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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その18

「ただ花を見るだけじゃ面白くなーい」


 シートベルトをされ、目を伏せたままそっぽ向いた岩崎さんが愚痴るのに対し、正木さんと片淵さんが苦笑する。


「もう、真帆ったら」


「まーまー、そう言わない。アタシもあんまり花のこと詳しくないけど、見るのは好きだなー。準にゃんはどう?」


 私も2人と同様、岩崎さんの態度に苦笑していたら片淵さんにそんな話題を振られたから、私も少し考えてから答えた。


「えっと……正直なところ、お母さんは割りと詳しかったんですが、私自身は全然分からないです。ただ、こうやって船に揺られて花を見ること自体は嫌いじゃないですね」


「なるほどねー、結構準にゃんって妙におっとりしてるとこと、凄くはっきりしてるとこが……っと、そろそろ出るみたい」


 私たちが話をしていたら、ゆっくりと小型の4人乗りボートが進みだして、私たちは一旦話を中断する。


 どうやらボートは前後に付いているロープで引っ張られているようで、左右には揺れるけれど思ったよりも大丈夫だった。


 そんな私たちが乗っているボートの中央前、私の右手辺りに現在の航路と左右に今見えている花の名前などが表示されているようだったから、


「ほら、今見えている花はガ――」


 と、私が岩崎さんに話題提供をしようと振り返った視線の先には、小気味良い揺れに体を任せつつ、すやすや夢の中を漂っている岩崎さんの姿。


「――って寝てる!」


 ま、まあ、険悪ムードよりは良いかな。


 それに、お腹がパンパンで苦しかったときから比べれば少しお腹に余裕ができた上、揺りかごというか、ハンモックというか、そんな心地よい揺れが重なっているから、確かにさっきから眠気に誘われてはいる。


「あ、ちなみに花の名前をタッチすると……こんな感じで説明も出るんだよね」


 後ろ斜めに座っていたはずの片淵さんがにゅっ、と出て中央のパネルを操作し始めた。


 ……あれ?


 シートベルトが外れてる?


 私の視線に気づいたらしい片淵さんは、私がいちいち質問しなくても言いたいことを察してくれたようで、


「あー、このシートベルト、結構簡単に外れちゃうんだよねー。シートベルトしてると花見づらいから、皆外しちゃってるし。ほら、あそことか」


 と言いながら片淵さんが指差すのは、十数メートル先を行く前の船のグループ。確かに誰1人として大人しくシートベルトをしている人は居なくて、身を乗り出しながらスマホで写真を撮っていたりする。


 良いのかな? いや、良くないと思うけれど、大丈夫かな?


「あ、ちなみにシートベルトは腰のバックル外せばいいだけなんだよね」


 そう言いながら片淵さんが1度シートベルトを締め、外す実演をしてくれる。


「ああ、なるほど。飛行機とかと同じようなものですか」


「そうそう。こんなに簡単に外れちゃうから、皆外しちゃうんだよねー」


 片淵さんの言葉に呼応する人がもう1人。


「私も外しちゃってます」


 正木さんが自分の腰回りを指して言う。


 おや、正木さんはこういうの真面目に守っている方だと思っていたけれど、でも良く考えればクラス分けの表を夜中の校舎に忍び込んで見に行くくらいだし、根っからの完全な真面目タイプではないのかも。


 どうしよう、自分も外そうかなと悩みかけたところで、


「うわあ!」


 と後方から岩崎さんの叫ぶ声が聞こえた。ああ、なんか悪夢でも見て飛び起きちゃったのかなと振り向くと、さっきまでお昼寝モードに入っていた岩崎さんが何故か頻りに手を振っている。有名人でも居たのかな?


「どうしたんですか?」


「は、ハチ! でっかいハチが居る!」


「え?」


 お決まりの疑問符で返すと、確かに近くをぶーんぶーんと凄い音を立てながら、黄色と黒の飛行物体が岩崎さんの頭の辺りをアーチでも描くみたいに飛んでいるのが見える。


 ……確かに結構大きい!


「こ、来ないでください!」


「うひゃあ!」


「このっ、このっ」


「わわ、暴れないで、暴れないでください!」


 何とか3人を宥めようとするけれど、私も目の前にハチが飛んできたから、身をよじって慌ててかわした。


 ハチは今度はぐるりと旋回して、私の隣りにいた正木さんの方からこちらに向かってくるから、正木さんが私に半ば体当たりするような形で胸に飛び込んでくる。


「こ、小山さんっ」


「正木さん!」


 私は船の縁に背中を預けるような形で、正木さんを抱きとめた。


 ……と、そのシーンのみを切り取れば少し感動的なシーンに見えなくもないのかもしれないけれど。


 そんなことをしたら船の片側に急に体重が掛かるわけで。


 そうすると、船はバランスを取れないわけで。


 バランスが取れなくなると、船は傾くわけで。


「うわああああああああっ」


 転覆。


 沈む中で私はさっき実践していたシートベルトの取り外しを即座に行えたお陰で転覆する船から直ぐに脱出出来た。片淵さんありがとう、助かりました。


「ぷはーっ、びっくりしたー」


「ぼ、ボートが転覆するなんて!」


 片淵さんと正木さんもシートベルトを外していたからか、同じく浮き上がってきた。ああ、良かった。


 どうやら、ボートが流れる川とは言ってもそこまで深くないみたいで、身長が150センチ無いと思われる片淵さんの顔が何とか出るくらいだった。ただ、ボートを流すためなのか、それとも演出のためなのか、流れがそれなりに強いから私と片淵さん片淵さんと正木さんが手を繋いで、私と正木さんが船を掴む形で何とか耐えられているけれど、このまま強い流れが続くとどんどん流されてしまうから、早くボートの上か陸に上がりたいところ。


「……あれ? 真帆? 何処?」


 正木さんの不安そうな声が聞こえて、私ははっとした。


 確かにボートの周りには私と正木さん、片淵さんの3人。岩崎さんの姿が無い。


 ……まさか!


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