第7時限目 運命のお時間 その20
「うわ、結構広ーっ」
お風呂の扉を開けた直後、片淵さんが感動混じりの声を上げる。
「あまり銭湯とか行かないですか?」
「いやあ、行かないねー。……あー、えっと、ほら、お母さんがあまり銭湯とか好きじゃないからねー」
私の言葉に対し、片淵さんが突然言い淀んだので不思議に思ったけれど、
「……ああ、そういえば……」
ああ、“あの”お母さんか、と言い方は酷いけれど納得してしまった。偏見かもしれないけれど、あの何でも決めつけて話をするお母さんなら銭湯に行くなんて! とか言い出しそうな雰囲気はあるかもしれない。
銭湯の中は休みだからなのか、普段からこんなに多いものなのかは知らないけれど、結構盛況だった。
「んー、4人空いてるところ……あ、あった」
きょろりきょろりする岩崎さんが、足早にシャワーを4つ確保して、
「ほら、3人共! 早く!」
と少しぴょんぴょんとテンション高く、そして色々と隠さずに私たちを呼ぶ。
ま、まあ女同士としてお風呂に入ってるから仕方がないのだけど、もう少し色々隠して欲しいなって思う。女同士だとこういうものなんだろうか。
私は岩崎さんの隣に座り、シャンプーをしようと備え付けシャンプーを探す。
「あれ? ……あ」
視線を左右往復した後、隣の人が丁度使用中だったようで、足元に置いてあるのが見えた。
うーん、シャンプー中に悪いけれど、取らせてもらおう。
「すみません、シャンプーお借りしても良いですか?」
「ん? ああ、勝手に取ってってく……お?」
シャンプーで頭をわしゃ繰り回しながら泡を立てていた隣の女性が、目にシャンプーが入らないように片目でちらりとこちらを見て、言葉を止めた。
「なんだ、小山じゃねーか」
「え?」
疑問符を隣に送ると、シャワーで髪を流した女性がこちらに向き直った。
……ん? 誰?
眉毛が極端に少し細めではあるけれど、素朴系美少女というか、少し粗野な感じの口調とやけに反発し合う感覚。
見覚えは……うーん、ないようなあるような。
「何だ、メイク落としたら分かんねーってか? この前も寮で見たばっかりだろ」
「ん……? あれ、もしかして大隅さん?」
顔だけでは、私の脳内にある人物像比較機能では類似率30%程度の人が数人当てはまっていたけれど、ようやく口調と声色、そして話の内容から1人のクラスメイトに特定できた。確かにこの前一緒にお風呂に入った後、メイクを落とした顔を見たっけ。
うーん、大隅さんはメイクしなくても結構可愛いと思うけれど、彼女には彼女なりの考えがあるんだろうなあ。ちょっと勿体無い気がする。
「おうよ。……ってお前何で視線背けんだよ」
「い、いや……」
私の言葉に同意の言葉を返した瞬間、大隅さんがぐいっと胸を張ったものだから、ただでさえ自己主張の激しい2つの山が更に主張していて、もちろん少しも隠していないから、思わず視線がそちらに向いてしまって恥ずかしかったからなんだけど、そんなこと言えるはずもないので、慌てて大隅さんの顔に視線を向けて誤魔化す。
そういや、中居さんに裸を見て恥ずかしがりすぎ、と指摘されていたけれど、未だに治らないし、治る気がしない。
「そ、そんなことより、何でここに大隅さんが?」
「いや、そりゃこっちのセリフでもあるんだが。お前、何でこんなところに居るんだよ」
「え、ええっと……正木さんとか岩崎さんたちと遊びに来てて……」
複雑な女性同士の友好関係を考えつつ、でも私が素直にそう言うと、大隅さんも笑いながら答えた。
「なんだお前もか。あたしも中居と2人で遊びに――」
大隅さんの言葉を遮るようにして、
「こやまさーん、後でサウナに――」
「ほしっちー、髪留めちょ――」
私の、大隅さんとは逆隣から岩崎さんの顔が、そして大隅さんの背後から中居さんが現れた。それも同時に、あまり宜しくないタイミングで。
「げっ、中居……と大隅!」
「ありゃ、こやまんじゃーん? どったの、こんなところで?」
実に嫌そうな声が漏れ出た岩崎さんとは対照的に、私を見つけてすぐに後ろから抱きついてきて、そのまま私の作り物の胸を揉みしだく中居さん。
「ちょ、ちょちょっ! 中居さん!?」
「中居! 何してんの! 小山さんに!」
「えー? 良いじゃん、ただのスキンシップだしー」
この中で、唯一私を男だと知っている人物が1番無闇にスキンシップを図ってくるのだけど。後、貴女、全力で当ててますよね。
「何、岩崎もやりたいならやればいいじゃーん?」
にひひ、とちょっとお下品な笑い方で中居さんが言う。
「ふん! 別にそういうのじゃないし」
「じゃあ、どうゆうのー?」
からかうように言う中居さんにそっぽを向いて、岩崎さんがシャンプーを始める。それを見て、
「で、こやまんは何でここに居る系?」
と話を続けた。
「えっと、遊びに来た系」
「マジかー。こやまんも遊びに来た系だったかー。だったらジャングルプラネット来ればよかったのに」
「あ、2人は行ったの?」
あの噂の。
「行ったぞ。っつーか、あれでびしょ濡れになったからここに来たんだがな」
体を洗いながら大隅さんが答える。
「そうそう。バリヤバだったよ、アレ。星っち、敵倒すの失敗しまくるし」
「いや、あれはお前があたしの邪魔ばっかするからだろ」
「えー、星っちも結構外しまくってたじゃーん? 目の前に来たのを外すとかまじありえんてぃー。急に敵が来たので、みたいな?」
「お前が後ろの撃ち漏らしてばっかりだったからだろ!」
大隅さんと中居さんが掛け合い漫才みたいなテンションで話をしているけれど、なるほどこれなら確かに2人してやられても仕方がない気がするなあ。ちょっと見てみたかった気もするけど。




