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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その19

「ヤバイよ、準にゃん。真帆ちん、シートベルトしたままかも!」


 片淵さんの言葉にも焦りが滲み出ている。


「片淵さん! ボートに捕まっててください! 岩崎さん、探してみます!」


 私は返事も聞かずに、手を取っていた片淵さんの手をボートに掛け、慌てて川の中に潜り、転覆したままのボートの中に入り込む。薄暗いボートの中はほとんど何も見えないけれど、岩崎さんが座っていた位置、水中に人影の逆さ上半身らしきものがうっすらと見えるから、私は水の中を走って向かう。


「岩崎さん! 返事してください! 岩崎さん!」


 そんなことを私は必死で言うけれど、そもそも上半身は水中なんだから、聞こえていたとしても返事なんて出来るわけが無い。後から考えれば実に馬鹿らしい行動だけれど、冷静になっていたつもりの私もかなりパニックになっていたらしい。


 水中の岩崎さんはちゃんと意識があるみたいだけれど、どうやらシートベルトが外れないらしくバタバタしているから、何度か岩崎さんの蹴りを頭に受けつつも岩崎さんのシートベルトを手探りで外す。


 完全に外れたところで、岩崎さんがボートの外に飛び出したのが見えて、私もボートの外へ出ると酷く咳き込んでいた。


「ごほっ、ごほっ、ごほっ……し、死ぬかと思った!」


 ただ、咳き込む以外は案外ピンピンしていて、でもじたばたし疲れたのか、岩崎さんは私に抱きついたままじっとしていた。


「無事で良かったです」


「こほっ……ああ、小山さんのお陰で助かった、ありがと」


「いえいえ」


 って、そういえば正木さんと片淵さんは?


 まさか流されて!? と新たな不安が脳内をトビウオみたいに飛来しかけたところで、


「おーい、準にゃーん。真帆ちーん。こっちから岸に上がれるよー」


 と岸の方から声が飛んできた。良く考えれば、既に水の流れは止まっていたから流れされるわけもなかったのだけど。


 2人はどうやら既に岸に上がっていたみたいで、駆けつけていたスタッフの人と共にこちらを心配そうに見つめていたから、大丈夫だという意味を込めて私は手を振ってから、脇に岩崎さんを抱える。


「岩崎さん、岸まで歩けそうですか?」


「あはは……ちょっと、すぐには無理かな」


 言葉が示す通り、岩崎さんは私が抱きかかえていないとくずおれてしまいそうなくらいだった。


「分かりました。おんぶしましょう」


「……何から何まで悪いね」


「いえ、大丈夫です」


 そう言って、私は岩崎さんを背負って、ざぶざぶと水を掻き分けて岸まで来ると、上で待機していたスタッフの人が岩崎さんを引き上げ、続いて私を引き上げてくれた。


「真帆! 大丈夫?」


 正木さんが横になっていた岩崎さんに駆け寄る。


「あー、大丈夫大丈夫。すぐに小山さんが助けてくれたから。まあ、ちょっとばっかし水は飲んじゃったけど」


 片淵さんも横に座って、岩崎さんの肩を抱く。


「いや、無事で良かった、ホント、良かった。準にゃんが速攻で潜って助けに行ったお陰だねー」


「ねー。小山さん、ありが……ふあっくしょん!」


 岩崎さんが私に謝辞を告げようとしたところで、本人の全力のくしゃみが言葉を邪魔した。


「……ってか、流石に寒くない?」


「ええ、結構寒いです」


 まだ4月の終わりだから、海水浴にもちょっとどころじゃなく早いから、風が吹くとかなり冷える。


「あ、それなんだけど。ここの施設のお風呂とかシャワーとか使っても良いってさー」


 スタッフの人が差し出してくれたタオルで頭を拭きながら、片淵さんが言う。ああ、さっきのジャングルプラネット? に書かれていた場所のことかな。


「マジで? 良かったー。このまま帰るのかと思った。でも、着替えどうしようか。服は良いとして、乾燥待つまで全裸で待機するわけにもいかないよね」


 ようやく本調子に戻りつつある岩崎さんが至極真っ当な疑問を投げ掛ける。確かにこんなところで水浴びすることになるとは思っていなかったから、着替えなんて持ってきていない。ボートに乗る前に貴重品含め、全ての荷物を置いてきたから水に濡れて駄目にならなかったのが救いではあったけれど、着替えに関しては洗濯機と乾燥機が使えるとはいえ、下着無しで乾燥までの時間を過ごすかが問題。


「あー、それなんだけどねー。なんか、バスローブは借りれるみたいなんだよね。で、後女性専用の休憩スペースもあるらしいんだよ。だからさ、乾燥機で乾燥終わるまでは女性専用休憩スペースにバスローブ1枚で居るとかで良いんじゃないかなー? あ、お風呂が長引けばそれはそれで良いと思うけどねー」


 片淵さんの言葉に正木さんと岩崎さん、私が頷いて満場一致。


 ……いや、私はほぼ悩む時間なしで頷いてしまったけれど、男なんだから本来はためらわないといけないところだったりするのでは? そもそもその休憩ルームとやらは知らない女性とかも居るかもしれないし。


 だからといって、ここで男であることをカミングアウトするわけにもいかないので、結局バスローブ待機のパターンを実施することに。


 私たちが利用するお風呂やシャワールームはテーマパーク内に建っていて、どうやらその隣に建っているホテルの大浴場代わりも兼ねているようだった。


 ずぶ濡れの私たちはアトラクションの女性スタッフに付いていき、お風呂の最中に脱いだ服を全て洗濯してもらうようにお願いした。


 個人的にはシャワールームの方が、色んな意味で被害が少ないと思っていたから、シャワールーム推しをしたのだけど、どうせ服を洗濯するのにも時間が掛かるし、慌てて出る必要もないからお風呂にゆっくり浸かろうということに決定した。


 ああ、どんどん男生活が離れていく。男として生活を元に戻しても、間違えて女湯に入ろうとしたりしないかが心配になってきた。


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