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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第8時限目 変身のお時間 その32

「は、はあい」


 努めて明るく私はそう言ってから、振り返らずに暗い夜道をひた走る。その途中でそういえばと思い出し、一旦足を止めてからスマホを操作する。


『どうした、小山。お前から連絡があるってことは……晴海の場所、分かったか?』


 大隅さんの声がスマホ越しに聞こえてくる。


「うん。どうやら駅前にまだ居るみたい。今日のお昼行った洋服店……えっと、High-Tam? に来て欲しいって」


『あいつがか?』


「うん」


『何でまた』


「それが……」


 息を切らせながら、コミュチャに残っていたメッセージの内容と考察を伝えると、


『なるほど。確かにあいつなら携帯落としててもおかしくねーな』


 と納得の声。


『……しかし、お前の方には連絡があったのか……』


 少し思うところがある声色になった大隅さん。私も慌てて、


「私の方が呼びやすかったんじゃないかな。寮住まいだし」


 と答えるけれど、あまりフォローにはなっていないよね。


 でも、大隅さんはその言葉に少し遠い目をして……いたような声で答える。


『んなもんかねえ。まあいい、あいつの所在が分かっただけマシとすっか』


「そうだね。とりあえず、今現場に向かってます」


 私がそう報告すると、


『すまねーな、あいつのために』


 大隅さんがぶっきらぼうに謝罪の言葉を口にする。それは、素直に言うのが恥ずかしいからなんだろうけれど、こういうところは本当に大隅さんって真面目だなと思う。


「ううん、別に構わないよ」


 と私も出来るだけさらりと答える。負担に思っているわけではないよ、という意味を込めて。


『晴海に会ったら、さっさと家に連絡しろこのボケナス、と伝えといてくれ』


「ん、了解」


 少し笑いながら私が答えると、大隅さんも少し笑い口調でそう言った。


『ああ、よろしく頼む。んじゃあな』


 大隅さんの締めの言葉を聞いてから、プツリと電話が切れた。


 そこからはまた1人マラソン大会。街頭応援はもちろん無し。せめてこんな日が落ちて寒くなった時間帯ではなく、日の高い少し汗ばむくらいの時間帯だったら、応援してくれる人が居なくても、走っていて楽しかったのだと思うけれど。


 陸上部の長距離選手としてやってきた訳ではないから走っている途中に息切れを起こしかけてはいたけれど、ようやく指定場所のHigh-Tam前に到着。


 昼ほどではないにしろ、この時間でもまだ買い物客は結構居るようで、お客さんがそれなりの数、出たり入ったりしている。


 そんな中では――


「おー、こやまんじゃーん。どしたのー?」


 今日会ったばかりの白黒ギャルズ、その白ギャルの方だけがHigh-Tam前で声を掛けてきた。あれ、黒い子の方は? って何となく思ってしまったけれど、まあ常に2人で一緒に居なければいけないわけではないし、彼女の方は帰ったのかな。


「いえ、中居さんからコミュチャ? が入ってたので、ここまで来たんですが」


 私の言葉に、白い方のギャルは、


「あー、ハルが呼んだんだー。いやね、ちょっとハルが財布落としちゃってさー。今、皆で鬼探してんだけど、見つかんなくてさー」


 ハル、っていうのは確か、ゆかみー……じゃなくて、ゆ、ゆかぴー? とぱ、ぱるみゃん? のどっちかであるこの子が、中居さんに向かって呼んでいたから、中居さんの昔の仇名だったんだろうと思う。


 とりあえず、やはり予想通り落とし物探しだったみたい。携帯ではなく、財布の方のようだったけれど。


 ……ところで。


「えっと、鬼探し? って鬼ごっこのこと?」


 私の言葉に、ぽかーんと、所謂ちょっと頭の足りてない子を見るような目で見られた。


「いや、鬼ってフツー使うじゃん?」


「え、鬼?」


「めっちゃ探してる、っていう意味で鬼探してるって使うっしょ?」


「え?」


「え?」


「……」


「……」


 あ、なるほど、これが鬼やばい状況ですね。


「あ、ああ、そっかあ。確かに使うね、うんうん。ごめん、私さっき財布を探してるって言ってたから、もしかして鬼ごっことかしてたときに落としたのかなーって思っちゃって、あっはっは」


「いや、この歳で鬼ごっことかなくね?」


 頑張って誤魔化す私の笑いに便乗してくれず、白いギャルは冷たい視線を送ってくるから、私は話題変更をする。


「そ、それで、中居さんは?」


「あー、ハルならこっち居るよ。付いてきてー」


 何とか話題をすり替えることに成功した私は、ひとまず胸を撫で下ろして大隅さんに「High-Tam前で中居さんの居場所知ってる白ギャルに会ったから、これから会いにいくよ」とだけ打ってから、私は白ギャルに付いていく。


 何も話さず、とことこ先を歩いていくだけだから、沈黙に耐えかねた私が声を発する。


「中居さん、昔から結構忘れ物とかするタイプだったのかな?」


「ん? あー、どうだろうね」


 気のない返事が返ってくるだけの白い方のギャル。うーん、お昼に会ったときもそうだったけれど、やはりこの子とはあまり仲良くなれそうな気がしない。中居さんのお友達なら仲良くならないと、と思っていたのだけどね。


 駅前から少し離れたところ、解体工事現場と思われる場所の中にずんずん入っていく白ギャルに、私は一抹の不安を抱え始める。


「え、ええっと、この場所で合ってるの?」


「合ってる合ってるー。てか、あの扉の向こうだよ」


 そう言われて指の先にある扉を見ると、いかにも立て付けが悪い金属の扉があった。


 私が扉を開けて、中に入ると真っ暗。携帯のライトを点灯させて、


「中居さーん……?」


 恐る恐る声を出した私は――


 ――直後、目の前に火花を見た、気がして、後頭部に鈍い音が聞こえたと思った瞬間、気を失った。

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