来るかどうかは分からない。


 再度、溜息を捻り出してから、私は寮に向かってとぼとぼと歩き出す。


 これ以上は悪いからと、私を男だと知っている子のお風呂を拒絶したとして、じゃあ知らない子たちにはどうするのかとか、知ってて見せてくれる(?)中居さん、工藤さん、園村さんに何かしらお詫びをするとかしたら、逆に「見せてくれてありがとう!」的なお礼と間違えられそうな気もするし、うーん……。


 まとまらない悩みを抱えたまま、私は寮の部屋のノブを捻った。


「おかえりー。どうだったー?」


 私のベッドの上で横になりながら、テオと戯れていた片淵さんが猫じゃらしを持ったまま体を起こして言った。


「ただいま。なんかお届け物がね……」


 既に事情を知っているから、片淵さんには教えてもいいかなと手に持っているつもりだった”お届け物”を差し出そうとして、私は自分が手ぶらであることに気づく。


「……あれ?」


 寮長室で桜乃さん母から女の子変身セット改を受け取る

 ↓

 それを机に置いたまま、益田さんに押し倒される(語弊があるけれど)

 ↓

 坂本先生に見つかって事なきを得る

 ↓

 私が慌てて寮長室を出て来る

 ↓

 女の子変身セット改は……?


「あーっ!? 寮長室に忘れてきた!」


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