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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第8時限目 変身のお時間 その31

「この学校、というかうちのクラスは特に変わった人が多いから、それに気づけたというのはあるかなと」


「何、私が変わっているとでも?」


 ギラン、と眼鏡を輝かせてこちらを見る太田さんだったけれど、


「うん」


 という私の即答にずっこけた。


「私もそう。自分ではそう思っていなかったけれど、変わってると思う。でも、それって悪いことではないと思うから」


 まだ転校して1ヶ月くらいだというのに、何だか前の学校に居た頃が遠く昔のことみたいに思えて、私は自然と笑顔になっていた。


 その笑顔に揺り動かされてくれたのか、それとも呆れられたのか。


「……はあ」


 太田さんは溜息1つを吐き出した後、少しだけ頬を緩めた。


「まあ良いわ。……で、何処に今から行くつもりなの?」


「許してくれるの?」


「ま、別に怒ってなかったし」


 ふん、とふんぞり返るようにして言う太田さん。


 いや、あのときからずっと私への態度はつれなかったから間違いなく怒っていたはずなのだけれど、その言葉はあのことを不問に付すという彼女なりの不器用な優しさなんだと思うことにした。


「もちろん、次に寮の中で騒がしくしたら、今度はほっぺたをつねってやるわ」


「うっ……それは勘弁してほしいかな」


 何となく、太田さんなら少しの手加減もなくやりそうな気がする。


「だったら静かにすることね」


 悪戯っぽく笑う太田さんは、


「……ってそれはいいから、何処に行くつもりなのか教えなさい」


 とまた真面目な顔でこちらを見る。


「え、ええっと……」


 太田さんが私を許してくれたとは言っても、あの2人と未だに仲良くしていることは太田さんにとってはあまり好ましくないだろうと思うから、何と言って誤魔化せば良いだろう。


 ただ、下手に誤魔化しても何を言われるか分かったものでは……と相変わらずうじうじと悩んで答えに窮していると、太田さんは再び溜息を生産した。


「……はあ、全く。そのはっきりしない性格は治した方が良いわね」


「う……」


「どうせ、大隅か中居のところにでも行くつもりなんでしょう」


「…………はい」


 態度から言わずもがな、というべきだったかもしれないけれど、太田さんは私の心の中を読んだようにそう言った。


「全く、貴女のことは真面目に生き過ぎた反動で、性格が逆に振れた反面教師として見ることにするわ」


「あはは……」


「いいこと?」


 ピッ、と人差し指を立てて、私の唇に触れるか触れないかくらいの場所に立てる。


「私の目の前で、こんな時間に寮を出るのは許さないわ」


「……う、うん」


 まあ、私を許してくれたとはいえ、太田さんの性格がすぐに変わる訳ではない。それは承知している。


 ならばどうしようか、と私は次の一手を考えようとしていたのだけど。


「でも、私はこれからすぐに部屋に戻るわ」


「…………?」


「だから、部屋に戻ってしまえば、貴女が何をしようが分からないわ」


「……ああ、そうだね」 


 なるほど、落とし所をそこに持ってきたんだ。


 自分の前での不正は見過ごさない。ならば、見なければいい。まあ、まだ不正というほど遅い時間ではない気はするけれど。


「じゃあ、おやすみなさい」


「うん、おやすみなさい」


 挨拶の後、薄く笑顔を見せた太田さんが部屋に戻ったのを確認して、


「準にゃん、大丈夫……だったみたいねー」


 悪戯っぽい笑い方ではなく、ただただ単純に安心したような表情の片淵さんと繭ちゃんが近づいてきた。


「うん」


「萌、ちゃんが、あんなに、嬉しそうな、の、初めて見た、かも」


「そうなんだ」


 笑顔らしい笑顔とまでは言えなかった気がするけれど、それでも刺々しかった印象は丸みを帯びた気がする。


「それで、直々に許可が出たけど、行かなくていいのかなー?」


 意地悪っぽい片淵さんの言葉に、私は小さく声を上げてから、慌てて靴を履き直す。


「じゃ、じゃあちょっと行ってくるね」


「あいおー」


「行って、らっしゃい」


 片淵さんと繭ちゃんの言葉を聞いてから、慌てて開けた扉に飛び込み――


「おっと」


 直後、視界が暗転し、顔が甘い香りの柔らかな弾力に包まれた。


 ……ナニコレ。


「ふうむ、小山さんはもう少し落ち着いた方が良い気がするな」


 視界が真っ暗のまま、ぽふりと頭を軽く撫でられた。


 う、少し前にも同じことを言われたばかりのような。


 私が状況を把握するために顔を振るって、弾力のあるアイマスクから離れると、料理上手な寮長さんのたわわが目の前に生っていた。


 あ、ああ、そういえば繭ちゃんの件で呼んでいたんだっけ。


「す、すみません」


「いや、別に構わないが、何か急ぎでもあるのか?」


「私たちが来るのが遅かったから迎えに行こうとした、とかかしら?」


 益田さんの背後から坂本先生が白衣姿で立っていた。


「あ、えっと……ちょ、ちょっと用事が……」


 しまった。時間としてはまだ夜中というには早いけれど、夜の帳は既に飛来済みのこの時間では、外を出歩くのを止められてしまうかもしれない……と思ったのだけれども。


「そうか、まあ暗くなってきたから気をつけるようにな」


「そうね。特に校門までは相変わらず暗いから足元には気をつけて」


 2人共咎めることは無かった。あ、あれー?


 確かに2人は、正確には学校の教師という立場とは違うのかもしれないけれど、こんな時間に出ても怒らないんだ。案外、自由だなあ。


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