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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第8時限目 変身のお時間 その11

「ふん。で、小山はもう更衣室使ってねーのか?」


 落ち着きを取り戻した私が眼前に広がる平和な映像に心をなごませていると、大隅さんが鼻息で言葉を吹き飛ばしてくる。


「え? あ、うん、もう良いよ」


「そうか」


 そう言って、大隅さんはいつの間にか持っていた下着を片手に更衣室に入った。


 ……あれ?


「今日はストーキングするために来ただけだと思っていたのだけど」


 カーテンの向こう側に声を掛けると、溜息と共に声が返ってきた。


「ストーキングネタはもう良いだろ。……元々は気になって付いてきたってのもあるが、コミューで友達登録してたら3割引きって聞いたからな。最近、ブラがきつくなってきてたし、安いなら買っとこうと思っただけだ」


 なるほど。皆そういう情報には敏感なんだなあ。


 ごそごそ、と衣擦れの音が向こうからしてきたから、私はその場にあまり居続けるのもどうかと思い、正木さんたちに合流――


「おい、小山」


 ――しようとして、更衣室の向こうから聞こえてくる声に呼び止められた。


「ん? あ、何?」


「背中のホックを外してくれ……っ、は、外れねえ」


 何やらカーテンの向こうから奮闘している声が聞こえてくる。


「うん……え、あ……う、うん」


「何だ?」


「いや、別に何も無いよ」


 大隅さんの何気ない言葉に、私はさり気なく頷き、一瞬「いや、まずいでしょ!?」という疑問を持ったけれど、もう逡巡しゅんじゅんするのも何回目ですか、もうそろそろ慣れなさいと自分で自分に言い聞かせて再度頷く、という流れを1、2秒の間で完了させた。成長……したのかな?


 カーテンを開けると、大隅さんがこちらに背を向けていたのでそのままホックに手をやろうとすると、


「開けっ放しにすんなよ。入れよ」


 と背中を見せたまま大隅さんが言う。そりゃあそうですよね。お姉さんの方は開けっ放し、かつ丸出しでしばらく話していたけれど、これが普通の反応。


 私は再び狭い試着室に入ってカーテンを閉め、半裸の女の子と2人きりに。ホント、数ヶ月前にはこんなのが当たり前な生活になるなんて思わなかったなあなんて思いつつ、大隅さんのブラのホックを外そうとするのだけど、


「……か、硬いっ!?」


 とかなり難航中。


「何でこんなに硬いの?」


「仕方ねーだろ。ブラとパンツ、合わせて買いたくてもたけえからそうそう買えねーし。サイズが合わなくなっても、結構ギリギリまで使うしかねーんだよ」


「むしろ、よく入ったね」


 さっきのサイズアップブラのキツさを知っているから、むしろこんなにギチギチにしていたら痛くて堪らないと思うのだけど。


「フックを掛けるのは意外と何とかなるんだよ。外す方はいつも姉貴かオカンにやってもらってる」


「な、なるほど……ってもしかしてまだ大きくなってるの?」


「まあ、少しだけな」


 話しつつ、力を入れてブラのホックを外すと、お姉さんに負けないくらいの2つの山が轟く。お、おおう……。


「ふぅ……」


 開放されて満足そうな声の大隅さん。いや、私の声ではないよ?


「小山、お前の後ろに掛かってるやつ、取ってくれ」


 こちらを向いて背後を指差すので、綺麗な半球が必然的に見えるわけで。へ、平常心、平常心……。


「う、うん」


 挙動不審にならないよう、私は素直に視線をその2つのお山に向けたり向けなかったりしつつ、出来るだけ自然を装って壁のフックに掛かっていたブラを渡す。


「ん、サンキュ」


 受け取った大隅さんは肩紐に手を通しながら、私に言葉を掛けてくる。


「でも、何で小山は胸を大きく見せて―んだ?」


 大隅さんの言葉に私は、


「うーん……」


 と悩むフリをする。もちろん男だからという正しい答えは出せないから、嘘の答えを出さなければならないのだけど、もし自分が本当に控えめサイズの女の子だったらどんな回答をするかなと考えた末に私は、


「やっぱり大きい方が……魅力的に見えるから、かな」


 とつっかえながら答えると、大隅さんはやれやれ、と言葉に出して言った。


「んなことねーのになー」


「そうかな」


「そうだよ」


 私の疑問に即答した大隅さんは言葉を更に続ける。


「あたしは昔、特に小学校くらいのときなんかは男とばっかり遊んでて、むしろ女とつるむこととか全然無かったんだが、中学入る直前くらいから徐々にデカくなっちまったんだわ」


 はーっ、と憂鬱げに思い出す仕草を見せる大隅さん。


「そうしたら、それを男共にバカにされるようになってな。まあ、ガキの頃だから、見た目だけは女らしくなっちまったあたしを嫌がってたっつーか、馬鹿にしたがる年頃だったんだろうけどさ」


「……どちらかと言うと、好きな子にいじわるしたい、みたいな方じゃない?」


「さあな。今となっては知らん。まあ、だから一緒に遊ぶこともほとんどなくなっちまった。かといって今更女同士でつるむ遊び方も分からねーし、どっちつかずになってたらいつの間にか誰ともほとんど接点持たないようになってたって訳だ」


 鏡を見つつ、お山の形を整える大隅さんは少しだけ笑いながら言葉を続ける。


「そんなときに声掛けてきたのが晴海だな」


「……え、そうなの?」


「ああ」

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