第7時限目 運命のお時間 その22
「何ー? 身長の話ー?」
私と岩崎さんが話をしているところに、タオルを持って現れた片淵さん。浴槽へ入る準備が完了したから声を掛けに来たのかな。
「え? あ、ええと、うん。そうかな?」
曖昧な表現で返す私に、
「なるほどー……って準にゃんがタメ口になってる?」
と片淵さんが眼をぱちくりさせながら首を傾げる。多分、少し前まで大隅さんと中居さんが居たのは岩崎さんしか気づいてなかったんだろうなあ。
「そうそう。さっき準と話して、もう友達なのに敬語だったから、そろそろタメ口でも良いんじゃないって」
「なるほど、うん、良いんじゃないかねー。それで、身長がなんだって?」
いや、正確には身長の話をしようとしていた訳ではなくてね? と言おうか悩んだけれど、いちいち訂正するほどのことでもないかな。
「ああ、いや。準って結構身長高いけど、体もしっかりしてるし、いいなーって」
「あー、そだねー。最初会ったときとか、男の子と間違えたし」
いえ、それは間違ってない……って指摘しようかと思ったのと同時に、やっぱりそうも見えるんだと何処かで安堵の心が生まれた。
まあ、今更になってバレたら困るから、そのときに思っただけで済んで良かったのか、むしろその時点でバレておいた方が良かったのか。今になっては分からないけれど。
「何の話ですか?」
正木さんも体にタオルを巻いて現れた。重要な部分は隠していたからちょっと安心したような、残念な……い、いや、残念ではないよ!
「小山さんの体って良いよねって話」
「段々、意味が変わってきてない!?」
若干、卑猥な感じになってしまっている気が!
「じゃああれかなー、準にゃん良いよね、って話」
「そうですね」
「更に変わっ……えっ」
片淵さんの言葉に対し、ほぼ間髪を容れずに正木さんがそう答えてくるから、私の突っ込みが掻き消されてしまった。いや、ちょっと正木さんもノリが良過ぎませんかね!?
「ってその話はさておきー。準にゃんはお風呂入る準備出来たー?」
「え? あ、すみません、まだです」
「あ、まだ頭だけしか洗ってないとか?」
「いえ、まだ何も」
喋る方に夢中になっていたから仕方がないのだけど、まだ入ったときから何も変化がない状態。
「えー? しょうがないなー。よし、アタシが頭を洗ってあげよう! あ、紀子ちんは小山さんの体洗ってー」
「はい、良いですよ」
そう言いながら、丸出し戦法の片淵さんと隠匿戦法の正木さんが勝手にシャンプーとボディソープを取り、私の頭をくしゃくしゃにしたり、体をわしゃわしゃし始める。
「あー、あたしも参加したい」
私が「あー」とか「うー」とか言って、どう角を立てずに拒否しようか悩んでいるところで、岩崎さんが仲間外れに不満を言うのだけど、
「だったら早くシャワー済ませないとねー」
とニヤニヤ顔の片淵さんに返される。
……って、いや、私も自分で出来るんですがね?
それにね? 前後からわざとではないと思うのだけど、色んな感触があってね?
とても やわらかい なにかが ふれてます。
更に言うとね? さっきまでタオルで隠していた正木さんのグラマラスボディが、私の体を洗い始めてからは貝の中から生まれたヴィーナスみたくはだけて隠さなくなってしまっていてね?
ええもう、本当に、目の刺激が激しすぎます。男だとバレないように、女の子の裸から目を逸らさないようにしろ、って中居さんには言われたけれど、それなりに気がある女の子が、一糸纏わぬ姿で献身的に体を洗ってくれているなんて、それはそれはもう。
「あ、あの、自分でも出来――」
「いえいえ、大丈夫ですよ。小山さんはじっとしていてください」
私、こんなに意思の主張が弱かったかな、と自分自身首を傾げてしまうくらい、正木さんの即答に対して言葉を引っ込めてしまい、
「あ、えっと……うん、お願いします」
シャンプーが終わった片淵さんも、そのまま引き続いて私の背中を洗い始めてくれたお陰で、本当に私はメイドが全てしてくれるお嬢様気分で手持ち無沙汰になってしまったのだけど、これは仲良くなるための女子特有のスキンシップの一環だと考えることにして、私はじっとその状況が終わるのを待つ。もちろん、目の前のたわわな果実をたまに……たまに? 視線に入れてどきどきしながら。
「はい、オッケー。じゃあ、シャワー掛けるよ」
「ええ、お願いします」
……結局、目の前のエデンの園の果実にくらくらしていて、結局どれくらいお姫様タイムをしていたのかは覚えていないけれど、私は悪くないと思う。
既に頭が色んな理由からぼんやりしていたけれど、
「よっし、行くぞー」
岩崎さんの討ち入りみたいな声と、
「おー」
と脳天気に答える片淵さんの声で、ようやく現実に帰ってきた。ただいま戻りました。戻りたくなかった……気もするけれど。
相変わらずと言うべきか、岩崎片淵ペアが先頭を切って湯船に向かい、私と正木さんがその後を付いていくというおなじみのパターン。
ただ、あの観覧車の一件以降、今の体を洗ってくれるときもそうだったけれど、やけに正木さんの距離が近い気がする。物理的にも、精神的にも。
いや、気がするどころか、割りと歩くスペースがあるのに、歩を進める度に腕が触れ合うくらいを歩いている。近い、近すぎる。
もちろん嫌ではないのだけど、ようやく桃源郷から戻ってきたばかり。再度足を踏み入れたら戻ってこれないような気もするので、控えていただきたいとも思う。
もしかして、幼気な男の子に対して過剰なスキンシップで……ああ、そうだった、今はオトコノコデハアリマセンデシタネソウデシタネ。
うう、嬉しいような悲しいような。




