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あー・ゆー・れでぃ?!  作者: 文化 右


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第7時限目 運命のお時間 その8

「“ドリームスタディ”は教師なし系なんですから、多めに学習データを突っ込んでおかないとぉ……」


「だ、だって、AIなんてやったことないのに立ち上げ2ヶ月って言うしっ、今の仕事と掛け持ちだしっ、そもそも“ドリームスタディ”は――」


「あのー……」


 何やら受付のお姉さんと桜乃さんのお母さんとの間で専門用語が飛び交い始め、「あ、これ話を始めたら止まらないヤツですね、分かります!」と豆電球を頭に点灯させた私は、慌てて2人の会話を遮った。


「は、はいっ」


「な、何でしょうかぁ?」


「いえ、全く話が見えないので……」


「ああ、ああ、すみませんすみませんっ。えっと、彼女は私と同じ部署の研究員で、一緒にこのAIアトラクション選択の設定をしてもらっていました」


 やはりこの人も共犯だった。ギルティ!


「と、いうことは、受付をされていた時、私たちにあれだけ驚いていたのは、こうなることが分かっていたからですか」


「ええ、まあそぉです、はい。こ、ここまで酷いとは思ってなかったです、でも」


 桜乃母と共に項垂うなだれる女性研究員は、しおしおと1週間くらい水をやるのを忘れたパンジーみたいになっていた。


「だ、だって、私、専門は高分子化学なんですよ!」


「ですからぁ、大山さんが言っていたじゃないですかぁ。美夜子ちゃんに、ちゃんと、ちゃぁんと、聞いて作りなさいってぇ」


「でも、美夜子ちゃん、ここのところ全然会ってくれないんですよっ!」


 2人共、お互い駄々っ子パンチみたいにグーを上下に振りながら言い合いしているのを、私と岩崎さんはジト目でその光景を眺める。


「小山さん……」


「何も言わないであげた方が良い気がします」


「……はあ」


 それにしても、受付の人……じゃなくて、女性研究員さんは完全に間延びした喋り方にシフトチェンジしている。最初会ったときは、噛んだ時以外それなりにキリッとしていた感じだったけれど、あれかな、最初は目一杯できる女感を演出していたのかな?


 そんなことを思いながら、2人の話を聞き流していたけれど、途中で聞き覚えがある名前が何度も繰り返し出てきて、私ははたと思いつき、再度2人を遮るようにして言う。


「あれ、美夜子ちゃんって、まさか……」


「え? ……あ、ああ、ああ! そうです! 小山さんは知ってるかもしれないですね。西条学園の地下に住んでいますし」


「あの美夜子ちゃんですか」


「そうです! あの美夜子ちゃんです! あの子が作った“ドリームスタディ”というAIソフトを使って、今回のシステムを作ったんですよっ」


「桜乃主任、“ドリームスタディ”って学習方法の名前でぇ、確か実際のソフト名は“みゃーぶれいん”とかじゃなかったですかぁ」


 間延び研究員女性が机の引き出しからノートパソコンを取り出して電源を入れつつ、そんなことを言う。


「そ、その名前は流石に恥ずかしいから……! と、とにかく! 何分新しいソフトと試みだったので、まだ正式導入は出来なくて。実用に耐えうるレベルまで、ここで試していたんですよっ」


「ちなみに、友情の館のアトラクション選択はまだ古いソフトを使っているんですけどぉ、お客さんからアトラクションのパターンが大体読めてしまって面白くないって言われて。だからここの社長がお客さんがあっと驚くようなアトラクションを! とか言い出したんですね。正直、物理的な配置からアトラクション数自体が限られてしまうから、そんな最適化出来ないんですけどぉ」


「ちょ、ちょっと、分かっててもそんなこと言わないの!」


 ああ、この人達も色々大変なんだなあ、なんてことも思いながら、


「友情運が低い人を選んだのは?」


 と1番聞いてみたかったことを尋ねる。


「最初から友情運が低い人同士なら、何かあってもこれ以上友情運が下がらないから大丈夫かなと思って、ですね……」


 視線を逸しながら桜乃さんのお母さんがどもりながら言う。ああ、うん、何となくそうかなって思ってました。


「本当に、ご迷惑お掛けしてすみませんっ」


「いえ、まあ……」


 お辞儀する人形みたいになった桜乃さんのお母さんから岩崎さんの方に視線を動かすと、完全にツンモードに入ってしまっていて、全く謝罪を受け入れる素振りも見せない。まあ、若干の自業自得感があるとはいえ、1番の被害者は岩崎さんだしなあ、と私は苦笑いした。


「……あ、それで、みゃーちゃん、どうしたんですか?」


「あ、え? ああ、ええっと、ここ数週間全然部屋に入れてくれなくて。ソフトの調整がまだ必要だから、色々聞かないといけなかったんですが、なんでしたっけ……吸血鬼がどうこうとかがあって、それ以降塞ぎ込むようになってしまって」


「吸血鬼騒ぎ……」


 そういえば、確かにあれが終わってからみゃーちゃんから呼び出しが無くなったし、関わりも急に減った気がする。単純に、まだ十分に心を開いてくれていなかったからだと思っていたけれど、今まで仲良くしていた人とさえ距離を置くようになっているみたいだし、心配になってきた。


「なので、とりあえず友情度0%の組が出て来るまで、まだ余裕があるかなと思っていたんですが……いえ、すみません、言い訳ですね」


 ふむ、と呟きながら、まだ聞きたいことは残っているから、私は質問を続ける。


「岩崎さんがさっき言ってたみたいに、危険なイベントがいっぱいあったのは?」


「え、ええと……」


「主任が好きなRPGゲームを参考にしたからですよねぇ」


「ちょ、ちょっと!」


 にひひ、と笑う女性研究員に顔を赤くして反応する桜乃さんのお母さん。


「……なるほど」


「イベントがRPGダンジョンのトラップを参考にして作られているから、今回みたいなのになってしまったんですぅ」


「もしかして、タワーオブドラゴンキングとか?」


「あ、良く知ってますね。そうそう、そうです」


 話に付いてこれていなかった様子で、いじけていた岩崎さんがここぞとばかりに話に入る。そういえば、弟さんがゲームするって言ってたけれど、仲間が居たことに反応したのか、桜乃さんのお母さんの表情が目に見えて喜びに変わる。


「あたし、自分では4しかやってないですけど、弟が1から全部やってて、見てるんで知ってます」


「え? ホントですか? 良いですよね、4も。私は3が好きです」


「私は、やりこみ出来る5が好きですねぇ」


「ミニゲームが――」


「キャラクターは――」


 女性3人でゲーム談義に花が咲いてしまったようで、よく話が分からない私はぽつねんと立って話から弾き出されてしまった。


 ま、まあ、岩崎さんの機嫌が直ったから良しとしようかな、うん。……寂しいけど。


2017/10/25 誤字修正

「確かにあれが終わってからみゃーちゃんから呼び出しが亡くなったし、」

「確かにあれが終わってからみゃーちゃんから呼び出しが無くなったし、」

亡くなったらアカンですね。初歩的な誤字です。

ご指摘いただきましたので、修正しました。

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