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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その10

 幾分か足取り軽くなった岩崎さんは、もうここに長いこと居たくないからか、


「小山さん、さっさと戻ろうよ」


 とストレートに不満を表現しながら私を急かす。


「そうですね」


「あ、小山さん。ちょっとだけ待ってもらって良いですか」


 扉に向かって踵を返した私は桜乃さんのお母さんに呼び止められた。私の視線が岩崎さんと桜乃さんのお母さんの間で往復していると、


「あ、お連れ様は……」


 と相変わらず前髪ロングのお母様は表情がほとんど見えないけれど、声色から少し表情を曇らせたと思われるからか、


「小山さん、あたし先に出とくよー」


 と空気を読んだ岩崎さんが足早に部屋を出ていき、それを追うように慌てて女性研究員が付いていった。


 2人が部屋を出て、扉が閉まったのを確認した桜乃さんのお母さんは、


「あの、胸パッドとおしりパッドの使い心地はどうですか? というより今も使われてます?」


 と早速ストレートな質問を飛ばしてきた。ああ、なるほど。この話題は確かに岩崎さんが居るところでは出来ないです。


「え? あ、そうですね。今も付けていますが、使い心地は悪くないです」


「そうですか、それは良かったです。私自身、ロボット用の人工皮膚の合成はやったことがあったんですが、こうやって実際の人間が使うためのものは初めてだったので、ちょっと心配だったんです」


「そうなんですか」


「あ! もちろん、私1人で作ったわけじゃなくて、ちゃんとこの分野の先駆者も呼んで、教えを請うてから作ってますから、大丈夫なはずなんですけどっ! 自分自身で作ったのは初めてだったっていうだけですから、安心してくださいねっ。ちなみに、今回の――」


 ああ、この人は何というか、所謂自分の趣味の話をするときには早口でまくし立てる系の人なんだなあ。こちらが口を挟む余裕がない。


 ずっと黙りこくっていた私の表情から困惑状態を読み取ったのか、


「あ、あっ、ええっと、すみません。勝手に1人で喋ってしまってっ! あ、あの、それはそうと、使ってて何か困ったこととか無いですか?」


「困ったこと……ああ、そういえば」


 入学当初は「絶対無いから大丈夫だよボーイ、HAHAHA」ってアメリカンな対応が出来た……いや、そこまでフランクには出来ないけれど、起こらないと思っていたことが現実となってしまった以上、困っていることはある。


「えっと……その、お風呂に入っているときに外れてしまうと困ることがあって、その、お風呂でも外れないように出来ないかなと」


「へ? ああ、それは構いませんよ。専用のリムーバーを使わなければ剥がれないようにするのはそんなに難しくないですが……でも何故ですか?」


「いえ、あの……」


「着脱式であれば、お風呂の際にお湯で接着剤を外して、綺麗に洗ってから再利用した方が衛生的には良いと思いますよ? サイズが大きければ寝るときに邪魔だから取り外したい、というのも分かりますが、このサイズなら私と同じなのでそこまで寝る際に邪魔にならないと思いますし。というよりも、比較対象が自分の胸しか無かったので、サイズ感とか含め、全て私のに合わせてあるんですが」


 今、さり気なく聞いてはいけないことを聞いてしまった気がするけれど、あまり言っている本人が気にしていないみたいなので聞かなかったことにしよう。エエ、キコエテナイデスヨ。


「お風呂で外れてしまうのが困るのは、他の女の子と一緒にお風呂に入るときくらいしかないと思うんですが……」


 ど真ん中ストレート! という言葉に、私は思わず反射でびくりと体を震わせてしまったのだけど、それを完全に見咎められてしまった。


「……いえっ、待ってください! まさか、まさかまさか、そうい、そういう、そういうことですか? ええ、ああ、分かりました分かりましたよ! そうですか、そうなんですねっ!? ま、まさかうちの娘のも見ました!?」


「い、いえいえっ!」


「まだですかっ! 私に似て控えめですが、悪くないと思いますよ!」


「お母さんが何言ってるんですか!?」


 この人はやっぱり何かおかしい! いや、何がおかしいというよりも、色々とおかしい!


「は、はあ……はあ……と、取り乱しました、すみません」


 大興奮だった桜乃さんのお母さんはようやく落ち着きを取り戻し、


「とっ、とりあえずっ! お風呂では剥がれないような接着剤はすぐに準備します。元々、色んなバージョンを作っていたので、試作品というか使わずに取っておいたものがありますので、すぐにお渡しできます。あ、でも一旦研究所に戻らなければいけないので、明日までに寮まで届けましょう。本当はみゃーちゃん経由が良いんですけど、彼女さっきも言った通り、中々会ってくれないですから」


 と言った。


「ああ、そういえばそうでしたね」


「美夜子ちゃんもうちの子と同じで、不器用ですがとてもとても良い子なので、仲良くしてあげてくださいね」


「そうしたいのは山々ですが……」


 やっぱり少し気難しいというか、どうしても1枚壁があるような付き合い方になってしまっている気がする。基本的には渡部さんを1度経由してじゃないと会えないから。


「んー……じゃあ、あの入り口のセキュリティに、小山さんの指紋も登録しちゃいましょうか」


「え?」


 突然の申し出に、私は目をぱちくりさせる。


「そ、そんなこと出来るんですか? というかしても大丈夫なんですか?」


「ええ、まあ。あの地下室のシステム構築には私も関わっていましたので、管理者権限がありますし。登録はちょちょいのちょいです」


 そう言いながら、空中でキーボードを叩く真似をする桜乃母。


「まあ、扉が開いたからといって、彼女が心から迎え入れてくれるかというのはまた別の話になりますが」


「そうですよね……」


「でも、ほら、雨降って地固まると言うじゃないですかっ! きっと、今はこうやってツンケンしてても、きっと最後には甘えて……くれると信じてるんですが……本当にしてくれる……かな……。最近、華奈香もあまりぎゅっとさせてくれなくなったし……反抗期なのかなあ……」


 何だか勝手にネガティブな波動を体から発し始めた桜乃母だったけれど、どうやらこの人の良いところはあまり悪いことを引きずらないことのようで、


「と、とにかく! お連れ様も待っていると思いますので、ここまでで! 新しい接着剤は寮長さんに渡しておきますっ! あ、後、また宜しくお願いしますねっ!」


 と言って、目を十分に隠した長い前髪のお姉さんは、部屋を出る私に破顔しながら大きく手を振った。


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