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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その9

「あれ、でもあの木のパズルはタワドラには無かったような」


 タワドラってさっきのゲームの略称かな? タワーオブドラゴンとかなんとか……正確な名前忘れてしまったけれど。


「ああ、それは私が入れましたぁ。ちょっとイベントがゲーム的に偏りすぎてたので、もうちょっと普通なイベントをと思ってぇ……」


「いえ、あれも普通じゃないですよ」


「えー?」


 心外という表情の女性研究員さん。いや、RPGのダンジョンイベントと比べればまだ現実的だとは思うけれど、一般的かというとそれは違うと思う。


「3分間で3つ何かを作るとかいうのは無茶ですし、何よりも友情運が上がる内容だとは思えないです」


「えぇぇ? 立体パズルで、あれくらいの内容だったら3分あれば十分ですよぉ? それに、1人でやるよりも2人でやった方が面白いと思うしぃ……」


 目を丸くした女性研究員に、私と岩崎さんも目を丸くする。良くある“自分が出来るものは誰でも出来る”し、”自分が楽しいものはきっと皆も楽しいはず”と思っているタイプの人ですね。


 私と岩崎さんの反応を見て、我が意を得たりといった表情の桜乃さん母。


「ほ、ほら! やっぱり難しいパズルだったじゃないですかっ!」


「でも、RPG的なイベントばっかりでも駄目ですよぉ!」


 また内輪もめというか、2人でわちゃわちゃ言い合いを始めたので、


「ストップストップ!」


 見兼ねた岩崎さんが止めに入る。


「とにかく! 良く分かんないけど、今回のアトラクションは終わりでしょ? もう帰って良い?」


 むすっ、とした岩崎さんにあわわ、と桜乃さんのお母さんと女性研究員は慌てる。やっぱり岩崎さんはご機嫌斜めモード。


「え、ええっと、も、申し訳ないです! か、かくなる上は、か、体で支払――あいたっ」


 桜乃さんのお母さんの言葉が止まったのは、反射的に出された女性研究員のチョップが入ったから。反応が早い……もう想定してたのかな。


「うう……痛い。な、何でですか!」


「主任。ボケるにしてももうちょっとやり方があるかと」


「ええ? ボケじゃないですよっ!」


「そもそも女同士でそれを対価にするのは無いと思いますよぉ」


「いえ、ここには別に女だ、け……じゃ……あっ」


 最初はハキハキとしていたのに、途中で言葉がブチブチと切れたのと、私を見たときのしまった感溢れる表情で、この人も理事長さんや益田さんみたいに私の性別を忘れていた、いや今回は逆に正確な性別を覚えていたパターンだということが見て取れた。


 ……いや、あれ?


 私、そもそもこの人に自分が男だってバラしたことあったっけ?


 でも、そういえば「全部分かってますから!」って言葉の疑問が棚上げ状態だったのだけれど、ああやっぱり全部分かっているというのは、私が男だって知ってますから! の意味だったんだ。


「と、とと、いうことで、えっと、そういうのは、冗談としてですねっ、えっと……えーっと」


 言い繕いながら部屋を飛び出し、再び戻ってきた桜乃さんのお母さんが手にしていたのは、おそらく本人のものと思われる鞄で、その中身をかき混ぜるようにしながら、財布と思われるものを取り出した。


 ……もしかしてお金払うので、みたいな展開?


 お金で解決! というのは流石にそれはちょっと、と思って断ろうと言葉を準備したところで、


「私がお渡し出来るものといえば……このラブラブパフェの引き換えチケットくらいしか……」


 と言って差し出されたのは1枚のチケット。中身はこのテーマパーク内のフードコートにあるアイスクリーム屋で食べられるパフェの引換券だった。


「こ、これで許してもらえないですか……?」


「えっと、まあ――」


 紙幣を裸で渡されるのかという心配をしていた私が、安堵と共に苦笑いで答えかけたところで、


「ちょ、ちょっと見せて!」


 突然岩崎さんが桜乃さんのお母さんが差し出したチケットに駆け寄り、穴が空くんじゃないかってくらいに視線を注いだ。


「ど、どうしました、岩崎さん」


「……す、凄い凄い! これ、超限定のラブラブパフェじゃん!」


「え?」


 半ばひったくるようにしてチケットを受け取った岩崎さんを見ながらの私の短い疑問文に、桜乃さんのお母さんが答えてくれる。


「あ、えっと、さっき受けて貰った友情の館と同様に、恋愛の館というものがあって、そこでカップル同士の恋愛運90%以上、かつ出されたアトラクションを高得点でクリアしたときにしか貰えないチケットです」


 何か、そう聞くと逆にむしろお金を直接渡されるよりもレア過ぎて貰うことに気が引けてしまうのだけれど。


「貰って良いんですか?」


「ええ。これはこの新しいソフトを使った試験でここに初めて来た際、テーマパークの管理会社さんから頂いたものだったんですが、私は生クリームがあまり好きじゃなくて……ですね」


「じゃあ、そちらの方は……?」


「甘いものは苦手なんですぅ」


「そ、そうですか……」


 だったら、確かに宝の持ち腐れというか、ちょっと勿体無い気もするし、何よりも下手に拒否するとまた脱ぐとか言われそうなので、


「それでは頂いておきます」


 と頷いた。人間、素直が大事ですね。


「あ、あのっ、もし良ければ、またテストに参加してもらないですか……?」


 恐る恐る私たちに尋ねる桜乃さん母。


 この状況でこう言える桜乃さんのお母さんはある意味肝が据わっていると思う。下手すると岩崎さんが怒って暴れ……はしなくても、冷たい視線を返されそうなのに。


 私が岩崎さんに目配せすると、ちょっと苦笑い気味の視線を私に返しつつ、


「ま、あまり痛いのじゃなければねー」


 と言うから、私も便乗して、


「ちゃんと調整してからであれば構いませんよ」


 と答えた。まあ、私自身はさほど苦労もしていないし、拒絶する理由もあまり無いから。


「わ、分かりましたっ。大丈夫です、今度こそ、今度こそは!」


 ぐぐぐっ、と拳を握りつつ、そんな決意の言葉を言う桜乃さんのお母さんだったけれど、本当に大丈夫かなあ。

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