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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その14

「小山さん、案外ウブだよねー。女同士なのに」


「まあまあ、女同士でも気になる人は気になるからねー」


 岩崎さんと片淵さんがコロコロと笑いながらそんな話をしているけれど、私としては明かせない事情があるから必死にもなる。


 一応、今居る席はフードコートの中では端っこも端っこ、垣根である程度仕切られた場所だから、よっぽど近くを通り過ぎないと何をしているか見えないけれど、そうは言っても誰も通らないわけではないから、もうこちらとしては心臓が1秒間に16連打されている気分。


 ……いや、既に正木さんとは事故とは言えガッツリといっちゃった過去があるけれど、そこはそれ、事故だからね! 今回も広い意味では事故の範疇に入るかもしれないけれど、女同士(という思い込み)の気軽さで事故を起こしてもまあいいや、とリミッターを外しているかもしれないからね。


「仕方がないなあ。んじゃあ、小山さんの言う通り、ハグでいいよ」


「……んー、仕方がないなー。にゅふふ、じゃあそうしようかー。ほはー、じゅんみゃん、ははふー」


 何か悪い笑顔の片淵さんがポッキーのチョコレート側を咥えて、多分急かす言葉を私に向けている、と思う。口にモノを入れて喋っても何を言っているか分からないのだけどなあ。


「う、うん……」


 片淵さんがそう言いながら、差し出した唇に触れないように気を付けつつ、反対側を咥えると吐息が掛かるくらいの距離に片淵さんの顔が。うう……そういえばキスがどうの以前に、こんなことになるって忘れていた。


「んじゃあ、スタート!」


 岩崎さんの合図に合わせ、片淵さんが徐々にポッキーのチョコレート領地を破壊し、私のチョコレート・プレッツエル共和国側へ侵食していく。私も食べ進めないとゲームにならないと思うから一応の進軍はするのだけど、意外と片淵軍の侵略が早く、私がチョコレート地帯へ、足ならぬ口を踏み入れたときには、既に相手は後数秒で唇同士が大激突するくらいまでの距離に居た。


「小山さん、全然進んでないよ! もっと攻めて!」


 外野から岩崎さんの煽りを受け、私も牛歩戦術的な感じにジリジリと少しずつ口を進めていくけれど、片淵さんがそれよりも早く進む。


 あ、そろそろヤバイかな、なんて思ったとき。


「んんっ!」


 ズキューン!


 そんな音でも付きそうなくらいに、全力で片淵さんの唇が私の唇を襲撃した。


 そう。明らかにポッキーが折れた故の事故ではなく、言うなれば、全力で、意識的に、唇を奪われたと表現すべき状況だった。


「……ちょ、ちょっと!」


 熱いベーゼで脳が数秒のフリーズした後、慌てて顔を離した私だったけれど、


「ふぃー、ごちそうさまー。色んな意味でねー、にゃはは」


 大満足、といった表情の片淵さんはいつもの笑い声を上げた。な、なるほど、さっきの笑顔はこういうことだったのね……!


「か、かかか、片淵さんっ!?」


 目をグルグル回しながら私がへろへろ声で私が反論を言う前に、正木さんが半ば叫ぶように言う。


「いやあ、準にゃんが戸惑ってるから、これはこっちからいかないと駄目なヤツだよねーって思ったんだよねー」


 キリッ、と謎のキメ顔で片淵さんが言う。何ですかそれは。


「ふ、普通、お、女同士でもキスって、恥ずかしくない、ですか!?」


 何とか出た私の言葉に、


「いやー、普通はまあそうなんだけどねー。何だろう、準にゃんはキリッとしたときと、ちょーっといじめたくなるようなときがあるからねえ」


 なんてあっけらかんという片淵さん。


「あー、ズルイ! んじゃあ、小山さん、次はあたしあたし! あたしがしよう!」


「既にキスするのが前提になってません!?」


 私の言葉に対し「何と仰るウサギさん」という表情の岩崎さん。


「そりゃ、この状況だったらそうじゃない?」


 ですよねー。


「都紀子が言いたいこと分かるんだよねー。ま、女同士だから気にすること無いって。あ、小山さん、都紀子とのがファーストキスだったとか?」


「にゃっはっは、それだったら悪いことしちゃったねえ。いや、アタシも女同士でしかしたことないし、セーフセーフ」


 いえ、特大アウトなんですが。


 まだ残っている片淵さんの唇の感触を脳内で思わず反芻してしまうけれど、


「早くー、小山さん」


 急かす岩崎さんの言葉で強制的に脳内をリセットできた。


 ……まあ、その岩崎さんが、今度は私の脳内をかき乱すことになるんですけどね!


 強制的に岩崎さんと向かい合って、新たなポッキーゲームが開始された。


 いや、待って。今度は早めに自分で折ってしまって、負けてしまえばいいんじゃないかな?


 そうしたら、ハグで済むかもしれな――


 ガリガリガリガリ……


「ひょ、ひょっと!」


 考え事をしていたら、向かいからげっ歯類並みの咀嚼速度で接近する岩崎さん。そして、ボールを持っている選手にタックルするラグビー選手みたく、一直線に進んでくる岩崎さんを回避する余裕なんて私にはなく、


「んんんー!」


 岩崎さんとも事故キスすることになった。


 ……これだったら、罰ゲームはハグじゃなくてキスにしてても全然結果は変わらなかったじゃない! と思うことすら出来ない私は、へろりへろりと机に突っ伏した。


「あらー、準にゃんのセカンドキスまで奪われちゃった?」


「でも、小山さんの唇、ちょっとカサカサしてたね。リップ貸そうか?」


「……い、いえ……要らないです……」


 うう、もう後戻り出来なくなった。


 いや、一緒にお風呂に入って、裸の付き合い(ただし私は防水パーツ付き)した後にキスくらいどうってことないじゃない、という人も居るかもしれないけれど、今回は身体的接触だからね! またちょっと違った意味で危険なんだよね!


 さて、ここまで来たらどうなるかと言えば――


「あれ、紀子はしないの?」


「え? あ、えっと……」


 話を振られた正木さんは、少し考えた様子で私を見つめてから、


「小山さん、困っているので……」


 と、しおらしく答える。うう、気にしてくれるのは嬉しいけれど、それはそれで残念なような……いや、別にキスすることが目的ではないのだけど!


「あっ、それよりもほら、もうパフェも無くなったけど、まだ直ぐにはアトラクションに乗るの難しいから、観覧車に乗らない?」


 そう言って、正木さんはテーマパークの一角に佇んでいる観覧車を指差す。一般的にイメージしている観覧車よりも少し小さいような?


「良いけど、あの小さいのって2人乗りじゃなかったっけ?」


 片淵さん同様、こちらも満足げな岩崎さんの言葉に正木さんは頷いて答える。


「そう。でも、ジャングルプラネットもフラワーリバーも船に乗るから、お腹いっぱいだと酔いやすいし、観覧車ならのんびり出来るかもしれないと思って」


「うーん……そーだねー」


 正木さんの申し出に私たちは首を傾げていたけれど、全員が最終的に頷いた。


 ……ああ、うん。やっぱり、正木さんは、そうなんだなあ。


 観覧車のサイズが小さいからか、私たちは少し並んだけれど、ほとんど待つこと無しに乗る順番が回ってきた。


 2人乗りというから、じゃあどうやって分けるのかなと思ったら、


「じゃあ、小山さん。一緒に乗りましょう」


 先にちょこんと乗った正木さんが言う。


 たおやかに、でも一切の拒否をさせない芯の強さも感じて、私は頷いて向かいに座った。


「あ、はい」

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