第7時限目 運命のお時間 その29
とまあ、正木さんwith塩化ナトリウムが始まったのだけど。
「何か、手つきがやらしいじゃーん?」
怪しげな笑いと共に中居さんがそう言ってきたり、
「何だ、岩崎とか片淵よりも正木みたいな巨乳好きか」
大隅さんがニヤリとしたり、
「紀子には何か優しくない?」
「だねー」
岩崎、片淵コンビも疑惑の視線(とは言いつつ、片淵さんは笑っているけれど)を投げかけてくる。
「い、いや、別にそんな……」
「そ、そうですよ。特別ではないですよ」
私と正木さんがそう反応すると、
「同じことを言うのがますます怪しい」
「だな」
犬猿の仲の岩崎さんと大隅さんがどちらも頷く。
「まあ、でもうちのクラスは他にも揉むの好きなヤツも居るしな」
「い、居るの!?」
「ああ。自分もでっかいの持ってんのに、人のばっかり揉んでるな。自分の揉んどきゃ良いのに」
大隅さんが思い出すように言うと、
「あー、桝井ね。いやー、他の子のぽよぽよを触るのが良いぽよ」
「ぽよぽよ言うな」
いつも通りの大隅・中居コンビなのだけど、勝手に話が進んでいくのが非常に困る。べ、別に大きければ良いという訳じゃないんだからね! ってそういう問題ではないのだけど。
脳内でセルフツッコミをしていると、
「だ、大丈夫ですよ。気にせず、続けて、くださいね」
当事者Bである正木さんが豊かな2つの山を差し出すので、
「え、ええ、そうですね」
当事者Aの私はあまり恥ずかしがらないように努めつつ、それでも手に返ってくる柔らかな弾力にドキドキしない訳もなく、サウナによる暑さだけではない鼓動の早まりを意識しながらも、目一杯冷静なつもりで手を正木さんの肌の上で滑らせる。
時間配分を上半身の前3割、後ろ7割くらいで、2つのお山に執着していませんよ、ともう遅い気はするけれど、態度で示していた私が、
「じゃ、じゃあ、今度は下半身を……」
と正木さんの危険が危ない場所に、手を伸ばすと、
「……っ」
正木さんがぴくっ、と反応するから、私は慌てて手を引っ込める。
「あ、す、すみません」
「いえ、こちらこそすみません」
「いえいえ、こちらこそ……」
私が思わず手を戻してしまったことに対して、正木さんが謝るのだけど、むしろこちらもこちらで頭を下げてしまい、謝り合戦が始まる。
「あ、えっと、続けてください」
謝り合戦を切り上げたのは正木さんが先だった。
それでは、と言いながら私は手を伸ばすけれど、体のそこここに触れる度、正木さんが声を上げるから、私もその度に手を止めてしまう。
結局、岩崎さんや片淵さんの1.5倍くらい時間を掛けたけれど、別にそういう訳ではないですよ? と何処かに対して言い訳をしつつ、
「はい、終わりました」
「……ふぅ」
私の終了宣言と上気した様子の正木さんの溜息で、全て終了した。
後はサウナを――
「よし、んじゃ次は小山だな」
「……えっ?」
大隅さんの言葉に、私が疑問符を付けて投げかけると、
「折角の塩サウナなのに、お前まだ塩まみれになってねーだろ」
とのこと。ああ、なるほど、確かに。
「んじゃー、皆で小山さんに塩を塗ろうかー」
これ幸いというわけではないけれど、
「お、良いじゃねえか。あたしもやり返さないといけないとは思ってたんだよ」
目を光らせた周りのメンバーが、
「よし、準にやり返すチャンスだ!」
逆に手をわきわきさせ返しつつ、
「んじゃ、こやまんの小山を頂くぽよー」
周囲を囲まれた。逃げられない!
にじり寄る大隅、岩崎ペアから避けようとすると、正木さんと片淵さんが左右を囲う。
そして。
「さあ、皆で好きにするじゃん?」
後ろから勢い良く、私の偽モノの半球をがっちり掴んだ中居さんがそう叫ぶと、
「おっしゃ!」
「さあ、準。覚悟してね!」
「にゃはー」
「す、すみません」
それぞれ強弱はありながらも、楽しそうな声で言いながら迫ってくるから、
「ちょ、ちょっ……あー!」
好き放題されつつ、私は皆に塩まみれにされていく。
そんな中で、突然の耳打ち。
「こ、こやまん」
「ど、どうしました?」
背後から小さく中居さんの声が聞こえて、私も小さく返すけれど、
「こやまんのぽよぽよって……外れるの?」
と、控えめに尋ねてくる。
しばらく言葉の意味が分からず、首を捻っていたけれど、なるほど胸元のそれの話をしているということにようやく気づき、サウナの汗とはまた別の汗が流れ始めた。
そ、そうだった。この作り物の女の子変身セットはちょっと熱めのお湯で接着剤が溶けてしまうから、危険なのだけど、すっかり忘れていた。それだけ女装慣れして……いや、そういう話ではなくて!
「は、外れます……」
「ヤバイじゃん?」
触っているのが中居さんだったのが救いだけれど、何故今更突然外れるようになったのかが分からない。
もしかすると、温度だけではなく、湿度……水分も影響があるのかもしれない。サウナ自体は直接水に触れているわけではないから大丈夫だったけれど、汗をかいてしまったから浮き上がって……ってそんな原因調査をしている余裕もない。




