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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第8時限目 変身のお時間 その21

「ありゃ、そーなの? この寮って他にも人は居るのかね?」


「うん、本来は他に4、5人くらい居るはずなんだけど、良く見るのが工藤さんと太田さんくらい」


 太田さんと工藤さんは、朝ご飯の時間が結構私と近いみたいだから良く会うけれど、他の子はもっと早いのか、もっと遅いのか、朝食の時間は会ったことがない。


「実は存在しない、とか?」


「それは無いかな。会わない、とは言ったけど、挨拶したり面と向かって会うことがないというだけで、外に出ていく背中を見たことがあったりはするんだけどね」


 あくまで会話したことがあるか、とか面と向かって見たことがあるか、という意味ではない。朝食の時間を除いても、ね。


「実は幽霊だったりして」


 誰でも知ってる幽霊ポーズをとる片淵さんだったけれど、私は首を振って否定した。それはない……と思いたい。


 でも、ホンモノの吸血鬼が居るくらいだし、と微かな寒気を感じつつ、話を続けた。


「でも、もしそうならちゃんと教えて欲しい気はするよね」


「まあそだねー。ちなみに他の子の名前くらいは知ってる感じ?」


 片淵さんの言葉に私は再び首を横に往復させる。


「ううん、名前も知らない。学年が同じかすらも分からないね」


「そうなんだ。あー、でもうちのクラス、準にゃんと太田さん以外にも寮住んでた子居たような気がするなー」


「そうなの?」


「うん。まー、アタシも誰だったかは覚えてないけどねー、にゃはは」


 とりあえず、クラスメイトが1人くらいは居るらしい、という情報が手に入ったけれど、結局どんな子が他に泊まっているかは分からずじまい。今度益田さんか咲野先生に聞いてみようかな。


「あ、ご飯食べたらお風呂すぐ入るー?」


「んー、そうだね。食べたらすぐに入るのは体に良くないって聞くけど……勉強始めちゃうとキリが悪くなっちゃうし、入っちゃおうか」


「オッケー。んじゃ、ちゃちゃっと食べ終わっちゃおうかねー」


 私と片淵さんはさっさと食事を済ませてしまってお風呂に……と言うところなんだけど。


「案外あれだけあってもペロリといけちゃうもんだねー」


 着替えを持って階段を降りながら、片淵さんが私の食欲に再び感嘆の言葉を漏らした。


「そこまでかなあ」


「まー、アタシがあまり食べなさすぎなのかもだけどねー。ま、そこは体格の差ということでー……ってあ、シャンプーとリンス部屋に置いてきちゃった」


「私の使えばいいよ」


「済まないねえ、ばあさんや」


「構いませんよ、じいさんや」


 などと、何故か老年夫婦ショートコントをしつつ、脱衣所兼洗面所の扉を開けると、


「…………」


 扉の向こうには、片淵さんによりは若干背が高いけれど比較的小柄と表現されるであろう少女が、丁度スカートをストンと落としたところに遭遇した。


 そして、その少女はギギギ……と錆びついたギアが回るかのようにこちらを向き、自分の姿を他人から見られていると知るや否や、


「……ひぅっ!」


 死の恐怖でも覚えたような表情と声をして、部屋の角へ飛ぶように逃げた。


 ……あれ、もしかして男だってバレてる?


 いやいやいや、まだこの子とは全く面識が無いからバレようがないと思うのだけど!?


 それとも何ですか、実は工藤さんとか益田さんから私が男だって聞いていたパターンですか。だから、男のアンタが何でこんな時間に居るの!? と驚いたとか?


 私が困惑していた隣で、


「あー、そうだったそうだった。繭ちんも寮生なんだっけねー」


 と笑いながら恐怖にむせび泣く少女に近づいた。


 ……あれ? 知り合い?


「あ、準にゃん。さっき言ってたとおり、クラスメイトに寮生が居るって言ってたんだけど、繭ちんがその1人だったよー」


「あ、えっと……」


 この子、クラスメイト、だっけ?


 申し訳ないけれど、全く記憶にない。


 まあ、まだクラスの半分くらいしか名前を覚えていないし、名前と顔まで一致している子に至っては4分の1程度しか居ないから、正直なところこの子がクラスメイトだったか記憶を辿っても照合できていない。


 ……だったら尚の事、何故私が男だとこの子が知っているのか不思議なのだけど。


「繭ちん、なんでそんなに怖がってるのかねー? 自己紹介してたし、準にゃんのことは知ってるでしょ?」


「…………し、知って、る、けど」


「けど?」


「大きい、から、怖い……です、ごめんなさい」


 礼儀正しい言葉で「あなたは無理!」と痛烈な拒否反応を示すから、尚の事私は傷つく……というほど繊細ではないけれど、ちょっと悲しい。


「あ、えっと……ま、まあ、そうだよね。大きいから怖いよね」


 でも、どうやら男だとバレていたからではなく、単純に大きいのが怖いからだったのは喜んで良いのか、やっぱり悲しむべきなのか悩み、悲しみの割合の多めな笑顔を作ることにした。


「じゃあ、えっと、お風呂、私は後でいいから……」


「いやー、折角だから一緒に入ればいいんじゃない?」


「え? い、いや、その、繭さん? が怖がっているのであれば、一緒に入るなんて以ての外というか……」


 私がそう言うのだけど、片淵さんは「まーまー」と言って引かない。


「準にゃん背が大きいから最初はびっくりするかもしんないけど、怖がりの女王である繭ちんの恐怖を克服する良いチャンスだと思うよー」


「うう……」


 軽く肩を叩かれる繭さんが、小動物がヘビに睨まれているようにまだ小さく震えつつ、半泣きになっている。


「で、でも……」


「大丈夫大丈夫。目を瞑っていれば怖くない」


 片淵さんがさり気なく無茶を言う。


「それ、お風呂の中、入れないような……」


「それなら手を繋いであげるし」


 そこまでして入る必要が……ま、まあ、別に良いのだけど。


「ということで、折角だし3人で入ろっか」


 強引な片淵さんが服を脱ぎ始めたところで、カラカラと脱衣所の扉を開く音がする。まだ人が増えるの?


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