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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第8時限目 変身のお時間 その26

「ふにゅー……」


 湯船に浸かり始めてからそんなに時間は経っていないはずなのだけど、既に繭ちゃんはお湯の熱さに依るものか、目をぐるぐる回しているようだった。


 一旦引き上げたは良いものの、片淵さんと2人で両脇から抱えるには身長差がありすぎるから、


「私が連れて行くよ」


 と言ってから、私はお姫様抱っこで彼女を抱え上げる。


「こういうとき、助かるねー。んじゃ、アタシは扉開けるよ」


 そう言って片淵さんが先んじて開けてくれた浴室の扉を出て、ひとまず彼女を寝かせる場所を探す。繭ちゃんは見た目通り、華奢だからかなり軽いのだけど、流石にずっと抱えておくのは無理。


 ただ、洗面所兼脱衣所には鏡の前に丸椅子があるだけで、寝転んだり出来るような長椅子やベッドは置いていない。


「ひとまず、バスタオルでも敷こうか。壁にもたれるようにしたらいいかね?」


 そう言った片淵さんに、私は繭ちゃんを抱えたまま首を振る。


「横にした方が辛くないと思うし、私のバスタオルを下に敷いて、その上から片淵さんのバスタオルを掛けてあげて」


「あいよー」


 口調はいつものややのんびりした感じだけれど、片淵さんは私がお願いしたことをささっと手際よく済ませてくれる。


 片淵さんが作ってくれた即席バスタオル布団に繭ちゃんを寝かせると、


「…………あ」


 比較的症状が浅かったのか、簡易布団が役立ったのかは分からないけれど、繭ちゃんはすぐにうっすらと意識を取り戻した。


「大丈夫?」


「……う、ん」


「んー、まだ少し危ないかな。とりあえずはじっとしといたほうが良いねー」


 片淵さんが、ややゆったりとした反応を返す繭ちゃんにそう言う。


「でも、準、ちゃんも、都紀子、ちゃん、も、ずぶ濡れ」


「え? ……あ、そういえば」


 繭ちゃんの様子ばかり気にしていたけれど、自分の状態はすっかり失念していた。


「にゃっはっは、そういえばそうだったねー」


「体を洗ったときのタオルを絞って使おうか」


「だねー」


 私と片淵さんはひとまず体を洗うときに使ったタオルを絞って体を拭き、着替えた後、濡れた床を拭く係と繭ちゃんの体を冷やすために風を送る係に分かれた。


 雑巾がけ係だった私が、雑巾を洗って干し直したところで、


「とりあえず、益田さんには連絡しておこうか」


 と言うと頷く片淵さん。


「寮長さんだったよね。まあ、もう大丈夫だと思うけど、念のため電話しといた方がいいかもねー」


 私が携帯を取り出して、教えてもらって間もない益田さんの番号に電話を掛けると、3コール経たずに出てくれたので、事情を簡単に説明した。


『そうか。早い対応で助かる。丁度、公香も居るから連れて行こう』


「はい、お願いします」


 そんなやり取りをして電話を切った私だったのだけど。


「……公香って坂本先生のことだったよね……?」


 頻繁に遊びに来ているらしいとは思っていたけれど、今日も居るということはよっぽど実家に帰るのが嫌なのか、寮長室の居心地が良いのかな。


「来てくれないって?」


 状況に首を傾げていた私に、片淵さんがやや心配そうな声で尋ねてきたので、


「ううん、すぐに来てくれるみたい。後、坂本先生も」


「坂本先生ってー、保健の?」


 片淵さんが驚きの表情を作る。


「そうそう」


「あれ? 連休中だし、坂本先生って家に帰ってるんじゃないのかねー?」


「そうだと思うんだけど、今日は居るみたい」


「ほー? まあ、何にしても坂本先生が来るなら安心だねー」


 片淵さんはそう言って表情を崩した。


「ごめ、んね。迷惑、掛けて」


 子猫がすがるような目で私と片淵さんを見る繭ちゃんに、


「全然、迷惑なんて」


 慌てて首を振る私と、


「そーそー。大丈夫そうで何よりだよねー」


 パタパタと、何処から取り出したのか分からない団扇うちわで繭ちゃんを扇いでいる片淵さんがそれぞれの反応を返していると、私の携帯が唐突に鳴り出した。


 何か益田さんから聞き忘れた内容でもあったのかなと電話の着信相手を見て、私は首を傾げた。


“大隅星歌”


 大隅さんと電話番号を交換した覚えはないから、大隅さんから電話が掛かってくるというのがまず疑問なのだけど、それより何より着信音も着信画面もいつもの電話と違う。


 疑念を抱えたまま、画面に表示されている通話ボタンを押すと、


『小山か』


 確かに大隅さんと思しき人の声が届いてきた。


「えっと、大隅さん?」


 訝しむような声を私が出すと、


『ああ。今コミューで通話掛けてんだ』


「……え? あ、これってそんな機能あるの?」


『あるぞ。電話番号を一々教えなくてもこれで電話も出来るから便利なんだよ……ってそれはさておき、だ』


 大隅さんが真剣な声を出す。


「どうしたの?」


『……』


 一瞬だけ、逡巡しゅんじゅんしたようだったけれど、携帯の向こうから意を決したような呼吸の後、大隅さんが言った。


『晴海から何か連絡無かったか?』


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