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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その28

「準にゃん」


「はい?」


 今までの3人とは打って変わって、大人しく塩塗りされていた片淵さんだったけれど、身長差分だけ私を見上げながら、突然言葉を発した。


「敬語やめたけど、アタシたちの下の名前で呼ばないんだねー」


「え、うっ・・・そ、そうだね」


 敬語をやめるのはそんなに難しい話ではないけれど、お互いを下の名前で呼ぶのは随分と距離が近い感じがして、少し気恥ずかしさを感じてしまう。女の子同士ならそれほど気恥ずかしさは無いのかもしれないけれど。


 でも、その原因を深掘りされても困るから、


「下の名前で呼び合うとか、したことがないから、ちょっと、まだ、慣れなくて」


 とややぎこちなく誤魔化すように言うと、


「はあ……小山、お前ホント前のガッコでは友達居なかったのな」


 大隅さんが隣りに座って、何故か肩に手を回してきた。


「え、あ、まあ……いや、別に友達が居なかったというか……うーん……そうだね、うん、居なかったかな」


 大隅さんの、傍から聞いていると結構酷い台詞も、よく考えると正しいから頷くしかなかった。


「前のガッコで何があったかはちょっと聞いたが、お前はもうちょっと言いたいことは言えよ」


「うん……」


「ねえ、準」


 私の言葉に被せるようにして、岩崎さんがすぐに隣に座って言う。


「な、何?」


「前の学校の話、私たち聞いてないよ」


「あ、ああ、そうだね。大隅さんたちには寮に泊まったときに話したけど」


 そういえば、そのときもお風呂だった気がするなあ、なんてことは言葉に出さず思うだけに留めておいたけれど。


「教えて」


 否応なしの岩崎さんの目が私を見る。


 いや、岩崎さんだけではなく、正木さんと片淵さんの目も同じ。


「え、ええっと……」


 あ、コレは拒否できないな、と思っていたら、とどめとばかりにずずいっと岩崎さんが急接近してくる。


「聞きたい、準のこと。というかあたしたち、あまり準のこと知らないし」


「あー、アタシも聞きたいねー」


 温泉に入るカピバラさん的に沈黙を守っていた片淵さんも、


「私も。教えてください」


 岩崎さんの逆隣に座った正木さんも、真剣トーンの声でそう言う。


 四面楚歌……ではなく三面楚歌の私は、別に隠す必要もないからと素直に身の上話をした。もちろん、内容は大隅さんたちに話したことと内容は変わらないけれど。


「そうだったんだ……」


 聞き終わった岩崎さんが沈痛な面持ちで言うから、


「もう、大丈夫だよ」


 私が慌てて両手を振って否定するけれど、


「なるほどねー、準にゃんは準にゃんで大変だったんだねー、よしよし」


 そんな私の頭を撫でる片淵さん。い、いや、ちょっと……くすぐったいというか恥ずかしいというか。


「大丈夫です、私たちは友達ですから」


 正木さんも私をしっかり見据えてそう言うし、後ろの方で大隅さんがうんうん、と何やら頷いている。


 ……でも、その先に見えている中居さんの吹き出す顔が見えているのが凄く気になる。色々分かっているからだと思うけれど。


「あ、準にゃん。ちょっと手、広げて」


「え? うん、良いけど……」


 言われた通りにすると、片淵さんが抱きついてきた。


「え、ちょっと……?」


「大丈夫だかんねー」


 片淵さんが母性を使いこなしつつ、そう抱きつく。多分外から見たらお母さんに抱きつく子供みたいに見える気がするけれど、片淵さんなりの心遣いなんだと思う。


 ……と、思っていたら。


「……で、そうすると紀子ちんが嫉妬する、と」


 振り返りつつ、ニヤリと口角を上げながら片淵さんが言う。


「えっ?」


「へっ……あ、いや……」


 言われた正木さんが左右を見る、というか大隅さんや私の顔を見て、


「ち、違います違います!」


 と再度正木さんが盛大な反応を見せる。う、嬉しいけれど、正木さん反応しすぎです。


「にゃっはっは! じゃあ、最後、紀子ちんだねー」


 そう言って、場所を譲る片淵さん。でも、今のさっきで正木さんと向かい合うのはちょっと恥ずかしい。


 どうやら、それは正木さんも同じだったみたいで、


「あ、あの…………」


 しばらく沈黙の後。


「おっ、お手柔らかにお願いします」


 深々と頭を下げるから、私も思わず、


「い、いえいえ、こちらこそ」


 と謎の反応を返す。


「何がこちらこそだよ」


 後ろから見ていた大隅さんがそんな反応を私の後頭部に投げつけるけれど、でも私自身そう思う。


「じゃ、じゃあ行きますよ?」


「ええ、お、お願いします」


「何か新婚さんみたいじゃん?」


 にへらと笑う中居さんが煽るから、わたしたち2人は思わず視線を逸してしまう。ああ、これじゃあ全然始まらないし、進まない。


「……よしっ」


 自分で自分に活を入れつつ、塩化ナトリウムを掴む。


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