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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第8時限目 変身のお時間 その20

 カレーの器は既に出されていたので、それにご飯とカレーを自分の好きなだけ盛るのだけど。


「あっはは、準にゃんカレー掛けすぎ!」


「そうかな?」


 私自身、若干掛けすぎたかなとは思ったけれど、私としては少し多めくらいの量のつもりだったのに、片淵さんは大笑い。やっぱり、女性の感覚ではかなり多い方なのかな。


「でもそっか、準にゃんは体大きいからしっかり食べないと駄目だねー」


「それはあるかも」


「でも、そんなに食べるんだったら、お昼ごはんももっと食べたらいいのに。夜にばっかり食べてたら太るよー?」


「え、ええっと……まあ、そうだね」


 女の子らしく「太る」という言葉に反応したのではない。いや、そもそも女の子ではないのだけど。


 今の言い淀んだ理由は「お昼ごはんももっと食べたらいいのに」の方に対するもの。


 実は、他からの目が多いという理由もあり、出来るだけ昼食の時間は食べる量を控えめにして、女の子アピールをするように努めている。まあ、岩崎さんみたいにそもそも女子でも食欲旺盛な女子は居るのだけど、周りを見ていても岩崎さんほど健啖な女子生徒は他にあまり見当たらないから、少なくとも良いか悪いかはともかく目立ってしまうのは個人的に控えたい。


 ただ、特段ダイエットをしている訳でもない女の子の食事量でも健康的な男子高校生の食事量としてはかなり量が少ないから、正直もう少し量を増やしたい気もするので、中々悩むところ。


 ……もう色んなところで既に目立ってしまっているから今更じゃん? 食べちゃえ! と頭の中で悪魔が囁いている気がするけれど、こうやって控えめな食事を心掛けていることで少しでも男だとバレる確率を下げることが出来る……はずと思い込む、心のプラシーボ効果で得られる安寧は大事。


 まあ、既に何人かに男だとバレてる時点で、そこにあまり気を揉んでも意味がない気はしているのだけど。


「うーん、じゃあアタシももうちょっと入れようかなー」


 私よりも先にカレーを盛り付けていた片淵さんが、私の量を見て再度お玉を持つ。


「余らせてもステなきゃいけないらしいし、良いんじゃないかな? ただ、食べ切れる量にしないと駄目だよ」


「あー、だよねー。アタシ、あまり量食べられないからなー。あ、いざとなったら、残ったの準にゃん食べて貰えばいっかー」


「えー」


「大丈夫大丈夫。準にゃんなら食べれる食べれる」


 謎の太鼓判を押していく片淵さんがそう言って、カレールーの量を増やそうとしたところで、


「ちょっと! 静かに出来ないの!?」


 台所に入ってきた太田さんが眼鏡をキラリと光らせて怒鳴る。


 あー……そうだった。太田さんが居たんだった。


「ご、ごめんなさい」


 存在を忘れていたのを含め、私が謝ると、


「謝るなら最初からしないで!」


 と鼻息荒く、がしゃんと食事のトレイを置いて台所を出ていく。


「あー……怒られちったねえ、にゃはは」


 太田さんの”怒っています”と誰が見ても分かる歩き方を見送りつつ、苦笑しながら片淵さんがお玉をそのまま下げる。


「太田さん、うるさいのに厳しいからね」


「というより自分の思い通りにならないのが嫌なんじゃないのかねー」


「そうなのかな」


「何にしても、あの子と仲良くするのはまだまだ難しそうだねー」


 そう言って片淵さんが自分のトレイに、結局ボリュームアップしなかったカレーのお皿を置いて机の方へ持っていく。


「まあ、そうだね」


 頷いた私もトレイを持って、片淵さんの向かいの椅子に座った。


「いただきます」


「いただきまーす」


 温かいカレーとは裏腹に、心がやや冷めてしまった気持ちを振り切り、私と片淵さんは手を合わせて食事を始める。


「そーいやさー」


 スプーンを1口、2口進めたところで、片淵さんがスプーンを手にしたまま話しかけてくる。


「何?」


「ふつー、ゴールデンウィーク中とかって、寮のご飯とか出ないものだと思ってたんだけど、ふぉふぉはあふぁとひゅう」


「って、食べながら話してたら何言ってるか全然分かんないよ!」


「ふぁーい」


 片淵さんが笑いながら口の中にあるものをごくんと飲み込んで、


「ここは朝と夕、どっちも出るんだねー」


 と言い直した。


「そういえば、そうだね」


 中学の頃の寮を思い出すと、連休の初日と最終日は食事があったけれど、それ以外は無かった気がする。連休中なのにも関わらずちゃんと食事も出来るし、お風呂も入れるというのは結構稀なのかも。


「連休まで食事を作ってくれるなんて凄いけど、大丈夫なのかねー? えっと、寮母さんの……何さんだっけ」


「益田さん」


「そう、その人」


 ビッ、とスプーンをこっちに向ける片淵さん。


「そういや益田さん、実家に帰ったりしないのかな」


「もしかすると実家と……あー、何かあったとか」


 多分、自分で何気なしに“あの話題”を振り掛けてしまったからか、言葉の急ブレーキを感じたため、私は慌てて話題を変えた。


「あー、えっと、そういえば……この寮、他にも人居るはずなんだけど、太田さん以外、あまり会わないんだよねー」


 話の変え方が不自然ではあるけれど、私の言葉に合わせて片淵さんも表情を幾分か緩ませ、話の車線変更に付き合ってくれた。


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